138・割と重要な話
「ヴェラ様寝てしまいましたわ」
ケーキを食べた後、ヴェラの部屋に移って雑談をしている最中にヴェラが眠くなって寝てしまった。
ソファに横たわったヴェラをシャウラが膝枕してくれている。スマホがあったら撮って待ち受けにしたい。
「ふふ、可愛らしいですね」
ミラがヴェラを覗き込みながらクスッと笑った。
「ヴェラ様は朝早くに起きて来られましたから」
ユピテルのその言葉に少しだけ納得した。前から今日のことを計画してたなら、わくわくして早く目が覚めてしまったんだろう。
ちなみにヴェラたちの作ったケーキは母様と父様にもお裾分けされたらしい。休憩中にケーキを差し入れされた父様は泣きながら食べていたらしい。
あの人も本当に大概親バカというか娘バカなんだよな…。
まあヴェラはこの世に舞い降りた天使なので仕方ないか。
「…、そういえば、ついでにリギル様にも伝えたいことがありまして」
「伝えたいこと?」
「…はい。聖女様や精霊に関しての話です」
それに思わずぴくりと反応した。ミラが言う話ということは精霊から聞いた話に違いない。
つまりここからわりと大事な話だ。
「まず、私のギフトについてですが…精霊との会話は二日に一時間ほどが限度です。なので聞きたいことは割とまとめてから聞かないといけないので時間がかかってしまいました」
「まあ、二日に一時間…、それが能力の限界とかですの?」
シャウラの言葉にミラが首を振る。
「いえ、どうやら精霊側の問題みたいです。人間に力を与えるために空にある本体から分身を寄越しているんですが…、本来なら分身では会話が無理みたいで…分身と言っても意思のあまりない力を分けるためだけの意識だけの存在らしく……、まあ正確にはカメラ?端末?目みたいな存在、ですかね…?」
「星が精霊の本体、って言ってたもんね…」
分からない話ですよね、とシャウラにミラが言うと、シャウラは大丈夫ですから続けて、と微笑む。
前世の言葉を使う以上仕方ないよな。
しかし、精霊の本体は星、というのはハダルから初めて聞いたことだけど、ハダルも諸々はあの場でギフトを試したミラに聞いたことだったんだろう。
人間の側にいる精霊は離れた場所から人間を見守る、魔力を与える為だけのものか…。
「そもそも、精霊の言語と人間の言語が違うので意思疎通自体難しいんです。それを無理に翻訳してるので…長くもたないし、多少のラグもあります。本来会話に使わない意識体を会話に使うのでキャパオーバーというか……、まあ精霊にも限界があるってことですね」
「…ラグがあるんだ…」
精霊も万能じゃない。色々人間のことに関わっているとはいえ、神に近くても神ではないから。
だからこそこうやって僕らを生まれ変わらせたのだろうか?
「ええと、ギフトというのがどういうものかは以前もお話しましたよね?」
「ああ、うん」
初期設定で没ネタ。以前ミラがそう言っていた。
そして、毒という意味もある、つまり便利なだけな力ではないかもしれないと。
そういえば人目を避けてミラと情報共有するために使っていた温室、最近は行かなくなってしまった。
「ギフトは本当の“精霊に愛されし者”のために神が与えた力みたいですが…、どうやら逆に何かを代償にしなくてはいけなかったり、何かの埋め合わせの神からのお詫びみたいなものらしいんです」
「は?お詫び?」
「はい。というか、正確には元々は欠陥に対する埋め合わせで、故意に与えるなら逆に欠陥も無ければいけない、といったとこでしょうか。例えばハダル様は“女子”なのに“男”に転生してしまった。ヴェラ様は“魔力枯渇症”という病気…」
ミラが胸に手を当てながら説明した。ハダルは“精密鑑定”の代償に男に生まれ変わった、ヴェラは“魔力枯渇症”という本来避けられない病気を避けるための能力での埋め合わせ。
精霊が与えるスキルや魔力と違い、逸脱した力である神から与えられるギフトはハンデが何かしらあるということが決まりらしい。
そしてミラと聖女は……、
「生まれ変わるはずの身体が逆になってしまった、ですかね」
「えっ、つまり……、ミラ嬢が聖女に生まれ変わるはずだったってこと???!」
「そうなりますね」
ミラは冷静に言うけど結構衝撃な話だぞ…!?
つまり精霊側のミス??え、いや、でもどうなんだろ??
というか生まれ変わり自体本来は神の仕事では?神ギフトあげるよーしかしてなくない???
いや、まあこの世界では精霊の仕事なのか。
「精霊はどうやらこちらに生まれ変わってしまうと魔力やスキルを与える以外に大した干渉が出来なくなってしまうみたいです。だから神がギフトを埋め合わせに与えたのだと言っていました」
干渉が出来なくなる、という言葉が引っかかった。
出来なくなる、とはつまり、生まれ変わる前ならできた、ということだろうか?
ユピテルが以前言っていた事が頭に浮かんだ。
「…以前ユピテルが、精霊は未来視を持っていて先を知っているから、予言書は精霊が作って僕たちに与えたものじゃないか(要約)って言ってたんだけど…、つまり干渉ってそれかい?」
「…、驚きました、その通りです。私たちに運命を変えさせるため、精霊は生まれ変わる前に干渉していました。乙女ゲームという形で。そして、記憶を残し、生まれ変わってから力を与える、そうして私たち自身で運命をなんとかさせようとしたみたいなんです」
ユピテル様さすがですね、とミラがユピテルに笑いかける。ユピテルはいえいえと謙遜している。
ユピテルの考察はだいたい当たっていたらしい。
「そして、そうした中で行き違いがあり、ミラの中身とアンカの中身を逆に転生させしまった」
「じゃあ、ミラというキャラはゲームでは“精霊眼”じゃ無かったのは…」
「…、実は精霊は“精霊に愛されし者”以外にもあちらの世界から魂を連れてくるみたいなんです。それで、間違えてアンカ様の身体に違う魂を入れてしまい…、残された私の魂をやむなく、ミラの身体に入れました。アンカにはバッドエンドもあるので記憶を残すのは元々の予定だったみたいですが…」
ミラの魂を守るため、ミラにギフトを、アンカの身体を守るため、アンカにギフトを、ということらしい。
部下のミスに上司がギフトで埋め合わせをしたってこと?
僕は思わず頭を抱えた。先を見通して“精霊に愛されし者”の運命をいい方に変えようとしていた精霊がそこを間違えるか普通?と……。
結構重要なことだと思うんだけど、魂の取り違えとはマジで信じられない。
「ゲームを前世で今のアンカ様がやっていたからゲームの記憶があったことに加えて、魂の質、が似ていたらしいです。アンカ様ももう少し精神が成熟していればミラの身体でも“精霊に愛されし者”になってたと精霊が言ってました」
「…、つまりやっぱり本来は違うってこと?」
「今のアンカ様がミラの身体に生まれ変わっていたら、“精霊に愛されし者”では無かったでしょうね。血筋と魂のできれば両方が必要なので、今のアンカ様が“精霊に愛されし者”なのは血筋が強かった、ってとこでしょうか」
そもそも、何故血筋と魂にこだわるのか、それはつまり、親和性、らしい。
精霊と近しい、精霊の魔力を受け入れやすい、そういった魂と血筋がそれぞれあって、両方の親和性が高い、もしくは片方が多少劣っていても、魂か血筋のどちらかの親和性が高ければ劣る方の足りないぶんを補える。
そして総合値がある程度超えると“精霊に愛されし者”となるらしい。
もちろん親和性が高い人間は精霊には可愛いし、本当に好きだと言う。精霊に愛されし者が生き延びることは精霊にとっても人間にとっても重要だ。
そして、ミラと聖女についてミラの言いたいことはこうだ。
魂が多少劣るとはいえある程度親和性が高かったこともあり、今のアンカの魂でも親和性がかなり高い血筋が補って“精霊に愛されし者”、聖女になった。
ミラの場合は魂の親和性が血筋の足りないぶんを補うくらい強かった。だからミラも“精霊に愛されし者”になった。
でも、精霊に好かれる…もとい、親和性が高い血筋というのは“貴族”そして“王族”のもので、平民に聖女が出るのは魂のほうが相当重要だからということだと僕は思っていたのだけど…。
「…、アンカ・オルクスってさ、元は平民だよね…?」
僕の問いかけに、ミラはニッコリと微笑んだ。なんだかその笑顔に嫌な予感しかしなかった。
なんか、こう……、そう、影が見える。
魂の親和性がミラの身体で足りないなら、平民のアンカが精霊に愛されし者になるはずはなかった。アンカは恐らく親和性の高い、少なくともミラより親和性が高いと思われる血筋の…魔力が強い、つまり位が上の方のどこかの貴族の…、
「アンカ・オルクスは国王の隠し子です」
息がヒュッと止まった気がした。間違いなく、今日一番の爆弾だった。
そして王太子アルファルドルートや第二王子アルメイサンルートを思い出して、ヴェラを起こさないように心の中で叫んだ。
近親相姦じゃん!!!!!!!!!!よりによって!!!!!!!




