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137・お菓子作り女子会

「ぶっちゃけ物語の中に転生した、なんてそう簡単に受け入れられる訳ないんですよ」


ミラがそう言ったのは生クリームを混ぜなからだった。

氷魔法で(僕が)作った氷で冷やしたながら泡立て器でシャカシャカ混ぜている。


「私は前世寝たきりだったので生まれ変わって嬉しかったですし、シャウラ様を幸せにしたいって目標ありました」


生クリームがホップクリームになっていく様をヴェラがキラキラした目で見つめている。

シャウラはオーブンにいれた生地を焦げないように見張っていた。


「リギル様にはヴェラ様がいたでしょう?彼女には何も無かったんじゃないでしょうか?…それどこか、前世に未練があってはゲームの世界だと思うことで自衛をしても仕方ないと思うのです。まあやったことは最低ですけどある程度防げましたし」


「うん、それはまあ確かに僕もそう思うよ。…ところで僕ここにいてよかったの?」


休みの日、お兄様今暇ですか!とヴェラに元気よく引っ張られた先は新しく出来た調理室だった。

ヴェラが最近お菓子作りにハマってると聞いた父様がヴェラ専用の調理室を作ったのだ。親バカである。

この前まで厨房の一角を借りてたから、まあ使用人や料理長も気を遣うし、悪くはないけど。


ヴェラが使う調理室、ということでキッチン用品や何やらはパステルカラーで可愛く、ヴェラもめちゃくちゃに喜んでいた。

嬉しくなって見せに来たのだろうな、と思っていたのだけど、まずお菓子作るので見ててくださいね!と調理室の端っこに座らされて、ん?となり、ユピテルがミラとシャウラを連れてきて更にん??となった。お菓子作り女子会らしい。


いや、まじで何で僕ここにいるんだ?????


「リギル様、私もおりますよ」


僕の隣で立っていたユピテルが優しく笑いかけてきた。

いや、優しく、というかこれはもう諦めの顔である。

最近お菓子作りのたびにヴェラに付き合わされているユピテルは諦めの境地に達したらしい。


「出来たらお兄様も食べるからです!」


「リギル、甘いものお好きでしょう?」


ヴェラとシャウラににこにこ笑顔でそう言われてしまえば、文句は言えない。とてもかわいい。


「女子会なのに…」


「リギル様はギリギリ女子ということでは?あ、私は空気だと思っていただければ」


誰がギリギリ女子だ。ぶん殴るぞ。


「しかし、シャウラ様、お友達になろうなんて大胆でしたね」


「あの時はあれしか思いつかなかったんです。ちょっと無理矢理でしたわね」


シャウラがそう言いながら振り向くと、苦笑いをした。


「私はリギルやリオ様、お兄様…、ミラにヴェラ様、お友達やたくさんの身近な方に助けていただきましたわ。だから彼女にも友達が必要なのではと思ったのです。そうしたら少し、楽になるのではと」


僕もヴェラが一緒に転生してきて無かったらどう気持ちが変わっていったか分からないし、ユピテルがいなかったら一人で勝手に追い詰められていた。

シャウラが居なかったら、他人を好きになる気持ちが分からなかったかもしれない。

僕だって周りの人間に助けて貰っていたのでシャウラの言っていることはすごく分かる。


ずっと一緒にいたカフだって多少の情が聖女にあれど、手助けは一切してこなかったはずだ。そういう立場だから。

そう考えると今まで彼女の味方はいなかったに等しい。


「そういえば、聖女の話はハダルにも手紙で伝えたんだけど、国から逃亡するならタラッタ王国にしたら?って。逃亡先の手配はしてくれるらしいよ」


「まあ、それなら少し安心ですわね!」


シャウラがぱあっと笑顔になった。

シャウラはシャウラなりに聖女のいく先を心配していたらしい。優しい。推せる。


「まあ、まだ聖女の同意は貰ってないんだけどね」


ため息混じりにそう呟くと、みんな黙ってしまった。

そう、そうなのだ。あの後聖女は黙ったまま拗ねてしまい、会話が出来なくなってしまった。

その為仕方なく、その場はお開きになり、また話し合いをする運びになって、カフがまた必ず話し合いの場に連れて参りますと言っていた。


「こちらはわりと話が進んでますが…、聖女様に説得できる隙があるならやはり説得が先ですね…」


ミラの呟きに僕は頷いた。聖女のあの様子だと、もう少ししっかり話し合えば国外逃亡について同意を貰えるんじゃないかと思っている。

国際指名手配、なんてモノはこの世界にはなく、刑の一つに国外追放なんてのもあるくらいなので国の外に出てしまえば大丈夫だろう。

関係ないけど国外追放って結構無責任だよな…。


「さて、そんなこんな言ってるうちにケーキの完成です!」


そう言ったミラの前にはいつのまにかお手本のような苺と生クリームのホールケーキが出来上がっていた。まじでめちゃくちゃ綺麗で売り物みたいだ。

ミラの作成スキルめっちゃ高くない?


「難しいことはとりあえず置いておいて、皆でケーキ食べましょう」


ミラがそう言っているうちにユピテルが調理室の一角に設けられた飲食スペースで食器を並べている。

ミラがカットしたケーキを運んでテーブルの中央に置くと、みんなで席に着いた。

私は毒見だけですので…と言うユピテルはヴェラ無理矢理座らせた。

未だに毒見という建前を取っているユピテルを気遣って、ユピテルが確認してからみんなで食べる。


「ん、美味しいね、売り物みたいだ」


「やはりミラは料理が上手ですわね」


「今日は女子みんなで作ったんですから女子全員の功績ですよ」


「ミラ様は手際が良いです!」


わいわいしながらみんなでケーキを口にする。

前世でよく買っていた既製品みたいですごく美味しい。

甘さも程よくイチゴも美味しい。この世界の果物は本当に美味しいんだよなぁ。


ユピテルも黙々とケーキを食べているので気に入ったらしい。


「ミラはレシピも色々知ってますわよね、前世の知識ですか?」


「はい、よくレシピ本も読んでました。生まれ変わってからだいたいの記憶でレシピをメモして、実家に居た頃色々作ってたんです。ですから作るのも慣れてきました」


よく読んでたとはいえ、ミラは色々細かいところまで覚えているので元から結構頭が良いのかもしれない。そして手先が器用なのも。


「このレシピ、知らないお菓子も沢山あります」


ヴェラがミラに貰ったレシピ帳をぱらぱらしながらそう言った。その様子をみて微笑ましくて僕はクスッと笑う。


「そういえば、リギルから聞きましたけど、小さな機械で物語が読めるのをげえむと言うらしいですわね。他にも色々なタイプのげえむがあったとか。説明されても全然想像出来なくて、文化や文明が全然違ったんですのね」


「魔法、ありませんでしたしねえ…。似たようなものがあっても多少違っていたり…」


さっき使ったオーブンも見た目も原動力も違う。

だいたいの(前世で言う)電化製品は魔法を原動力にしている。魔石が埋め込まれていて魔力が切れたら魔石を交換する。まあ電池みたいなものだ。


ケーキを食べておしゃべりして、和やかな時間が過ぎていった。


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