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133・古の魔族の技術と…

「凄いですね、コレ。この小さな粒に術式が組んであります」


ユピテルが調べるためとレグルスから預かった小さな魔石をユレイナス邸に持ち帰る途中の馬車の中でしげしげ見つめながら感心ぎみにそう言った。


「え?どういうこと?」


「魔道具の応用ですよ」


「ええと、つまり魔道具に使われている魔宝石みたいにこの小さな粒…魔結晶に文字が刻んであるの…???」


「そのようですね」


「どうやってやったんだろう…」


この魔石、もとい、魔結晶、ビーズサイズ…といってもビーズにも色々あるのでもっとわかりやすく言うと米粒くらいの大きさだ。

こんな小さな魔結晶に文字を刻むなんて、これが才能の無駄遣いってやつか。

魔力暴走を起こす際、魔族がやったなら魔力に繊細な命令をしただろうとされていた。魔法の技量が必要だ。

だから並の魔族ではないだろうということだったのだが、この魔結晶があればその繊細な命令が刻まれているので、魔結晶を埋め込む側の技術はいらなくなる。

ちなみにこういう魔力で出来たものは上手く押し込めば身体に取り込まれるらしい。


「…なるほど、コレがあったから操られた魔族でも

魔力暴走を起こせたんだ…」


「みたいですね。操るのが魔族なのは、魔法を使わせるため、ではなく…、操れるからでしょう。人間は無理矢理操れませんから」


まあ人間を使うなら雇うって手もあるけど、この魔結晶は人間には毒だからなぁ。

ちなみにこの魔結晶はレグルスやエルナトが上手く活用せよと古の魔族から貰ったものらしい。

レグルス曰く、レグルスは全く手を付けてないらしいのでエルナトが使ったのだろう。


「古の魔族はやはり厄介ですね、こんなものを作れるなんて」


「ぶっちゃけこれ流通されたらやばいよね」


ユピテルの言葉に頷きながら言った。

裏社会で魔力暴走を引き起こせる魔結晶が流通なんて考えたくも無い。怖すぎる。


「ええ。まずいです。ただ人間はまともに触れないとは思いますから、そう簡単には流通しないとは思いますが…。体調が悪くなるでしょうしね」


「…こんな小さな粒でも悪くなるんだね」


ユピテルの持つ魔結晶を見つめる。魔結晶はユピテルの手のひらの上できらきらと輝いている。


「まあ、気持ち悪いとかで済むくらいですよ」


吐き気がするとかそんなもんだろうか。ユピテル曰く、袋に入っていても影響は及ぼすらしい。

ヴェラの浄化スキルがなかったら、僕だって今ごろ魔結晶酔いしてたかも。


「王族を殺す作戦が失敗したら、これをばら撒かないとも限らないから、流通させないように対策しておかないとね」


「ええ、その方がよろしいかと…」


「…しかし、浄化スキルで魔力も浄化できるとはね…」


魔族の魔力が人間に毒だから魔力の有毒部分だけ浄化できる、というのはちょっと予想外だった。

でも普通の浄化がそんなことは出来るとは聞いたことはないから普通のスキルにはない、ギフト特有のものなのかもしれない。


「……実は私は気付いていました。ですが確信がなかったので、話しませんでした」


「え?そうなの?なんで気付いたの?」


「……ヴェラ様のお菓子です」


「ヴェラのお菓子」


思わず復唱していた。ヴェラのお菓子で気付いたとは…??

ユピテルはふっと目を伏せる。


「…恥ずかしながら、人間の血が流れているせいで身体に若干の痛みがあるんです。魔力によってもたらされるものです。主に手足の痺れですが慣れましたので…体調というか、日によりますが、仕事などに支障があるとかはありません」


「えっ」


あの劇の竜の話を思い出した。ユピテルにはあの時ははぐらかされたが、やっぱり身体の痛みがあったんだ。


「……しかし、この前、ヴェラ様の作ったクッキーを食べたらしばらく体調がよくなりまして、身体の中から浄化されたのではないかと思っております」


「え?つまり、浄化の力が篭ってたってこと?」


「ええ、そのようです」


ヴェラの作ったお菓子だけユピテルが食べるのにそんな理由があったのか…。

もしかして、身体の痛みが取れたのはユピテルには数百年ぶりとかじゃない?


「…、お菓子で浄化できるなら便利かもね」


魔力の暴走についても、だ。体調が悪くなった人の口にお菓子を突っ込んでいけば浄化できるかも。


「ヴェラ様に作っていただくと?」


「うーん…、僕が作っても効果あるかなあ…?」


「リギル様は不器用だからやめたほうが…」


ユピテルが哀れなものを見るような目で見てくる。

なんだその目はやめろ。僕はユピテルに対してむっとしてみせた。

ヴェラだけに作らせるのはやっぱり負担じゃんか。


「なんだと」


「ヴェラ様の作ったお菓子だからかもしれませんし……」


「むむ…、まあ、一度試してみよう?」


そう言って食い下がるとユピテルはちょっとため息をついた。

そんなに僕がお菓子作るの嫌がらなくてもいいじゃんか。


「…そうですね、でも、リギル様が無理でしたらやはりヴェラ様に頼むしかないでしょう」


「うん、まあそうなら仕方ないよ。そうなったらヴェラがちょっと大変だけどそうしよう。纏めて作れて日持ちするお菓子とかあったらいいかな」


「…持ち運びやすく日持ちできるもの、調べておきます」


「うん、頼むよ」


わざわざ触って僕が浄化に行くより、お菓子を配るほうが僕以外にもできるから効率がいい。

お菓子で浄化できるならすごい助かる。


「ちなみにユピテルの身体はまだ痛いの?完全に治ったりはしない?」


「…ええ、さすがに心臓から新しい魔力が湧いてきますから。浄化は私には長くて二、三日作用が続きますかね。ですが最近はしょっちゅうヴェラ様がお菓子を下さるので、痛みは全く大丈夫です」


ユピテルは説明しながら心臓のあたりに手を当てた。

ユピテルの助けになっているってヴェラが知ったら喜んでこれからも作るだろうな。


「二、三日か、結構続くんだね…?」


「ええ。身体が痛くないのは久しぶりで最初は驚きました」


ユピテルの身体の痛みも継続的に治すことはできないだろうか。

でも今はしょっちゅうヴェラにお菓子食わされてるからいいにしても、ユピテルはこれからもずっと長生きするわけだし、他に方法があればいいんだけど。永続的に、痛みが取れるようなものが。


「僕がユピテルに触れたときとかはどうかな?」


「そういえばそれで浄化されたと感じたことは全くありませんね…。お菓子の方が、体内から浄化できるからでしょうか…?」


「何か違うのかな?」


「…分かりません。未知のスキル…いえ、ギフトですからね…」


ユピテルはそう言って苦笑いした。ユピテルの言う通り、鑑定である程度分かってもまだ分からないことがあるみたいだ。

もしかして魔力…竜に関することだからかもしれないけれど。

ミラとも情報を擦り合わせてよく考える必要があるみたいだ。


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