13・三人揃えばアイドルユニット
教室での自己紹介も入学式もつつがなく終えた。
自己紹介も前世じゃ苦手だったけどリギルという容姿を被っていればわりと難なくこなせる。
というより、やっぱりさすがに生まれ変われば多少は器に引っ張られているところもあるかもしれない。
「お兄様!お疲れ様です!」
式を終えたらそのまま解散だったので入学式を参観していたヴェラが真っ直ぐ僕の元にやって来る。
入学式は学園の聖堂で行われたのでまだその中だったためリオとアトリアも一緒だったけど遠慮なくヴェラを抱きしめた。
「ありがとうヴェラ」
「えへへ、はい。リオお兄様もお疲れ様です」
リオに顔を向けたヴェラにリオは微笑みながら頷く。
「妹さんかな」
アトリアがヴェラを見つめてくすと笑った。
微笑ましいね、とあったかい目で見てくる。
アトリアに気づいたヴェラは僕から離れると淑女の礼をした。
「あ、お兄様のご友人でしょうか。ヴェラ・ユレイナスです。初めまして、その…」
「アトリア・エリスです。ユレイナス嬢。リギルとは今日お友達になりました」
アトリアの方もヴェラに紳士的に礼をしてくれた。
ヴェラはまあ…とアトリアに少しばかり見惚れる。
ちょっと思ってたんだけどヴェラってもしかして結構面食いじゃないのか。
前世の妹はアイドルオタクだった。
ヴェラが生まれ変わりなら結構引きずられてるのかもしれない。
「お兄様含めた御三方が並んだら、なんだかユニットみたいですね…」
「「ゆにっと?」」
前世の事を考えた直後にヴェラがそんなことを言うもんだから、びくりと反応してしまった。
リオとアトリアも同時に聞き返す。
ユニットはもちろんアイドルなんて概念すらこの世界には存在しないのに。
「ユニットって何?」
リオが首を傾げて改めて聞くとあら?とヴェラの方も首を傾げた。
「つい口に出てしまったのですけど…何だったかしら……」
ヴェラも無意識の発言だったらしく、やっぱり無意識下に前世の記憶があるのかもしれない。
前世の妹である確率がより高まったような気がした。
「あっ、ヴェラ、父様と母様は?」
さりげなく、話題を逸らしてみる。
「おふたりは子供同士の邪魔になるからと先に馬車に。ちゃんとリギルの勇姿は見届けないとって言って、最後までちゃんと見てましたよ」
勇姿って。
入学式は話を聞いてるだけなんだから勇姿もクソもないのに。
元のリギルは両親の関心がヴェラに行っていると思っていたみたいだが、この数年間で分かったことといえば、両親は忙しすぎて構う暇が少なくて、小さいヴェラを優先してしまってたというだけで大概親バカということだった。
何故かリギルはあまり愛されてないと勘違いしてたみたいだけどぶっちゃけリギルのことも相当甘やかしてくる。
厳しく躾けつつ、めちゃくちゃ甘やかしてくる。
ただ、優秀な家庭教師をつけるとか、優秀な執事をつけるとか、本をたくさんプレゼントするとか、なかなか直接出来ない分、間接的で、期待はもちろんしてるがそんなに重いものでもなかった。
リギルの方が重く捉えていたんだ。
期待に応えられなきゃ捨てられるかも、嫌われるかもって。
あと、父様が僕の息子と娘かわいいよ〜仕事やだ〜会いたい〜と叫びながら執務室で1人じたじたしていたのを一回見てしまった。引いた。
「お兄様」
馬車に戻ろうか、と言おうとした寸前に背後から凛とした声が聞こえてきた。
ヴェラの声ではない時点で僕に対する声かけじゃないというのはすぐに分かった。
「ああ、来てくれたんだね。シャウラ」
「お兄様が来年入る学校だから下見のつもりで来て欲しいと仰るからですわ。私そんな暇ではありませんのに、お兄様に頼まれたら無碍にも出来ないので仕方なくですのよ」
アトリアに少しばかり悪態をついた少女はとんでもなく美少女だった。
さらさらストレートの紫がかった黒髪にアトリアと同じ山吹色の瞳…、アトリアよりは暗い髪色だが遺伝子はめちゃくちゃ感じた。
髪色というのは魔力の影響を色濃く受ける場合がある。
全員とはいかないけど、攻略対象でも魔力の影響で赤髪(火属性)と白髪(氷属性)のキャラクターもいたりした。
シャウラも確か闇属性の影響を受けていて、エリス家の紫色をベースに黒髪なので紫っぽい黒髪というワケだ。
「失礼致しました。お初にお目にかかります。シャウラ・エリスですわ」
シャウラは僕達に気付くとお手本のような美しい礼をしてくれた。
僕とリオ、ヴェラも丁寧に挨拶を返す。
ヴェラの3つ上の14歳、僕の1つ下の14歳…。
歳のわりに大人びて見えるのは婚約者候補、という立場上小さな頃から王妃候補教育を受けているからだろう。
わがままも許されなかっただろうから甘え方が分からず、ツンデレっぽくなるのも分からなくはない。
「エリス嬢がいるってことは、アトリアのご両親…エリス公爵夫妻も来てるの?」
僕がアトリアに聞くとアトリアは首を振る。
「お忙しいからね」
「あの人たちは自分にしか興味がないのですわ」
シャウラがふんと言い放つとこら、とアトリアが軽く叱る。
あんまり仲が良くないみたいだ。
これ以上聞くのはやめた方がいいだろう。
「馬車に戻ろうかシャウラ」
馬車までエスコートさせてとアトリアがシャウラに手を差し出す。
シャウラが仕方ないですわねとそれに応えた。
「じゃあ、リギル、リオ、明日からよろしくね。またね」
「うん、また」
アトリアとシャウラが仲睦まじく帰る後ろ姿を少しだけ見守る。
リオも多分親が待ってるからそろそろ行かなきゃと言うので別れを告げると早足でその場を離れていった。
少しその後ろ姿を見つめているとヴェラが肘でつついてきた。
わざとらしくコホンと咳払いをしている。
あ、もしかして。
「ヴェラお嬢様。馬車までエスコートしましょうか」
「ふふん、良くってよ」
ちょっと高飛車風に僕が差し出す手を取ったヴェラはバチクソに可愛いかった。
ちょっと真似したくなるお年頃なんだな。
「お兄様お友達出来たみたいで良かったです」
歩きながらヴェラが話しかけてきた。
妹に心配されてたとは…と、なんだかショックを受ける。
「ユピテルがお兄様はイモウトバナレが出来ないから、お友達作るのは難しいでしょうねって言ってたのです」
あの邪竜、やっぱり僕のこと馬鹿にしてるだろ。
「でもヴェラはお兄様は素敵な方だからきっとお友達いっぱい出来るのよって教えてあげたんです。ふふん、やっぱりヴェラの言う通りでした」
さすがお兄様とヴェラが誇らしげにしている。
ヴェラにとって一番自慢出来ることは僕の存在みたいで、最近同じ年頃の令嬢とお茶会する機会も増えたみたいだけど僕の話ばかりしてると聞いた。
気恥ずかしいけれど、嬉しい。
それにしても、ユピテルがこの場に居たら外面だけは良いですからねえとか言ってきそうだ。
想像しただけで腹立つ。
「ヴェラのお友達はみんなお兄様のことを“白銀の王子様”って呼ぶんですよ」
「なんて?」
「白銀の王子様」
い、いつのまにそんな恥ずかしい二つ名が????
「見た目が王子様みたいだからって。だから、ヴェラのお兄様は中身も王子様ですよって教えてあげました」
「ゔ、ヴェラ、もうやめて」
空いている方の手で顔を軽く覆った。
なんとかその恥ずかしい二つ名がこれ以上広まらないように出来ないものか。
ヴェラの話のせいで帰りの馬車ではそのことで頭がいっぱいになってしまったのだった。