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127・双竜の過去

「いやぁ、若いうちの苦労は買ってでもしろとか言うじゃないすか。最初に考えた人絶対性格悪いっすよね」


「いや、何の話?」


ていうかなんかデジャヴ????

まあというより、まず何で僕の部屋にいるかが謎なんだけど。


「ユピテルとの執事特訓は?」


イザールは見習いとして働いてる間、まあまあ真面目に…というより要領良く上手くはやっていたみたいだけど、誰かの専属執事にというには教養と落ち着きが足りないらしく、みっちり特訓されている。

僕はというと夏休みもあと少しなので休みのうちに領地に関する資料のまとめ…つまり仕事をしつつ甘いものをつまんでいたのだけど、いつのまにか部屋に入ってきたイザールがずっと僕の後ろで話をしていた。


いつのまにか入ってくるとか猫か何か??


ツッコミきれないのでユピテルが回収しにくるだろうとスルーしてたのだけど、ついにツッコんでしまった。


「ユピテル様は〜、ヴェラお嬢様とお菓子の材料を買いに行きました」


「えっ?ヴェラと?」


「何か急にユピテル様に付き合って!って言ってきて…、あっ、僕それでリギル様にちょっとヴェラお嬢様と出かけてくるのを伝えて下さいって言われてんでした!いっけね!」


僕ってば忘れん坊さん☆と言いながら頭をげんこつで軽くコツンと叩くイザールに軽くイラッとする。

まあユピテルと一緒ならヴェラは大丈夫か…。


「要件はすぐに伝えること。忘れるなんて駄目だよ」


「分かってるっすよぅ」


イザールはぶーと口を尖らせる。


「だって若いのに休みの日に仕事なんかしてて……せめて面白い話でもしようかと…」


イザールが最初に入ってきた時にしていた話は王城の裏庭の池で足の生えたオタマジャクシを見たんだけどアレもうオタマジャクシじゃないっスよね、オタマエルとかどうすか?って話だったし、次にしていた話はいちごが野菜ってマジ?って話だったし、そのあとの話は正直執事より可愛い女の子と遊んで暮らしたいし働く意義が見出せないって話だった。


面白い話とは一体????


僕が首を捻っているとイザールはお構いなしに話を続けた。


「ところでリギル様は巨乳派?貧乳派?」


めっちゃ邪魔だなコイツ。


早くミラのとこに行って欲しいけど向こうでもこんな調子だったらと思うと不安でしかない。

ミラの領地は地方なので普段は寮にいるらしいけどアトリアとの婚約が本決まりになればアトリアと過ごす機会も増えるので王都のエリス家の別邸、つまりゲストハウスに移り住むと聞いた。

その為、そこで配属となるからミラの執事とはいえアトリアの執事にもなるようなもんだけど、余計なことしてアトリアに殴られたりしない?

いや、アトリアは人を殴ったりしないから比喩表現なんだけど、アトリアに嫌われなきゃいいけど…。

嫌われても全く全然イザール本人は気にしないだろうけどね。


「僕仕事してるんだけど……」


「おっぱいの話をしながらでも仕事はできます」


イザールが今日イチのキメ顔をした。いや、キリッじゃないんだよ、キリッじゃ。

あとおっぱいとか言うんじゃねえよ。


「…、イザールとカフって…、何でユピテルの眷属になったの?」


とりあえずイザールは会話がしたいみたいなので話を逸らすことにした。

元々聞いてみたかった話でもあるし、これくらいなら良いだろう。


「ん?んー…?まあ助けて貰ったからっすかね?」


「命の恩人ってこと?」


「ま、だいたい合ってるっす」


ユピテルのことだから気まぐれではあるんだろうけど、割と他者を助けてるんだよな。

僕だってユピテルに助けられた一人でもある。

資料に目を通してサインしつつ、僕はイザールへの質問を続ける。


「眷属になったから竜になったんだよね?」


「あ、はい、そうっす。元々は僕とカフはリザードマンなんすよ」


リザードマンというのはトカゲの性質を有した魔族だ。見た目もまんまトカゲでデカイトカゲが二足歩行しているという感じ。


「リザードマンは竜に性質が近いらしくて適正があったんっすよ。だから眷属になって、忠誠を誓いました」


リザードマンだから眷属になれた…ってことはユピテルは他の魔族も試したけど駄目だったって事なんだろうか?

というか竜ってやっぱ爬虫類なの?トカゲ系なの?


眷属…、というのは所謂使い魔なのだが、普通の使い魔と違うのは、使役するだけとは違い自分の魔力をありったけ注いで力を分けることでより強固な侍従関係にするというもので、力だけでなく、主人が死ねば眷属も死ぬという命を分けた契約でもある。

ちなみに眷属が死んでも主人が死んだりはしない。


それからなるべく近い関係でないと失敗するらしい。

力を分け与える関係で主の性質が眷属には出るみたいで、特にユピテルは桁違いの魔力を持った竜なので性質を出すどころかほとんど二人を竜にしてしまった。

残ったのはリザードマンのマンの部分で、結局竜人ということらしい。

強い魔族が魔物を眷属にすることで魔族に変化させたという例があるみたいだけどソレとはまた次元の違う話だ。竜は特別なのだから。


「僕とカフは忌子なんすよ」


「忌子…」


「こんなこと言うと人間に失礼なんすけどね、魔族では人型に見た目が近いほど馬鹿にされる種族もいるんすよ。特にオーガやオーク、リザードマンとかの獣くさーい種族とか」


確かにその辺は二足歩行ではあるけど魔族では獣に近い見た目をしている。臭いかどうかは知らないけど。


「とはいえ見た目ってやっぱまちまちで、魔族なんか特に安定しないんで魔力が弱いと人間みたいな見た目で生まれてくる魔族もいるんすよ。珍しいっすけどね。それが忌子。弱くて使いもんになんないって」


「ああ、魔族って実力主義なんだっけ…」


人間に友好的な魔族でも魔族の間では力や魔力が強い方が偉いって考え方がある。人間に押し付けたりしないだけで。

人間とあまり関わりない種族ならそれはより顕著だろうというのは想像に難くない。


後で聞いた話によると元々人間に近い見た目の魔族は全体的に魔力が強い為に関係ないが、獣や異形の見た目の魔族では人形から離れるほど魔力やパワーがあるらしい。


「親は僕らを大事にしてくれたけど、種族内…つまり生まれ育った村の奴らからも、それから他の魔族からも僕らは嫌われてました。嫌がらせとか日常茶飯事だし、まあ端折りますけど親も結局魔族に殺されました」


めっちゃ大事なとこ端折るじゃん。でもイザールにとって進んで話したくないことなのだろう。

ちらっと見ると少し苦々しそうにしていた。


「路頭に迷ったカフと僕を拾って眷属にしてくれたのがユピテル様っす。圧倒的な魔力を貰った僕たちは生まれ育った村を焼き払い、親を殺した奴らをミンチにしました」


「めちゃくちゃするじゃん……」


復讐の規模がでかい。


「まあユピテル様の気まぐれでもなんでも、そうやって眷属になっちゃったもんで…まあ復讐もできたしなし崩し的に眷属として従ってるというか」


「忠誠どこ行ったの?」


その言い方だと眷属になっちゃったもんは仕方ないから今も従者やってまーす!みたいな感じになっちゃうよ???


イザールはちょっと間を空けるとテヘッと舌をだした。可愛くないからな。

カフはちゃんと誓ってますよ、と付け足す。自身は忠誠半分恩返し半分らしい。


「……まあ、結局、ユピテル様と一緒にいるのが好きなんですよ」


イザールはそう言って神妙な顔をしつついい話風にして話を締めた。でもその後結局またおっぱいの話をし出して全ては無駄になった。駄目だこいつ。


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