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126・イザール

「だから僕は言ってやったんすよ!それニンジンじゃなくてマンドラゴラっすよって!」


「ごめん、ちょっと何の話してるか分からない」


僕がそう言って話を止めるとユピテルの弟という名目の眷属のひとり、イザールは首を傾げた。

話が脱線しまくってこんな話になったが、なんで本当にこんな話になったのか分からない。


そもそもまずはイザールが何で今僕の目の前にいるか…、それは今朝、ユピテルがこんなことを言い出したからだった。


「イザールを王城から呼んできます。できればミラ様の執事にしましょう。丁度見習い期間を終えさせたので」


ユピテルが言うには王城側の動向は別の方法で探れるのでイザールを連れてくることでミラたちの守りを固くしようということみたいだ。

まだミラが聖女になると決まったわけではないが、シャウラは賛成してアトリアを説得してくれてるし、ミラ本人からは既に構わないと返事を貰っていた。

ミラがもし自分が本当の聖女だと表明すれば、古の魔族だけではなく人間からの何かしらのアクションもあるかもしれない。だから念のため、らしい。


「おとり…のようにするとはいえ、死なせる気は全くありませんから発案者として責任を取りますよ」


だからイザールを護衛兼執事につける、という話になるらしい。

信頼する部下をつけることで誠意を示すと。


僕がとにかくまずはイザールがどんな人物だか知りたいと言ったら、ではとりあえずユレイナス家に呼び寄せる…という話になった。

そうして、イザールが屋敷に来たので客間に呼んで話をしたのだけど、最初は古の魔族についての情報を聞いてたはずが、めちゃくちゃに話が脱線していた。


「あれ?何の話してましたっけ?」


「古の魔族の作戦会議を見たって話でしょ。まあユピテルから前に聞いたけどさ」


それからイザールとカフは魔族が嫌いって話になってからのカフの話になってカフがマンドラゴラとニンジンを間違えたって話になった。

…マンドラゴラってニンジンに似てるの?


「マンドラゴラってニンジンに似てるの?」


アッ、気になりすぎて口に出しちゃった。


「マンドラゴラは灰色で大根の二倍あるっすよ」


「全然ちげえじゃん」


なんで間違えたし。っていやいやいや、こんな話をしたい訳じゃないんだってば…。

イザールは明るいというか元気系というか、話をしているとどうもペースに飲まれてしまう。


「ええと、イザールやカフの実力ってどれくらいなの?」


「私の力を分けてるので古の魔族とやらには負けません」


「全滅させるっすよ!」


今さらっと全滅させるとか言ってますけど。


「イザール、簡単に全滅させてはつまらないでしょう。じわじわと蝕むように恐怖を与えながらやれば反省を促せます」


「確かに」


確かにじゃねえ。ユピテルは「冗談ですよ?」と僕に笑いかける。

いや、だから冗談に聞こえないんだってば。

イザールの方は「なんかダメっすか?」と首を傾げているので本気らしい。こわすぎ。


「でも冗談抜きにハーフっ子たちはともかく元は絶ったほうがいいと思うんスよねえ。ほっといても良いことないっすよ?」


古の魔族…、純血の悪魔族は確かに今回失敗しても体制を立て直してまたどうにかしようと思うだろう。

それはすぐなのか次の聖女の生まれる五百年後なのかは分からないけれど。

確かに人間側の害になることは確かなのだ。


「まあ次の聖女が生まれるころには力を取り戻してるかもしれないっすね」


イザールは僕の心を読むようにそう言った。


「だから弱ってるうちに」


「灰燼に帰す…」


「ソレっす!」


ウェーイ!!と言いながらイザールがビシッと両手でユピテルを指差す。

なんて言うか、本当にカフと正反対でノリがチャラい。執事務まる?大丈夫?

イザールのウェーイに合わせてユピテルがハイタッチに付き合っている。意外に仲良しだな。


「いや、灰燼に帰すとかカッコいい言い方してみても結局消し炭にしたるってことだよね?」


「だいたいそうですけど何か…」


「いやいや、物騒なんだってば…」


どうやらユピテルはともかくイザールやカフには古の魔族を消し去りたいくらいの理由があるみたいだ。

二人はサブキャラなので過去の掘り下げとかは全くなく、その辺僕には分からないのだけど。


「まあ、とりあえず古の魔族をどうするかは一旦置いといて、イザールをミラ様の護衛執事にするのはどう思います?」


僕はイザールをちらっと見る。イザールはニコーッと笑うと両手でピースをしてみせた。

めちゃくちゃ陽気だ。正直不安しか無いのだけれども。


「…まあ、ユピテルの推薦なら間違いは無いんだろうけど…」


不安はあるとはいえ、ユピテルが勧めるなら大丈夫だろう。イザールはともかくユピテルは信頼している。


「ではミラ様に打診してみても?」


「うん。まあ後はミラとアトリア次第だね」


先にアトリアとの婚約が仮でも通るなら、ミラの使用人に口を出す権利くらいはアトリアにもあるだろう。

まあ、僕からも悪い子ではなさそうと口添えしておこうかな。


「ミラお嬢様って可愛い?」


「手を出したら電撃食らうよ」


アトリアに。


「エッこわー、やめときます!」


手を出すつもりだったのか?


そういや、イザールが惚れっぽい性格ってのはゲームの情報でも出てたもんね。

ゲームのヴェラに惚れて逃がそうと………、


「僕の妹に手を出したらこの世の地獄を味わわせる」


「え、いきなり怖」


イザールは顔を顰めて自分の肩を抱いた。

ヴェラに惚れる可能性があるのはマジで無理だもん。電撃なんて目じゃないぜ。


「ロリコンじゃないんで…」


全人類歳下なのに何言ってんだ?????


「あと四年くらいしないと…」


「あと四年しても駄目だから」


イザールはちぇーと口を尖らせた。でも確かに惚れっぽいけどしつこいタイプでも常識外れなことを相手にするわけでもないはずだから、こうやって釘を刺しておけば大丈夫だろう。


「…、では今日から少しの間は私の下で再教育をしましょう。もちろん王城で真面目にやっていたのなら大丈夫ですよ」


にこーっと爽やか笑顔を見せるユピテル。

一方でユピテルのその言葉にイザールの表情が引き攣った。絶対真面目にやってなかったな、と瞬時に確信する。

さっきまでのチャラ男ムーブが嘘のように、借りてきた猫状態になってしまった。


とりあえず、イザール、頑張れ。


早速とユピテルに引きずられていくイザールを見て少しだけ同情したりしなかったりした。











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