123・シャウラ的にも同意
「あとはお父様の承認だけみたいですわね。急く必要はないだろう、とまだサイン頂いてないですわ」
アトリアとミラの婚約の進捗についてデートの機会にシャウラに聞くとそう答えが返ってきた。
ちなみに現在地点は馬車の中、最近話題の演劇を見に向かっている。
「とはいえ、リギルが証人になったことで前向きに検討しているのは確かです。伯爵家、それも辺境伯なら身分も悪くはないですし認めるしかないでしょう」
「僕ってそんな影響力大きいかな?」
「正確には、ミラが相手でないと結婚したくないし世継ぎも作らないとお兄様が珍しくわがままを言って譲らなかったのもあって、しぶしぶ認めるしかなく、お父様はあまり納得していない、という感じですけど」
つまりめっちゃゴリ押ししてるってことね。把握。
結婚については本人の意思が大きく反映されるので親に認めてもらわなきゃいけない反面、親が勝手に結婚相手を決めることもできない。政略結婚させるのにも大変なのだ。
まあ大抵の子供は親に従うわけだけど。
辺境伯のほうは断る理由はないので早々に承認のサインを貰ったらしく、お礼と挨拶のためミラとアトリアはミラの実家に今行っているらしい。
「ミラは辺境の伯爵家の娘なので重要なポストではありますけど、それなら侯爵家くらいの娘を迎え入れたいというのがお父様の本音…。というかど田舎の小娘などと既に馬鹿にしておられましたわ」
「うっわー……」
エリス公爵、実はまだ会ったことはないんだけど、婚約式をするとなると正式に挨拶をする機会があるはずだ。
ちょっとぶっちゃけお関わりになりたくないけど。
てか辺境伯をど田舎だと馬鹿にするのは良くないぞ。ってか辺境って地方ってだけで割と発展していたりする。
「まああの人の言葉は八割くらい無視しても大丈夫ですわ。私もここ最近学びました。お声は大きいですが暴力を振るう度胸がある人でもないですし」
つまり大きい声でビビらせてくるタイプの毒親と…。
小さい子供ならそれで充分萎縮して言うことを聞くし、大人になっても植え付けられたトラウマがそのままで逆らえないとかよくある話だ。
ここ最近学んだということは、克服したということだからシャウラは偉い。
まあこれからは公爵からも僕が守るけどね。
「ともかく、ユピテル様の作戦、私は賛成ですわ。手っ取り早くていいと思います。聖女は大変ですけど、ミラが聖女になればお父様も口出し出来ないでしょう」
「そうかな」
シャウラはどうやらミラとアトリアが幸せになるに重点を置いているらしい。
特にアトリアには苦労させたので好きな人が出来たなんて奇跡だからとっとと引っ付いて欲しいとかそんな話も熱弁された。
「現聖女については…まあ大した悪さをしていないとはいえ…、いえ、正直リギル様が動かなかったらだいぶまずかったので、大した悪さにならなかった、と言うべきでしょうが…」
確かに僕が放置していたら攻略対象のほとんどどころか彼ら以外も彼女に傾倒して国が傾いていたかもしれない。
現在時点で王太子がまだ虜だからまだヤバいけど。
「まあ国の重要ポストになるかもしれない人間が一人の令嬢を囲ってたらまずいよね。聖女の一言で国がすぐ傾くよ」
あれだけ強い魅了だ。どんなことでも言うことを聞くなんてことはあるだろう。
シリウスやカペラだって本来の性格を無視して彼女に傾倒していたし。
「ええ。だからこそ彼女がしたことは軽視できません。とはいえまだやり直しは利きますから国外に逃すというのは悪い手ではありません…、しかし懸念がありますわ」
「国外でも同じことやらかすかもとか?」
「それです」
シャウラが頷く。実は僕もユピテルに同じことを言った。
彼女が反省してなかったら国外逃亡させても今度は逃げた先の国で魅了を使って王族だのなんだのをたぶらかしかねないと。
ユピテルは「個人的には私の知らないところでどうなろうが知ったこっちゃないのですが…」とか言っていた。これが気まぐれ邪竜である。
そこに意識が向くというのはシャウラはやはり優しい。
「一応ユピテルの弟を同行させるから止めるよう言っておくこともできるとは言ってたよ」
「でも確実じゃありませんわよね」
まあ二十四時間監視出来るわけでもない、レグルスもいたとしても、確実性にはかける。
あとやっぱりカフに色々押し付けるのは可哀想だしなぁ。
「ギフトを取り上げる…、もしくは封印する方法があればいいんだけど…」
「聞いたことはありませんわね…」
ギフトどころかスキルを封印するなんて聞いたことはない。
しかしそれが出来れば一番良いはずだ。
「ユピテルと相談して方法を探ってみるよ」
「私も私で探してみます。協力し合いましょう」
シャウラが胸に手を当ててニッコリと笑った。さすが頼もしい。
「ところでエリス公爵夫人はどう思ってる?」
「うーん…、母には会わないので、分からないんですのよね」
そういえばシャウラを一番嫌っているのはエリス公爵夫人だった。
シャウラに聞くべきじゃなかったかも、と少し反省する。母に嫌われてるなんてどんな気持ちだろう。
すると、僕の顔を見てシャウラがクスリと笑った。
「ふふ、リギル、あまり気にしないでくださいまし、もう血の繋がった他人なのだと割り切っているから大丈夫ですわ」
「え、もしかして変な顔してた?」
「申し訳ない、って書いてありましたわよ?リギルって私たちの前では分かりやすいですわ」
あまり意識している訳ではないのだけど、確かに身内の前では表情に出やすいかもしれない。
ううん、ポーカーフェイスには自信があったんだけどなあ…。気をつけなきゃかな。
「私は嬉しいです。気を許してくれてるんですのよね」
シャウラが優しい目で僕を見つめた。前言撤回、シャウラの前では表情すら正直でいよう。
「そうかもしれないね」
そう言って微笑むとシャウラも僕に笑いかけた。
「…、母は兄を大切にしているので、兄の頼みなら聞くと思いますわ。結婚や婚約自体に反対はしないでしょうね…、というのがとりあえず母に関しての見解です」
「そっか、ありがとう」
アトリアとミラのことについては僕に出来ることはこれ以上はあまりないだろう。
もちろんミラが聖女になるって言うなら手伝い出来る事はあるだろうけど。
「しかし、早くシャウラをうちに迎えたいな、そうしたらもう、君が煩わされることなんか無いだろう」
僕がそう言うとシャウラが「え」と顔を赤くした。
もちろん婚約式を早くしたいという意味で言ったのだけど、シャウラの反応を見て「早くシャウラと結婚したい」というプロポーズのような言葉とも取れる事に気づいて、僕も顔が熱くなってしまった。
「あっ、えと、婚約式を、早く、ね」
婚約式さえ終わって二か月すればシャウラをユレイナス家に迎えて同居が出来るからね…!
「あ、はい、そ、そうですわね」
僕が慌てていると、シャウラも少しそわそわしながらそう答える。
発言するならよく考えてからじゃないと良くないな、と馬車から外を見ながらそう思った。




