121・リギルとユピテル
「ユピテルはずっと前から僕が転生者って気付いていたでしょ?」
僕がそう尋ねるとユピテルは不敵に笑った。
「それはリギル様もでしょう?」
お茶会はお開きになり、今後情報共有が必要な場合は二人が同席してくれることになった。
これで今後二人からや周りからの誤解を受けることはなくなるだろう。
コソコソする必要がないのでとても楽だ。
あの後は質問に答えたり、他愛のない話もしたりした。
ユピテルは使用人という立場からか、後で話す機会を作ると言ったからか質問とかはして来なくて。
なのでこうやって今ユピテルと話す時間を設けた。
お茶会が終わってから夕食までの間なのであと三時間ほどだろうか。
今の僕はユピテルを無理矢理座らせてテーブルを挟んだソファで向かい合っていた。
立ったままでいいですとか言うけど後ろじゃなくて前にいると威圧感あるんだもん。
「……、僕もって?」
「気づいてるんでしょう?」
「…うん」
ユピテルから言わせようと言うか、打ち明けて貰おうと思ったけど、僕から聞いたほうが良さそうだ。
自分から私は竜ですとか言いたくないみたい。
「…ユピテルは人間じゃないよね」
「ええ」
ユピテルは頷く。なんだ、案外あっさり認めた。
今更隠す必要はないということだろうか。
「世界でたった一匹の邪竜…で合ってる?」
「まあ一応合ってますね」
「一応」
一応とは??????
不思議に思ってユピテルを見ているとユピテルがクスッと笑った。なんだよ。
「全て分かるわけではないんですね。いえ、もしかしたらミラ様のほうが詳しいのでしょうか…」
「え、どうかな」
ユピテルの情報がどれくらい攻略本にあったのかなんて僕には分からない。
元々隠しキャラで謎も多いキャラだし。今度ミラに聞いてみようかな。
「…ふふ、しかし、邪竜、ですか…、竜であることに違いはありませんが…邪竜…」
何がツボに入ったのかユピテルはクスクスと笑っている。
「何か違った…?」
「いえ、ちなみに何故邪竜だと?」
「あ、いや、黒い竜…、黒竜、または邪竜って…」
「予言書に書いてあったと」
「…ま、まあそんなとこ」
良く考えたら邪竜、邪悪な竜って結構失礼だな。でもユピテルは別にそう言われたことを気にしているような様子はない。
「まあ見た目は黒くて魔力を使うなら間違いはないのかもしれないですね」
ううん、多分思考の黒さというか、容赦なさも原因ではあると思うんだけどそれは黙っておく。
まあ最近思うにユピテルが容赦ないのは身内、つまり自分の認めたもの以外みたいだし。
「……、実は私、母は人間でして、半分…だいたい半分は人間なんです」
「え、ハーフってこと?」
「ええまあ」
魔族と人間が結婚したら魔族か人間どちらかにしかならないんじゃなかったっけ?
いやでもユピテルは竜だから魔族じゃないのか。魔族の定義には当てはまらないみたいだ。
「竜と亡国のお姫様」
「え」
急に出てきた小説のタイトルに思わず間抜けな声が出た。
「リギル様が読んでいた物語です。アレ、元々は父の日記でした。その後、私も幾つか書き足したのですが、飽きてちょっとほったらかし……まあ、故郷に置きっぱなしにして、気づいたら何処かの誰かに物語として出版されていましたね」
「まじ?」
つまり、あれはユピテルのパパンとママンの実話ってこと???
ユピテルの時間感覚だとちょっとほったらかしにしたくらいは何十年も放置していたのだろう。
どこに住んでたのかはわからないが、ずっと空き家ならいつの間にか誰かに片付けられたのかもしれない。
「…、父は竜でした。いえ、竜と定義付けしたのは母なので、竜だったかは定かではありませんが…、異世界から零れ落ちたこの世界の異端、つまり、元は異世界の生き物だったんです。……と、ここまで言えば、私がリギル様に興味を持った理由も分かるでしょう?」
ユピテルが僕を見つめた。そうか、ユピテルの父親は異世界から来た竜だったのか。
「つまり、僕が同じ異世界の存在だったから?」
「ええ」
ユピテルは頷くが、とはいえ、父のいた世界とリギル様のいた世界は違うでしょうけどね…と続けた。
確かに僕の世界に竜は居なかった。うん。そもそも魔法もないような世界だったし。
「父の遺体は残りました。魔族と全く同じ魔力を持ちながら、父だけは違いました。……まあ、魔族は父が世界に垂れ流した魔力を収めておくため神が作った器だったので、違う生き物なのは当然ですが」
確かに神話や竜と亡国のお姫様の冒頭にはそんな話があった。実話だったんだな。
遺体が残る異世界の竜。魔族と魔力以外違うなら、人間の間が魔族と人間とは違ってハーフでもおかしくはない。
「…純粋な竜である父は母が亡くなっても死ぬことが出来ずに苦しんでおりました。…ところで、少し前、心臓が魔力の源だという話をしたのは覚えてますね?」
僕は頷く。たしか魔力暴走の話のときに、魔力は心臓を中心に湧くという話をユピテルはしていた。
「それは魔族も、奇しくも竜も同じでして。私は心臓を父と取り替えることを思い付きました。私が代わりになることで、父は老いて死ぬことができたのです」
竜と亡国のお姫様について話したときにユピテルの話したことは自分のことだった。
物語についてはフィクションだと思っていたからあの時はまさかそうとは思わなかった。
つまりユピテルは母を見送り、兄弟を見送り、そしてユピテルが代わりに不死になることで父も見送った。
「…寂しくない?」
「結構楽しいですよ。リギル様のような方にも出会えますし」
「えー?」
そうかなあ?と言うと、ユピテルははいと答えながら笑う。
でも、以前にも転生者は居たはずだ。偶然出会わなかったのか、何か出会わない理由でもあったのかは分からないけど。
「んでその千里眼でステータス見えてるんだろ」
「…、バレてましたか。でもギフトは神からの贈り物だからか分からないのですよ。神の理から外れてしまっているので神関連は全くわかりません」
さすがに予想外だったのかユピテルは少しだけ驚いた顔をする。でも僕もギフトは分からないと聞いて驚いた。
「…そうなんだ?」
なるほど。ユピテルが知らないフリまでして鑑定を勧めてきた理由がわかった。ギフトが分からないなら他が分かっても意味ないし、そこで僕が諦めたら分からなくなっちゃうもんな。
実際、ユピテルに分からないなら分からないって思ってた。
僕ってユピテルに頼りすぎってか信頼しすぎ?
「…、それにしても随分貴方には情が湧いてしまいました。リギル様やユレイナス家の方々は私結構好きなのですよ」
ユピテルは穏やかに微笑む。ユピテルのこの言葉には嘘偽りがない気がする。
本心を丁寧に僕に伝えてくれている。
「リギル様が私が人間じゃない何かだと気づいているのは、最初から分かっていました。初対面で怯えてましたし。それでも側に置いて普通に使用人として…、ユピテルとして接してくださったのが柄にもなく嬉しかったのです。…ですから居心地が良くて」
「……これからもずっといて良いよ」
「おや、もちろんです。捨てたら恨みますよ。死ぬまでコキ使ってくださるんでしょう?」
悪戯っぽく笑うユピテルに僕も笑い返した。
お互い秘密を話すことで何が壊れてしまうのではないか、そんな不安が無かったとは言えない。
でも実際はユピテルのことをもっと知れて、仲良くなれた気がする。
本当にこの瞬間に、心強い味方を僕は手に入れた。




