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119・信じてくれる人


僕がとりあえず一通り話終えると、シャウラとアトリアは難しい顔をした。


「うーん…つまり、この世界のことが物語として書かれた予言書のようなものがリギルの元いた世界にあった、ということですの…?」


「うん、まあ、そんなところ」


未来のことが分かる以上、予言書と言えば予言書なので間違ってはない。

ただ未来を知っている転生者の行動は例外であることと物語の分岐があるということも話した。


そして、ギフトを“精霊眼”でない僕が持ってないこと、逆に“精霊眼”を持っていたはずだけどギフトがないシャウラは“転生者”じゃないことから、ギフトの条件は“精霊眼”の“転生者”だと推測できるという話をした。


「…それで、あの聖女…つまり、アンカ・オルクス男爵令嬢も精霊眼の転生者故に知識とギフトを悪用している。そもそも物語のキャラクターだとみんなを軽んじている感じもしてる」


本来なら主人公であるアンカは誰か一人を選んで幸せに導くはずだった…、いや、まあバッドエンドもあるから必ずでは無いんだけど。

彼女が逆ハーを目指そうとした時点で色々終わっている。

今思えばもっと早く止めるべきだった。いや、あの子が人の話を聞くわけがないかもだけど。

自分が主人公であるという自信と魅了のギフトがあるしなあ。


「その物語は前世では誰でも見られるようなものだったから、読んでたなら内容や物語に登場した人物の性格とかは分かる。望めばミラ嬢のように細かく知ることも出来た」


「えっと、予言書のような物語には予言書1、予言書2、予言書3あって…リギル様は1と2を…私は1と3を読んでたと思って頂ければ……、3が一番詳しいのです」


誰でも見られる、と言ってもゲームを買えばだけど。

ちなみにミラの言う予言書1が昏き星、予言書2が明けし星、予言書3が攻略本ファンブックだろう。


「それでリギルは大まかな未来の流れや一部の方の人となりだけを…、ミラ嬢はリギル以上に情報を持っている…と…」


僕とミラが頷くと、アトリアとシャウラは情報を飲み込むために考え込んでいる。


「ところで、ミラ嬢が先に詳しく話せなかったのはリギルの秘密もばれてしまう可能性があったからだね?」


「えと、はい、…前世の話を私が先にしてしまうとリギル様にも迷惑がかかるかもしれないと思って詳しくは話せませんでした。…でも、リギル様がこういった場を設けて下さったのは私がアトリア様に一部を話したから…その、気を遣って下さったんですよね…?」


ミラがちらっと横目で僕を見た。確かにこの話し合いの場を設けたのはミラの手紙がきっかけだ。

でも元々近いうちに全て話すべきだとは思っていた。

しかし僕もキャラの背景とかは割と知ってはいるけど、それに罪悪感だなんてミラは本当に根が真面目だと思う。僕に気を遣って全部話さないのも。

確かに過去や細かい嗜好とかを勝手に知ってるのは申し訳ないかも知れないけど……、てか、攻略本ってどこまで細かく書いてあるんだろ?覚えてるミラもすごい。


「…、ミラって記憶力いいんだね」


「え、何のことですか?」


「いや、結構細かく記憶してるみたいだから。攻略本よげんしょ。僕でも忘れてるとこあるのに」


「え、その、何回もやりましたし…、それにシャウラ様とアトリア様は好きだったので…特に覚えて…」


そこまで言いかけてミラはハッとした。目を丸くしたアトリアがミラを見つめている。

ミラはアトリアを見ると少しだけ頰を赤らめた。


「……、ミラ嬢の“推し”だったのかな?私も」


「えっ、はい!?あ、いえ、その…」


「そういえばミラ嬢は馬車でも推してた、とか言っていたね?」


「………、はい、その、アトリア様も推しでした…」


誤魔化そうとしたミラだけどアトリアに追い詰められて観念した。

ミラは親しい相手に油断するとポロッと何でも言ってしまうみたいだ。まあ今のは聞いた僕が悪かったけど。すまん。


「前世から君に好かれていたなんて、嬉しいな。何となく君は最初から私を気にしてくれている気がしていたのだけど気のせいじゃなかったのだね」


「はう…、は、はい…ばちくそ意識してました…」


アトリアがニコニコしている。というか最初からミラの態度がアトリアに対して違うのはやっぱり気付いていたんだな…。

貴族の女性らって結構ぐいぐい来るのでアトリアの性格ならミラの反応が珍しくて放っておいたのだろう。実害がないうえにシャウラと純粋に仲良くしてくれる女の子だし。

というかばちくそとか口に出すんじゃありません。


「う…、というか、これなんの公開処刑です…?」


「すまない。君が可愛くてつい」


アトリアのセリフにミラは頰に手を当てながら照れている。

この二人結構相性が良いというかラブラブでは?

からかいすぎてしまったかな、とアトリアは嬉しそうにしている。


そうしている間、ユピテルは黙って話を聞いているようだったので僕はちらっとユピテルを見た。


「ユピテルは何か気になることはない?」


「…、いえ、私は……、…いや、やはり一つだけ…その、私のこともその書には記載があったのですか?」


ユピテルが顔色を伺うような目で僕を見る。珍しく不安が宿っているような、そんな気がした。

ユピテルはあまり感情を出さないので気のせいかもしれない。


「…、うん。あったよ。それについては二人で話そう」


僕がそう答えるとユピテルは少しだけ微笑んで分かりました、と返事をした。

さすがにユピテルが邪竜であることをバラす必要性とかは全くない。もう邪竜であれなんであれ、僕の執事かぞくには変わりはないのだし。

もし周りにバレるのならユピテル自らそれを望んだ時だろう。


「…、とにかく、ミラ嬢は私のことを色々言い当てていたし、前世についても信じるよ」


「私も信じますわ」


アトリアの言葉にシャウラはすぐに同意の言葉を述べる。二人の眼差しは真剣で真っ直ぐで、すごく安心した。

正直上手く説明できたかも不安だし、無茶苦茶な話だと思う。物語の登場人物だったという話も予言書みたいなものと誤魔化しても不安になりそうなものだし。


「ありがとう、二人とも」


「…ありがとうございます」


ミラと僕はほとんど同時にお礼を言ったと思う。


それからもっと色々な話をした。ヴェラのこと、前世の妹のこと…、これから先起こりうる事件も知っていると言う話や両親が死ぬかも知れないこと。


シャウラもアトリアもユピテルも、真剣に僕らの話を聞いて真剣に答えてくれていた。









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