118・本物の聖女か偽物か
「実は星蝕のことも精霊に教えてもらいました」
ミラ曰く、低級の精霊は軽い意思疎通のみで会話ができない、中級はイエスノーくらいは答えられる、上級はきちんとした会話ができる…らしい。
上級の精霊は数が少ないけど“本物の精霊に愛されし者”の側には必ずいるらしい。
ギフトを持っていることを認識して意識することでぼやっと姿が見えるようになったらしく、どこにいるのかと精霊の属性くらいは分かるそう。
ハダルとの鑑定がミラの時に微妙に長かったのも納得した。精霊と会話してその内容をハダルにも教えたのだろう。
「どうやら私に憑いている精霊は私を好意的に思っているらしく、色々話をしてくれました。転生者について聞いたとき、星蝕の話を聞いて…」
どうやら精霊の話によると、魔力の暴走を止められるのは上級くらいなもので、上級が本当に好いているのは“精霊眼”の“本物の精霊に愛されし者”だけなので“精霊眼”の人間に魔力暴走が起きないらしい。
同じく、身内に“精霊眼”の人間が居れば魔力暴走が起きない。
ミラはアトリアに“精霊眼”についてや“精霊に愛されし者”について話したらしいが、ユピテルやシャウラも知らないのでと細かく説明をした。
そしてシャウラが本来なら“精霊眼”の“精霊に愛されし者”だったと言うことも。
「そのギフトが本当なら、君こそが本物の聖女だとされそうだな…」
アトリアがそう言うとミラが言葉を詰まらせた。
精霊と会話できるなんて、光属性の加護よりずっと価値があるだろう。
ミラの“聖女になる”発言はもしかしてギフトについてバラすのも込みで考えている?
「色々な意味で無事で済まないかもしれないよ」
アトリアはミラを信じているのだろう。
疑う言葉は一切出てこない。純粋にミラの心配をしている。
それはシャウラも同じようだった。アトリアの言葉に頷いている。
「分かっています。だからこそ最終手段なんです。それに精霊の姿が見えて会話できるのは私だけですから証明する手段も考えなくてはいけません…」
「確かに下手したらミラ嬢のほうが嘘を吐いてるって糾弾されるかもしれないね」
僕がそう言うとミラは頷く。でもまあ手立てが無いわけではない。
「…ところでその…“転生者”とは何か特別なんでしょうか…?精霊に好かれやすい魂…というのは分かりましたが…」
シャウラが遠慮がちにおずおずとそう口を挟んだ。どうやら気になっていたらしい。
確かにまだ転生者に関してはしっかり説明はしていなかった。
「…、んんと、僕たちは前世を覚えてるんだ。つまり、人生2回目…なのかは分からないけど、前回の人生を覚えているから延長のように感じてる」
「前回の人生を…」
「つまり中身は…前世が大人だったから、年齢足したらおじさんってことなんだけど……、ガッカリした?」
「ガッカリなんて…!」
シャウラは思わず立ち上がろうとすると途中でハッとして止まった。軽く咳払いをすると恥ずかしそうに席に座り直す。
「そ、その、リギルが大人っぽい理由は分かりましたわ…」
「大人っぽい、かなあ…」
何となく気恥ずかしくて頰を掻いた。シャウラは僕のことそんな風に思ってたのか。
そんな僕をじっと見つめてミラが何か考えている様子なので僕は首を傾げる。
「あの、そういえばリギル様は前世は何歳だったんですか?」
「えっ?あー…二十二だよ」
「わっ、本当に大人ですね。私は十六歳でした」
え、ミラは十六歳で死んでしまったのか。まだまだ若いと思うんだけれど、何かあったんだろうか…。
いや、僕が言えたことでは無いんだけど。
「…二人ともやけに若いね」
アトリアも同じことを思ったのか、少し気まずそうにそう言った。
前世の死因なんて話すべきじゃないかな、気持ちの良い話ではないし。でも気になるだろうか。
「気になる?」
僕が聞くとアトリアとシャウラは顔を見合わせてから、二人とも首を横に振った。気を遣ってくれているのかもしれない。
僕はくすりと笑うと気を遣わなくて大丈夫だからねと答えた。
「今の方が幸せだから、複雑だけど良いんだ」
もちろん僕らを殺したやつを許せるわけでも、前世死んだことが悔しく無いわけでは無いけど、未練とかは全くない。
前世では友達も恋人も居なかったし、両親もまだ生きている。環境的にはこっちのが幸せなんだよね。
「…、…前世で恋人とかは…」
「?いないよ?いたことない」
「そ、そうですか……」
シャウラの質問に即答するとシャウラがホッとした顔をする。
え、いやめちゃくちゃ可愛くない?前世のことにまで嫉妬しちゃうの?ほっこりしちゃった。
「…、ミラ嬢は?」
アトリアがじっとミラを覗き込むと、ふえっ!?と声を上げた。
えっ、え、と言いながら慌てている。
「そ、その、い、居ないですよ?その、入退院を繰り返してましたし…」
ミラのその言葉になんとなく察した。若くして病気で亡くなったんだろう。
アトリアはちょっとだけ複雑そうな顔をする。
「それは…、複雑だけど…」
「というか、私の嫁はシャウラ様でしたし」
「え?嫁?」
嫁って言っちゃった。
ミラはハッとして口を押さえる。僕は僕で頭に手を当てた。
シャウラとアトリア、ユピテルまでも頭の上に「?」を浮かべている。
うーん、嫁って特殊な言語だからな。説明が難しい。
「…?ミラの前世には私も居たんですの…?」
「あ、いや、そうではなくて、ですね」
首を傾げながら困惑するシャウラと目をぱちくりさせているアトリアにミラは一生懸命説明している。
とりあえずお嫁にしたいほど好きな相手ということと、シャウラは推しで、推しというのは憧れの人を指すということだけはなんとか伝わった。
意味合いは違うけど多分一番分かりやすい。
「ふむ…?とりあえず分かりましたけど、何故ミラの前世の憧れの相手が私なのですか…?」
今度は僕とミラが顔を見合わせる。ゲームについては説明しても分かりづらいだろう。
ミラも同じことを考えているようだ。
「そういえばミラ嬢が以前から僕らを知ってると言ってたり普通なら知らないようなことを知っていたのは……」
「あ、その、それはギフトのせいではなく、前世を覚えているせいです」
精霊の仕業じゃないのか…とアトリアはぽつりと言った。
どう説明しようか、ミラと僕は考えあぐねていた。
ミラと打ち合わせとかは出来ずに僕が突発的に設けた場だったので仕方ないといえば仕方ない。
「……、ええと、前世の僕たちからしたら二人…いや、みんなは物語のキャラクターだったんだ。僕らも含めてね」
とりあえずゲームだと言う必要はないだろうと僕は考えて、その方向で説明することにした。




