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117・ミラのギフト

「聖女になるって……」


「もちろん状況が良い方向に向くとは限りませんし、簡単なことではないのですが…、それに最終手段として考えているという話です」


「最終手段…」


つまり、それは完全にいまの聖女アンカを排する場合ということだ。

でも僕たちとしてはまだ牢獄に彼女をぶち込みたいとかではないので敢えて引き摺り下ろす必要はない。

とはいえこのまま彼女が勝手をするならそうなっても仕方ないってこと。


「…君に危害が及ばないか心配だな」


アトリアが本当に心配そうにミラを見つめた。

ミラは真剣に見つめられたのが恥ずかしいのか、照れながら大丈夫ですと答えている。


「しかし、聖女になるってどうやって」


「ようは強い光魔法が使えればよいのですよ」


ミラが僕の言葉にニコッと微笑む。どうやらミラなりに何か策があるらしい。

精霊に愛されしヴェラのおこぼれを授かった僕でさえ、光魔法はそこそこに使える。となればミラは僕の何倍も強い魔法が使えるかもしれない。


「ええと、では何から話します…?」


ミラが僕の方を見る。ミラはミラで僕を気にしないで話したいことを話せばいいのに。

でもまあ言い出しっぺは僕なので、僕から話すのも筋な気がする。


「…、シャウラにアトリア、…そしてユピテル」


僕はユピテルをチラリと見た。


「…私も聞いて良いということですか?」


僕はユピテルの言葉に頷いた。許可しないとユピテルはここで聞かなかったフリをするだろう。

今回はもうユピテルにも話しておきたい。


「…三人は、前世や来世があることを信じている?」


「つまり、輪廻転生でしょうか」


「まあ、そうなるね」


ユピテルの質問に僕は軽く答えた。突然の話にシャウラとアトリアは首を傾げている。


「…聖女はまた聖女として生まれ変わるなんて話は良く聞きますわね」


それに関してはデマだよ。と心の中で答える。

今の聖女は前世は違う世界の人間だったわけだし、でもまあとりあえず今それを言う必要はないから後で話そう。


「私はあったら面白いなと思うくらいかな」


「…、そうですね。私もアトリア様と同じです」


とりあえず三人とも否定はしない、といったところだろう。

そんなのあるわけないでしょ!とか言われたら話しにくいので助かる。


「…、僕もミラも前世を憶えていて、同郷だったんだ」


僕の言葉にアトリアとシャウラが目を丸くする。

ユピテルは何を考えているかは分からないけどあまり驚いているような様子はない。何か勘付いていたのはやっぱり確かだったんだろう。


「と言っても前世で知り合いだったわけじゃ無いんだけど…、共通の話題とかあってね、ミラと僕…つまり同郷の“転生者”にしか分からない話があった」


「……、そうか」


アトリアが心当たりがあるのか何か納得した様子を見せる。

ミラが話した内容について気になってたところでもあったのかもしれない。


それで問題はここからなんだけど、ここがゲームの世界だったってことをどうやって説明しよう。


「…あの、御三方は星蝕についてご存知でしょうか」


ハダルに聞いた星蝕の話でもしようか…、そう考えるのと同時…いや、ミラのほうが数秒早く、星蝕の単語を口に出した。

アトリアとシャウラは静かに首を横に振る。それを見たミラはちらっとユピテルの方を見た。


「…、存じております。五百年ほどに一度の空から星が消える夜のことです」


「え、空から星が?」


「ええ。一番最近では三十一年前の七月七日ですね」


アトリアにユピテルは頷きながら説明した。

よく細かく覚えているものだと思うけれど、星蝕の日って奇しくも前世の世界の七夕なのか。

全部がそうってわけでは無いのかもしれないが。


「星が精霊の本体…つまり御身とされているという話はご存じでしょうか?星蝕とは精霊が異世界に一晩旅に出るのです。そして気に入った魂を連れ帰る。連れ帰られた魂はこの世界で生を受けます。五十年ほどかけて。その結果が私たち転生者です」


ミラが胸に手を当てながら丁寧に説明をした。

しかし、こんな話をしたって疑念が湧く。神話でもない、資料にもない、そんな話をどうして……


「どうしてミラ嬢がそんなことを知っているんだい?」


そうだ。どうしてミラは星蝕について知ってるんだろう。

ゲームにもその存在すら無かったから僕は初耳だったし、アトリアと同じ疑問を持っていた。


攻略本の知識?ハダルから聞いたから?


攻略本に乗ってたら先に話してくれそうなもんだし、ハダルももしかしてミラから聞いたのかもしれないと僕は思っている。

ミラは何らかの手段で後から星蝕の話を知った。きっとその原因を今話そうとしている。


「…、この前鑑定に行ったとき、私は私の力を知りました。……つまるところ、聖女様のように、ギフトを持っていたのです」


「…手紙をくれたよね」


僕がそう言うとミラは黙って頷いた。

星蝕を知ったこととギフトについてはどうやら切り離せない話題のようだ。

つまり、ギフトがきっかけで知った?とか?


「私のギフトは“友好対話”というモノでした」


「…、対話スキルは…動物と会話できる非常に珍しいスキルですわよね?でも友好とは……」


シャウラが対話について補足してくれた後に首を捻った。

絶対とか精密とかなら割とどんなか想像はつくけれど、友好と言われてもどう強化されてるのかはわかりにくい。

言葉が分かるだけじゃなく仲良くなれるとか??


「ギフト、友好対話は動物、植物との意思疎通ができます…」


「動物に加えて植物までかい?それはすごいね」


アトリアが純粋に感心している。植物と会話ってどうするんだろう。

というか、植物って何か考えてたりするもんなの?


「あ、植物はなんとなーくですよ。言葉を理解しているわけでは無いのでイメージが伝わるというか…ちょっと会話とは違います」


僕の疑問に答えるようにミラはそう言って苦笑いした。

詳しく聞くに、植物が見た映像を感じ取ったり、水が足りなくて枯れそうだな、とかそろそろ花が咲きそうとか漠然としたモノを感じとるようだ。


植物が見た映像か…、数分前に人が通ったとかを植物に確認できるなら何か探偵とかになれそう。


「……、それだけではありません。私は…その…精霊とも会話が出来たんです……」


「へえ、精霊と……」


そこまで言って、僕は一瞬だけ固まる。その一瞬でミラの言った言葉をもう一度噛み砕いて理解してギョッとした。


「「「精霊と会話!!!????」」」


アトリアとシャウラ、そして僕の声が重なった。みんな今日で一番大きな声を出していたと思う。

ユピテルすらも声は出さずとも驚いた様子だ。


…、いや、そもそも姿も見えないのに、精霊と会話だって?そんなこと、できるもんなの?

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