115・とある執事見習いと酒場の話
「ありゃりゃ〜、折角沢山、傀儡を作ったのに、ほとんど捕まっちゃったみたい」
「こんなところでする話ではない」
(傀儡…?)
二人の少年…、恐らく少年であろう…が、冒険者の集まる夜の酒場で会話をしていた。
目深にフードを被っていたので覗く前髪の色くらいしか分からないから少年かどうかは判断がつきにくいが、声がやたらと若い。
片方は麦わら色の髪に緑眼、もう片方は瑠璃色の髪と瞳で眼帯だ。傀儡と口にしたのが前者、制止したのが後者。
それに耳を傾けていたのは赤髪に赤と白のオッドアイの青年…、大人の姿になり、酒を楽しんでいたイザールだった。
少年の姿だとまともに酒など楽しめない。
「防音魔法かけてるし〜?」
緑眼のほうの少年は軽くそう言った。一般人にはそりゃあ聞こえないだろうが、イザールにはバッチリ聞こえている。
面白そうな話なので聞こえてないふりをしながら聞くことにしてイザールは酒とつまみを追加した。
「それにそういう話をするためにわざわざ来たんでしょ。知り合いなんか酒場に居るわけないし」
緑眼の言葉に「そうだが…」と眼帯が言葉を詰まらせた。
防音魔法があるとはいえ周りが気になるらしく、警戒心が強い。
「…、どうするんだ?」
眼帯の質問は最初の緑眼の言葉に対するもののようだった。
「どうするもな〜、放置っしょ。魔石飲ませて従属させてるし、どうせまともなことは話せないぜ。話せても誰に魔法をかけたかくらいのもんじゃない?あんまり余計なこと話そうとすると“古の魔族様万歳ー!古の魔族様の為にィ!”としか話せなくなるようにしたし」
「クソ悪趣味だな」
眼帯が吐き捨てるように言った。心底気持ち悪いと言うように顔を歪める。
“古の魔族”という単語にイザールは反応した。
基本的にカフもイザールも魔族は好きではないが、古の魔族というのは特別嫌いだ。
さっきからする背中がぞわぞわするような嫌な感じの正体を悟ってうんざりした。
(この二人、古の魔族の末裔みたいっすね…純血ではなさそうっすけど)
古の魔族が昔したことをイザールとカフは忘れていない。
「でもまあ魔族を操る練習にはなったかな。魔力の暴走を故意に起こす方法も完全に確立できたし」
「それで?王子にやるのか?」
「んー、何をどうするかは考え中〜」
古の魔族がこのプラネテス王国の王族を恨んでいるというのはイザールにも安易に想像できることだった。王族の祖である勇者にほとんど滅ぼされたのだから。
「聖女には…」
「分かってるって〜、レグルスがちゃんと協力している間は聖女には何もしないってば」
緑眼がレグルスと呼んだ眼帯の背中をバシッと叩いた。
あまり仲良くは見えないなとイザールは思っていたが条件付きの協力関係のようだ。
「あーぁ、折角タラッタ王国に沢山傀儡を作ったんだから滅びれば良かったのに。期待外れだわ」
緑眼は残念そうに肩を竦めるが、それを見たレグルスはため息をついていた。
タラッタ王国といえば数日前までイザールの主人であるユピテルが行っていた国だ。
…、と、なると遭遇した可能性が高そうだな…とイザールは面倒事に巻き込まれて嫌そうな顔をするユピテルの顔を思い浮かべた。
「隣国が滅びたところでメリットはないだろう」
「面白いじゃん」
緑眼のその台詞にレグルスがクズが…と吐き捨てるが、緑眼は特に気にしてないようだった。
明るくクズでーすと言うあたり肝が座っているのかただの馬鹿なのか分からない。
「古の魔族のほうがよっぽど滅びた方がいい」
「それは聖女の考え?」
「彼女はそんなことは言わない。俺の考えだ」
レグルスははあとため息を吐く。
古の魔族でありながら古の魔族が滅びた方が良いと言い、どうやら聖女を守るために緑眼に従っている様子のレグルスという少年にイザールは僅かに興味を抱いた。
もしかして自分たちと同じで実際は“古の魔族を恨んでいる”のかもしれない。
「まあそんなカリカリすんなってレグルス。無事プラネテス王族が滅びれば、俺らは俺らで解放される」
レグルスを咎めるわけでもなく緑眼がそう言った。どうやらこっちも古の魔族自体に思い入れがあるわけではないらしい。
この混血二人がどう生み出されたのかイザールは少しだけ気になった。
「…、解放されればいいがな」
レグルスがぽつりと呟く。神経を研ぎ澄ませて魔法で集音していたイザールには聞こえたが、緑眼には聞こえていないようだった。
「…お前は解放されることが目的か、エルナト」
呼吸を一拍置いて、レグルスが緑眼…、エルナトに語りかける。エルナトと呼ばれた少年はそれに対して、頷くとくすりと笑った。
「そうだな。自由が欲しい」
「…お前の母親はまだ生きているしな」
「お前と違って上手くやったからな」
エルナトをレグルスがじろりと睨む。どうやらやっぱり仲は良くないらしい。
イザールは話を盗み聞きしながら串焼きを手に取って食べる。この酒場の串焼きは絶妙に不味いのだが、そのぶん酒が旨く感じるのでよく注文する。
他の客は串焼きなんかよりステーキだのの方が好んで食べている様子だが。
「とはいえ弱点があるって本当にキツいぜ。よく分かるだろレグルス」
レグルスはエルナトの言葉に黙り込む。どうやら聖女のことを言っているらしい。
イザールはちょっと前にカフから聞いた聖女の話を片っ端から思い出してみるがろくな話がない。彼が聖女に惚れているなら相当に趣味が悪い。
惚れっぽいイザールでも聖女は願い下げだ。
「まあいいんじゃないか?王太子が死ねば聖女は王太子と結婚しないだろ」
「別にそれが良いとは思わない」
「スカしちゃって」
揶揄うようにそう言うエルナトをレグルスは再び睨む。
この二人の関係性というか温度差はイザールになんとなく既視感があった。イザールとカフみたいだ。
(まっ、僕とカフは一心同体、ラブラブ仲良し兄弟っすけどね!!)
そう心の中でイザールは思うも、本人に言ったら嫌がられてデコピンでも食らいそうだ。
デコピンで済ませて否定はしないだろうけど。
そのまましばらく話を聞いてみたが、他に特に面白そうな話などはなかった。
細かい作戦についてとかはベラベラ話したりはしないようだ。
(プラネテス王族を魔族を操る技術と魔力の暴走を引き起こすことで滅ぼす話…っすか…)
まあ、しかし今ここで聞いたこの話は主人の役に立つに違いない。
上手く関わらせてもらえれば“古の魔族”に何らかの嫌がらせも出来そうである。
そんなことを考えてにんまり笑うと、つまみを食べ終わったイザールは酒を飲み干して代金を払い、店を後にしたのだった。
「…、バッドエンドは物語としてつまらない…っすよね」




