114・帰宅
「んあー…疲れた〜……」
夕食を終え、湯浴みを終え、僕は布団に横になった。
さすがに馬車の長時間移動は疲れた。旅行自体は楽しかったんだけど。
やっとユレイナスの屋敷に帰ってこれた。
「お疲れ様でした」
僕を見ながらくすりと笑ったユピテルはハーブティーを持ってきて、ナイトテーブルに置いた。
「アトリアとミラ嬢は大丈夫かな…」
無理にリオがアトリアとミラを二人きりにし
たらしくて、なんか二人は妙な雰囲気だった。
起き上がってお茶を飲みながらそう言っていると、ユピテルがふむ…と考える仕草をする。
「大丈夫そうだと思いますけど私は」
「そう?」
「まあリオ様の作戦は荒療治過ぎますけどね」
「だよね?」
プレゼントを渡させて謝らせるとかゆうのは分かるんだけど、そのためにいきなり二人きりっていうのもな…。
でもアトリアに聞いたら仲直りは出来たらしいし、まあいいか。リオもアトリアにでこぴん食らっていたし。
「長旅でしたね」
「ほーんとそれ」
まあ移動時間も含めれば十日ほどだったし、何より内容が濃すぎた。
旅行のことだけじゃなく、魔力の暴走事件のことだって報告しないといけないな…。
書面に纏めよう。整理も含めて。
「それで聖女様のことはどうなさるんです?」
「え?聖女?…あー……」
こう言っちゃなんだけど、完全に忘れていた。
でもまあ決着?は夏休み明けではあるし、まだ時間はあるっちゃある。
でもおかしな提案をされたことはシャウラにもしっかり話すべきだろう。
…、ヤキモチ妬くかなあ…。
「何ですかリギル様、しまりのない顔をして」
「えっ!?」
思わず僕は頬をびたーんと両手で挟んだ。もしかしてにやにやしていた?恥ずかしい。
ユピテルが呆れた顔をしている。
「まあどうせシャウラ様のことを考えてたんでしょう」
バレてら。
ユピテルってやっぱり心が読めるんじゃない?
じとりと見つめるとユピテルはクスッと笑った。
「聖女様が哀れになってきますね」
「何で?」
「リギル様に相手にされなさ過ぎてです」
哀れと言いつつユピテルは笑っている。うーん、性格が悪い。
とはいえ、僕が断ってもケロッとしているだろうな。いや騒ぎはするだろうけどさ。
聖女への対応についてはマジで要相談だ。
…、夏休み中にシャウラをデートに誘おう…。
「聖女が今どうしてるとかユピテルは分かるの?ほら、弟が仕えてるでしょ」
「ふむ、ここのところは全く。私もリギル様の旅行に着いて行ったので手紙を受け取れてませんし」
どうやら手紙になっているらしい。
「リギル様へのお手紙も沢山溜まってますよ」
「うげ……」
長期休みになるとお茶会やらパーティーやら開くので来て欲しいなんて手紙や招待状が沢山届く。
ユレイナス家にどうやってでも縁を作りたい人間なんて沢山いるからだ。
学園でだって最初の頃はめちゃくちゃ話しかけられた。僕が拒否するから少なくなったけど。
まあ、そのぶん(学園で話せないぶん)もと招待状を送りつけてくるのだ。
令嬢からの手紙も少なくはない。さすがにシャウラが婚約者としている手前、釣書を送りつけてくるのは無くなったけど、何故か自信満々に自分の方が僕に相応しいとか言う令嬢は多い。
シャウラ以上に綺麗で完璧な淑女はいないし、ヴェラ以上に可憐で純粋な令嬢も居ないけどね???
「…、まあ適当に読むよ」
手紙は基本スルーするとしても内容くらいは確認しておくべきだ。
招待状は重要なものが混ざっていたら困るからね。
シャウラのためになるべくすぐに公爵位を継ぐつもりがあるから、人間関係は放置はできない。
シャウラとの婚約式の準備もそろそろ始めるべきなんだろうな。付け入る隙があると思われているのがそもそも良くないんだろう。
ああ、手紙と言えばミラにも出しておくべきだよな…、色々情報を共有しておきたい。
「要らないのは纏めておいて下さい。燃やします」
「容赦ねえ〜」
まあそのユピテルの容赦なさ、僕は嫌いじゃないけどね。
最近はなんかユピテルも感情表情が豊かというか、本当の感情を出すようになってきた気がする。
まあ、残虐な面を出されたら困るけども。
「容赦なんて要らなくないですか?邪魔なら消し去るのは基本です」
「なんの基本?」
マジで分からない。怖すぎる。
ユピテルは冗談ですよーとくすくす笑っているが冗談って何だっけ?
「まあ冗談はともかく…、処理の方はお任せを」
「あー…うん、頼むよ」
僕がそうやって返事をしてからユピテルが小さく人間でも…と呟いた。
よし!聞かなかったことにしよーっと!!!
邪竜の感覚に付き合ってたらマジで身がもたないもんね。
会話が終わると飲み終わったティーカップを回収して、ユピテルは部屋を出て行った。
明かりを落としてベッドに再び横になる。布団をかけて少しだけ微睡んできた。
とりあえずスキルとギフトのことはだいたい分かったし、ハダルという友達も出来た。
転生仲間が増えるのは正直言って心強い。…常識がある相手ならだけど。
目下の課題は聖女のことで、それから長期戦になるけどヴェラの魔力枯渇症のことだな…。
聖女に関しては本当に何考えてるか分からないから助けて欲しいみはある。
自分は主人公!ドヤ!ってしてるみたいだけど立場とか影響力とか考えてないのはマジでどうにかして欲しい。
頭の中で色々ぐるぐる考えているうちにさらに眠くなってきた。結構疲れが溜まっていたらしい。
明日はヴェラと一緒に買ったお土産をみんなに配ったり、母様や父様にも折を見て直接渡しに行こう。
その後も色々考えていた気がするけれどいつの間にか意識を落として夢を見ないくらいにぐっすりと眠っていた。




