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108・何とは言わないけど

「……それでお兄様はコソコソとリオ様とお買い物に出かけたんですの?」


「そうみたい」


僕が苦笑いするとシャウラはもう…と呆れ顔をした。


帰るにも時間がかかる。なんせ片道二日だからね。

…そんなわけで暗くなってきたのでタラッタ王国のプラネテス王国に接する国境近く、ハルト領に来ていた。

ハルト辺境伯はアスピディスケ侯爵と懇意にしているらしく、アヴィが連絡を取っておいてくれた為に屋敷に泊めてくれることになった。

ハルト領はワインの産地、つまり葡萄畑が多いのだけど、そのおかげで領地は潤っているため市場が賑わっていた。

色々なものを売っているため、


『とりあえず仲直りにはプレゼントだよ!』


というリオの言葉のもと、騎士二人を引き連れて買い物に出かけたのだ。

暗くなってきたとはいえまだ夕方だけど、危ないから早く帰ってくるようにと注意はしといた。


僕はというと、馬車が一緒じゃなかったので二人きりでお話をしたいですわ…というシャウラの可愛すぎるおねだりに負けてソファに並んで座りながらシャウラと話している。

その流れでアトリアとリオが何処に行ったのか知らないかと言われたので洗いざらい話したのだ。


「ミラ嬢の様子はどうだった?」


「…ちょっと元気がなさそうな気がしてましたけど、疲れてるだけだと思ってましたわ」


アトリアに拒絶されたと思ってショックを受けたのかもしれない…と考えてみるも、ミラはミラでアトリアの性格やルートの動きとか、考え方みたいなの知り尽くしているしなぁ…。

でも分かっていても手を振り払われたらショックかも?何か伝えたかったみたいだし。


「ヴェラ様とも穏やかにお話ししていて…、言われてみれば…という感じですがあまり違和感は感じてませんでしたわ」


「そっかあ……」


そういえばミラに話したいこともだいぶ溜まっている。

特に魔力の暴走のついて話したこととか…あの場には僕にユピテル、アヴィしか居なかったから。

もうみんなに話すべきだろうか…、ただ魔石を飲まされた魔獣の件はミラにしか話してないのでそこから説明する必要がある。


そんなこんな色々考えていると、ほっぺたを何かでむにっと突かれた。

横目で見るとちょっとムッとした様子でシャウラが僕を見つめている。


「ミラのことばっかり考えないでくださいまし」


「え、あ、ご、ごめんね…?」


か わ い す ぎ か ?


もしかして、いや、もしかしなくてもこれは嫉妬である。

僕がミラの心配をしているのを(まあミラとアトリアなんだけど)シャウラは面白く感じなかったらしい。


「リギルとお話ししているのは私ですのよ?」


シャウラの山吹色の瞳が僕を映している。きらきらと輝く瞳に吸い込まれそうだった。


「もう、リギルは他人の心配ばっかりしてますわ」


「そんなことないよ」


「あります!」


むーっと頬を膨らませるシャウラの髪を僕は優しく撫でた。

ぴくりと肩を揺らして反応したシャウラはじとりと僕を睨む。


「リギル、誤魔化されませんわよ?」


「うん、ごめんね」


怒るシャウラを宥めながらシャウラの長い髪を掬うとさらさらと指の間から溢れ落ちていく。

溢れ落ちながらきらきらと艶めく髪を僕は見ていた。

完全にシャウラの髪が僕の手から落ちる前に優しくシャウラの髪を掴むと残った毛束にキスを落とす。


「っ…!???」


ちらっと目線を上にやると、それを見たシャウラは真っ赤になっていた。

さっきまで怒っていたのに今度は困ったような顔をしている。ころころ変わる表情が愛おしい。

つまりちょっとからかってしまったのだ。

手を離してニコッと笑いかけると思い切り目を逸らされてしまった。


「り、リギルは狡いですわ…」


「狡いって?」


聞きながら身体ごとシャウラに近づいた。拳ひとつぶんくらいはあったシャウラとの距離が無くなって、シャウラが慌てて身体をずらした。

なので僕もシャウラに近づいて、ソファの端にシャウラを追い詰める。


「そ、そういうところですっ」


最後の抵抗…!とばかりにシャウラは僕との間に片手で壁を作る。でもその小さな手は僕が手を被せればすっぽりと僕の手の中に収まってしまった。

シャウラの細くて柔らかい手はひんやりしている。

シャウラはキッと僕を睨んでみたけれど、全然全く怖くないどころか真っ直ぐ僕を見てくれたのが嬉しいし、可愛い。


「すぐっ、そうやって…、か、顔が良いから狡いですっ…!」


ん?僕が顔を武器にしてるってこと?


「リギルが、その、上目遣いしてきたり、顔を近づけたりして……卑怯ですわっ…」


「それはシャウラは僕の顔が好きってこと?」


僕がそう尋ねながらシャウラに顔を近づけるとシャウラは小さく呻きながら顔を逸らした。


「…、か、顔も、です」


シャウラの言葉に思わずくすっと吹き出してしまう。

どうやら顔だけで好きになったと思われたくなかったみたいだが、どうにもいじらしい。


「僕もシャウラの中身も顔も全部好きだよ」


「わ、私は全部なんて!い、言って…ない、…ですわ…」


シャウラの言葉がだんだん尻すぼみになっていく。

不安そうな目でこちらを見ている。酷いことを言ったんじゃないかと心配しているような顔だけど、僕は全然気にしてない。

黙ってシャウラを見つめていると、シャウラはふっと目を伏せた。


「…、………や、やっぱり、全部好きです」


伏せたシャウラの長い睫毛が綺麗で思わずシャウラの頬にシャウラの手から離した手を伸ばしていた。

手を添え、親指でシャウラの目尻の辺りを撫でるとシャウラは驚いたような顔で僕を見る。


「シャウラが言った二人きりって、こういうことじゃない?」


「え、いえ、そんな」


「シャウラが自分以外のことを考えないでって言ったんだよ?」


「ええ!?いや、あの、そういう意味合いではなくっ…!リギルが難しい顔をされていたのでっ…」


「僕は今シャウラのことしか考えてないよ」


「…っ……」


シャウラがさらにみるみる真っ赤になっていく。

手はそのままにシャウラの顔をじっと見つめながら僕の方も心臓がばくばくしていた。

リギルは余裕そうとか甘い言葉を平気で言えるとかシャウラによく言われるんだけど、最近は特にそんなに余裕じゃないし、確かに甘い言葉はすらすら出てくるけどシャウラに言った後は割と恥ずかしい。

距離感だって嫌われないか心配で手探りだ。


でもこうやってもシャウラは抵抗も振り払いもしない。

だから距離が近い。シャウラの吐息が僕の手首を伝う。


今って、何とは言わないけど、絶好のチャンスなのではないか?

いや、何とは言わないけど、チャンスだよね?


戸惑うシャウラに顔を近づけるとシャウラは一瞬身体を強張らせた。

怖がらせてしまったかと思って離れようとするも、いつの間にかシャウラの片手が僕の腰のあたりを掴んでいて、離れられなかった。

シャウラは本当にか細い、小さな声で「大丈夫ですわ…」と呟く。潤んだ瞳がじっと僕を見つめている。


「シャウラ…」


頰に触れていない方の手をシャウラの背中に回した。

自分の心臓がうるさい。耳のあたりに心臓があるような、全身がバクバクと音を立ているような、そんな感じだった。


シャウラはギュッと目を閉じた。

……、それでもう、本当に駄目だった。


気付くと柔らかい感触が唇に当たっていた。シャウラの吐息を一番近くで感じた。

……、一瞬だった。一瞬、唇と唇が触れただけ。

だけど、永くも感じたような気もする。


……、…もっとしたい。


ちょっと触れただけなのに、柔らかくて良い匂いがして、もっと、これ以上…、そんな感情がふつふつと湧き上がってきたけれど、顔を赤らめて口元に手を当てる彼女を見て、ぐっと堪えた。


シャウラはちらりと僕を見ると、柔らかく、優しく微笑んだ。

どうしてかそれだけで心が満たされる思いだった。


僕は溢れる想いをどうにかしたくて、シャウラをぎゅっと抱きしめる。

シャウラもそれを受け入れて、僕を抱きしめてくれていた。

このまま溶け合えたらいいのに、なんてくだらないことを考えてしまうくらい、幸せな時間だったような気がする。


しばらくしてどちらともなく離れると、気まずいような甘いような雰囲気で、その後どんな会話をしたかなんて全部忘れてしまった。







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