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101・ピクニックみたいなランチタイム

「ボート遊びはどうでしたか?」


ボード遊びを終えてリオたちと合流すると、ユピテルが僕たちにそう尋ねてきた。


「楽しかったよ」


「真ん中すごく湖が深くて綺麗だったわ!」


未だ興奮冷めやらぬヴェラが目をきらきらさせながらそう言うと、ユピテルがクスッと笑った。

ユピテルの後ろからバケツを持ったリオが近づいてくる。


「ミラちゃんとオレで魚いっぱい釣れたよ!」


どやっとしながらリオが見せてくれたバケツの中には虹色のオイカワがきらきら光を反射させながら泳いでいる。十匹くらいはいるだろうか。

ちなみに制限はあるけど持ち帰りは自由らしい。


「お邸に帰ったら調理してくれるでしょうか?」


ミラがそう言ったので、多分大丈夫じゃない?と答えた。

リオとミラの二人がきらきらした目で見てくるのでこれは持ち運んで欲しいってことだな…と察して、収納魔法で仕舞ってあげた。

生きた魚も新鮮なまま運べるんだから、商人だったら喉から手が出るほど欲しいスキルだなぁこれ。


「お昼ご飯にしましょうか」


僕が魚を仕舞うと、ミラがニコッと笑ってバスケットを持ち上げた。

ユピテルが大きなピクニックシートを借りてきてくれたので、木陰に敷いてみんなで食べることにした。

みんなでピクニック的雰囲気を味わえるなんてのもこういう旅行ならではな気がする。

みんなでピクニックシートに座ると水筒に入れておいた冷やした紅茶をユピテルがカップに注いでくれる。

ユピテルはミルクもありますよ、そうにこやかに言った。


大きなバスケットは真ん中に置いて、ミラがパカっと蓋を開くとカラフルな中身のサンドイッチが顔を出した。

底が二重になっていて、出してみると結構たくさんある。


「シャウラ様とヴェラ様と作りました。どうぞ」


そういえば以前シャウラがサンドイッチを作ってくれた事があったなあ、と思い出してみると、


「シャウラ様が作り方を教えてくれて」


と、ミラがそう言って微笑んだ。

ミラは作り方を知らない訳ではないと思うけど、何となくそれはシャウラの提案でサンドイッチにしたということだろうと分かった。

シャウラをちらっとみると恥ずかしそうに視線を逸らされた。

もしかしてアレから練習してくれてたり?具材のバリエーションとかも増えている。

シャウラってやっぱりめちゃくちゃ健気だ。


「シャウラのサンドイッチ好きなんだ。頂くね」


僕がそう言ってサンドイッチを手に取ると、リオやアトリアもいただきますと言って続いた。


「シャウラ様はメイドに習ったって仰っていました」


「シャルロッテか。老齢のメイドでシャウラに一番良くしてくれるんだ」


ミラの言葉にアトリアがそう答える。そうか、さすがに全員が全員シャウラを冷遇している訳じゃないんだ。

エリス公爵家の屋敷の中に僅かでもシャウラやアトリアの味方がいるのは僕にも嬉しい。


「ん、美味しいよ。シャウラ、ヴェラ、ミラ嬢」


そんな会話をアトリアとミラがしている間に僕は一つペロリと平らげると三人に向かってお礼を言った。

シャウラはまた恥ずかしそうにしているが、ヴェラは嬉しそうに頷いた。


「あ、リギル抜け駆け!三人とも!美味しいよ!オレも好き!」


リオがムッとすると慌ててそう言った。ヴェラにありがとうございます、リオお兄様と言われて嬉しそうにしている。


「ユピテルも食べて?」


「…えっ?」


他の使用人や騎士と一緒に僕たちを囲むように立って周りを警戒していたユピテルの袖をヴェラが引いた。

ユピテルが珍しく戸惑っている。


「ユピテルにも一個あげる!それからメイドや騎士の皆にも!」


ヴェラがそう言って微笑むと、騎士とメイド達がざわっとした。

ここにいるのは全員ユレイナス家のメイドと騎士で、いつもお世話にになっているからこの機会に労ってあげたかったのだろう。

それに彼らにも休憩がない訳じゃないが、僕らの護衛や世話をするぶんお昼ご飯はちょっとズレる。


「遠慮しないで?みんなにも食べて貰う為に余分に作ったのよ。ミラもシャウラお姉様もとっても素敵って賛成してくれたの」


ヴェラのその言葉に、ヴェラ様…、やっぱり天使…、お嬢様方優しい…と彼らから声が漏れる。

みんな有り難がると一つずつ手に取って大事に食べていた。

うんうん、ヴェラの信仰者がまた増えたに違いない。


「ほら、ユピテルも!」


全員が手に取り終わるとまだ手にしていないユピテルにヴェラがサンドイッチを差し出した。


そういえば、長年の疑問…、邪竜は食物を摂るのか…?


魔族は食物を一応摂れると聞いたことがある。でも全くエネルギーにはならないらしいので嗜好品扱いだ。

ちなみに魔族は基本的に外的要因が無ければ不老半不死なので食事とか要らないのだ。

半不死というのは取り返しのつかない、つまり核まで傷つくような外傷があれば死ぬし、魔力が尽きても死ぬから。

魔力が尽きることに関しては、魔法の使用の際は減り過ぎるとストッパーがかかるためあまりないが…まあ例えば魔力枯渇症なら死ぬ。もちろんストッパーがかかっていてもなくなる直前になれば弱る。ちなみに魔力は自然回復するらしい。


でもユピテルは魔族に近いとはいえ魔族ではない。

どの生き物でもない、邪竜という、ある意味一つの一人きりの種族だ。

僕はユピテルが食事どころかお茶すら口につけているのを見た事がなかった。

毒見をします、とか言っても目の前でする訳もなく、そもそもコイツの場合見れば毒入りかどうか分かった可能性が高い。

だから基本的には摂らない、好まないのだと思っているのだけど。


ヴェラにじっと見つめられて困ったユピテルは渋々手袋を外してサンドイッチを手に取った。

その様子をリオやシャウラたち、メイドや騎士など他のみんなもじっと見ていた。

使用人メイドたちですら見たことないんだろう。


ユピテルがサンドイッチを一口食べると何故かおお…と小さな歓声が上がって、無表情でユピテルがぱくぱくと食べて飲み込むまで、所作が綺麗なせいもあってかみんな釘付けになっていた。

ユピテルは最後の一口を食べ終わると、ヴェラににこりと笑いかける。


「美味しゅうございました。ヴェラ様」


正直どっちなのか分からない。


本当に美味しいと思ったのか、本当は思っていないのか。

ユピテルに人間の食事ってどう感じるんだろう。

でもなんとなく嘘の笑顔ではない気がする。


「本当?今度ミラがお菓子作りを私とシャウラお姉様に教えてくれるの!ユピテルも食べてね!」


ぱあっと嬉しそうにそう言ったヴェラにユピテルがたじろいだ。

というかミラはいつの間に二人とそんな約束を?


「公爵令嬢がお菓子作りですか……」


「楽しそうだもの!ダメ?」


「……いえ、まあ、毒見なら致します」


ヴェラの純粋な気持ちにはユピテルもお手上げのようだ。断ることを早々に諦めて、そう答えた。

とはいえユピテルも分かっていると思うが万一材料に毒が混入していてもヴェラが作ればヴェラの“浄化スキル”で毒が混入することはない。だから精一杯の答えだろう。

ヴェラは分かってか分からないでか、その答えに満足したみたいだ。


「もちろんお兄様も食べて下さいね!」


僕がくすりと笑ってうん、というと、リオがオレにはくれないのー?とヴェラに絡んだ。

ヴェラはもちろんリオお兄様にもアトリアお兄様にもあげます!とそんなやりとりをしていた。

リオだけじゃなく、名前を出されたアトリアも嬉しそうだ。


そんな和やかな雰囲気の中だった。


「ー…ッキャァァァァァァァア!!!!」


湖の方から耳を劈くような叫び声がしたのは…。





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