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100・クロロン湖

タラッタ王国滞在四日目。


今日はアヴィに教えて貰った湖に行く予定だ。

どうやら話を聞くに火山湖のようで綺麗なエメラルド色をしているらしい。

タラッタ王国は火山がたくさんあるため火山の恩恵というのが結構あるみたいだ。

もちろん活火山も多いため噴火したら大変なのだけど、魔法でわりと何とかできるよう対策も練られているらしい。


というわけで僕たちが泊まっているアスピディスケ侯爵の別邸からクロロン湖と呼ばれる湖までは馬車で三十分ほど。

今現在は馬車に揺られ景色を楽しんでいる。


「だんだん景色が自然に近くなっていきますわね」


「綺麗ですね!シャウラお姉様」


シャウラとヴェラが綺麗な景色を眺めてながら楽しそうにおしゃべりしている姿は癒しだ。

ちなみに今日はミラも同じ馬車で、リオがリギルはこっちでしょ!と叫んだのだがシャウラとヴェラに両腕を掴まれて


「リギル(お兄様)はこっちじゃないとだめです!」


と言われて泣く泣く諦めていた。僕ってばモテモテ。

ミラはシャウラとヴェラの様子を微笑ましく見守っている。

ちなみにもう一つの馬車にはリオとアトリアに加えてユピテルが乗っていて、あとはいつも通り騎士が御者役をやっている。


「もっと大きな馬車ならみんな乗れたんだけどなぁ」


僕はポツリと呟いた。あまり大きいと狭い道は通れないし馬の負担が大きい。

揺れとかも大きくなるし現実的ではない。


「リオお兄様はリギルお兄様と乗りたかったみたいですしね」


ヴェラが僕の呟きにクスッと笑った。まあというより、アトリアをこっちに乗せるってなっても駄々こねてただろうけど。

リオは好きな子がまだ居ない分、友達三人で遊ぶのが楽しいらしい。


「湖からの帰りは一緒に乗ってあげようかな」


「サンドイッチでも食べたら元気になるんじゃないですか?」


僕の言葉にそう答えたミラの膝の上にはサンドイッチの入ったバスケットが置かれている。

馬車の中で落とさないように気をつけてくれているそれはミラとシャウラとヴェラの三人で今朝方作ってくれたものだ。

僕も手伝うと言ったのだけど不器用なリギル様じゃ不安です、とミラに切り捨てられた。

まあ、前世でも妹に料理だけはやらせてと言われたからしたことないけど…サンドイッチって具材挟んで切るくらいだし…それくらいの手伝いなら僕にもできるはずだけどなぁ。





「わあっ…!本当に綺麗ですわね」


シャウラの言う通り、湖は本当に綺麗だった。有名な観光地なので人がちらほらいる。

湖の色はエメラルドグリーンで透き通っていて、湖を覗けば虹色の魚が泳いでいた。

アヴィに事前に聞いた話だと、クロロン湖は火山噴火の後に雨水が溜まってできた湖なので観光地とするにつれて色んな遊びができるようにと魚が放されたらしい。


「このお魚に虹色で綺麗ですね!」


ヴェラがきらきらした目で魚を見つめる。


「オイカワですね」


「オイカワ?初めて聞きましたわ」


「た、多分、多分です!」


シャウラに言われてミラはあわあわする。まあ別の名前で呼ばれているかもしれないしね。

オイカワ…というのは確か前世の国にいた川魚だよな。

僕は分からなかったけど名前くらいは知っている。

ミラって乙女ゲーム情報だけじゃなくて妙に色んな知識があるよなあ。


「釣り体験…って釣るだけ?食えるの?」


みんなが綺麗綺麗と言っている側で風情もデリカシーもないことを言う男、リオ・ラケルタ。

まあリオらしいっちゃらしいんだけど。ミラがリオの言葉に苦笑いする。


「食べられる魚ですよ」


「へえ、そうなんだ!」


「多分食べる目的で釣る人はあんまりいないかもね…」


貴族の遊びだしね。と僕は心の中で嘲笑する。

こんな小さくてきらきらした魚が食べられると思う人も少ないだろうしなぁ。

そもそも魚介類はこの貴族社会ではあまり好まれないみたいなのだ。


「ボード乗りましょう!お兄様」


ヴェラがギュッと僕の腕に抱きついた。可愛い。


「…では、私もたまにはお兄様と」


シャウラが僕らを見てからそう言ってアトリアに微笑みかけるとアトリアは嬉しそうに笑った。

うん、妹に構って貰えるのめっちゃ嬉しいよね。わかる。


「オレは釣りしてみたいなあ…」


「私もちょっと気になります!アウトドアとか縁がなかったので!」


リオにミラが同意して興奮ぎみにそう言った。たしかにお嬢様生活じゃあまり体験できないよな。


「ユピテルはリオとミラ嬢についててあげてくれる?」


ボードは二人ずつ乗りだし、ここは貴族向けの観光地で警備も手薄ではないから大丈夫だろう。

ボード上で襲われる危険も無ければ騎士も控えているし。


「おや、ボードをひっくり返さないで下さいね?」


「返しません〜」


いちいち嫌味なやつだ。


「お兄様行きましょう?」


ヴェラが上目遣いでぐいぐいと腕を引っ張ってきた。早く乗りたくてたまらないらしい。

アトリアとシャウラがこっちを見て、くすりと笑った。


ボードは当たり前だけど手漕ぎのボードだ。乗り場でボードを借りて、お金を渡して乗る。

漕ぎ手は居ないので自分で漕ぐのも含めて楽しむものらしい。


「よし!ヴェラ、お兄様に任せてね!」


ボードに乗り込むと僕は張り切ってオールを手に取った。

ゆっくり水を掻くと、ボードがゆっくり動き出してヴェラがわあっと声を上げた。

隣ではアトリアがボードを漕いでいる。

意外に力が要るのでリオならすぐリタイアしてそう。

なんだかダム湖でカヌー体験したのを思い出した。


一生懸命に漕いで真ん中まで来ると一旦ボードを止めた。湖の真ん中は水深が一番深くて、水面を覗くとその透明度からかすごく綺麗に自分の姿が映っている。


ヴェラがちゃぽっと湖に指先を入れてクスッと笑った。

ヴェラの白銀の髪が日差しを反射してきらきら光り、白のレースの日傘に白いドレスが光に溶け込んでヴェラはいつも以上に天使みたいだ。


アトリアとシャウラの方を見るとシャウラが微笑みながら手を振ったので振り返した。


「えへへ、湖綺麗ですね、お兄様」


「…、そうだね」


…、思えば、前世での生活で妹を旅行に連れて行ってあげられることなんて全くなかった。

たまに遊園地や動物園、水族館とかには行ったけれど。

前世で早くに妹共々死んでしまったことは悔しいし、今でも僕らを殺した奴は許せない。

でも、この世界であの両親の元に生まれ変わったことは幸運だったのかもしれない。大変な事はまだたくさんあるけれど、穏やかな時間が愛おしい。


だから僕はこれから起こる両親の死も防がないといけないし、ヴェラも守らないと。この時間を守るために。


なんだか少し感情に浸ってしまったけれどボード遊びはすごく楽しかった。




いつもご覧下さりありがとうございます!

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これからもよろしくお願い致します!

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