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99・温泉とソーダ水


この国の温泉は源泉から建物にお湯を引っ張ってくる際、土魔法及び水魔法や魔道具を使う。その最中適度に水を加えて適温、適度な濃度にしている。

水魔法で不純物も取り除けるらしいから魔法ってやっぱり便利だ。

浴槽自体はやはり洋風のつくりで、白い大理石造りの四角い浴槽なのだが広さは充分。ちなみに女性用と男性用があり、まあ簡単に言えばホテルの大浴場のようなものだ。

広さはそこそこで五人入っても余裕があるくらいだろう。


前世の温泉とは当たり前だけどイメージが異なった。

だけど温泉は温泉…、真っ白なお湯に仄かな硫黄の匂いは中々懐かしい。

ここの温泉が硫黄泉だったの、ちょっと嬉しいかも。

リオは入った瞬間はウッと顔を歪めたけど、すぐに慣れたみたいだ。


「リギルってさあ…、意外と筋肉付いてるね…」


湯船に浸かるとリオがじとっと僕を見つめてきたので、僕は困惑した。


「リギルは剣の稽古をユピテルにつけて貰ってるんだろう?」


アトリアの言葉にそれは知ってるけどさぁとリオは呟く。

剣の稽古もそうだけど、適度に筋トレもしているし、そこまでして筋肉付いてなかったら悲しい。


「くっ…、オレより甘いものばっか食べてるクセにっ…」


リオが口惜しそうに自分の二の腕をむにむにした。

うーん、むにむにだ。でもまあまだ成長期の子供だしね、僕ら。

比べるようにリオは僕の二の腕も触ってくる。

…というかゆっくり温泉に浸からせてくれ。





“昏き星の救世主”及び“明けし星の輪舞曲”の世界観は中世ヨーロッパっぽい。

とはいえその実、っぽいというだけでファンタジー世界なので冷蔵庫があったり、水筒があったり、水回りが完備されていたり、妙に発展しているどころか魔法の恩恵で前世より文明レベルが高かったりなどそんなところもあれば、貴族がいたり(前世でもまだいる国はあったけど)、移動は馬車だったりと遅れているところもある。

馬車移動に関しては転移魔法陣という手もあるのでそっちで考えると前世よりすごい。


それらのことは服装についても言える。

貴族の服装は中世のように普段からドレスやコートが主流だ。

とはいえ、乙女ゲーム世界なので服のデザインは若干近代的でかつ、それ、どうやって着るん??ってのもある。機能性とかまるで無視である。

シャレオツ的に肩にだけ飾りで鎧が付いてたり、謎のふとももベルトがついてたり…。

ドレスの方はもちろんパーティーなどの公の場ではコルセットをしっかりつけたガッチリ武装…なのだけど、普段はわりと皆さん緩い感じの服装をしている。

豪華なワンピースのような…、僕はあまり詳しくないのだけれど、コルセットがなくて着やすいドレスだ。

もちろん僕らは学園生なので制服でいることが多いのだけど……、と、ここまで乙女ゲーム異世界の服装事情を説明して何がしたいのかと言うと。


「リギル?」


温泉上がりの緩いドレスのシャウラが可愛い。


シャウラを見つめたまま固まった僕を不思議そうに首を傾げて見つめるシャウラは、パステルカラーの紫の可愛らしいドレスを着ている。

少しパジャマのようだけどパジャマにしてはしっかりしたドレス…、その全体的にふわっとしたドレスと温泉上がりのふわっとした雰囲気のせいでシャウラが妖精にしか見えない。

もちろん隣にいるヴェラも白いドレスが輝いて見えるくらい可憐で天使のようなんだけど。


休憩スペースで女性陣と合流したときヴェラだけでなくシャウラの可愛さにボディーブローを食らった。

休憩スペースは開けた空間にソファとテーブルが並べてある。


「シャウラ…」


僕が声をかけると、シャウラは「はい」と言いながらニコッと笑う。


「…まるで夜の妖精かと思ったよ。羽が生えて飛んで行ってしまいそうだ。僕の腕の檻でしっかり捕まえておかないとね」


つい、そう口走っていた。いや、口走っただけでなく、隣に座ってシャウラの手を優しく握った。

シャウラは手を握られると温泉上がりで赤らんでいた頬をさらに真っ赤にした。

僕に手を離して貰えなくて、慌てているのが更に可愛かった。


「ウッ…リギルやめて……、砂糖吐く…」


シャウラが何か言う前にリオが呻いた。何?一気飲みでもしたんか?

僕がリオの方を見た一瞬の間にシャウラが手を引っ込めてしまった。


「あ、その、リギル…、あ、お風呂上がりにどうぞって甘いソーダ水?というモノを売っていたんですの。しゅわしゅわしてるんですのよ」


そう言われてパッと机を見ると透明の瓶に入ったソーダ水…わかりやすく言えば、炭酸水が置いてある。どうやって作ったんだろ。

炭酸水とか前世ぶりでめちゃくちゃ懐かしい。ていうかしゅわしゅわしてるってシャウラかわいい。


「お兄様、美味しいですよ」


そう言ってニコニコするヴェラは嬉しそうにソーダ水を飲んでいる。

リオやアトリアも興味深そうに一本手に取った。


「皆さまのぶんありますよ」


ミラが微笑みながらそう言った。僕も一本だけソーダ水を手に取る。

こくんと飲み込むと、喉でしゅわしゅわっと炭酸が弾けた感じがした。美味しい。

思わず顔を綻ばせるとミラがクスッと笑った。


「なんか、懐かしいですよね」


「懐かしい?」


ミラが言った言葉にアトリアが反応して、ミラがビクッと肩を揺らした。やってしまったという顔をしている。

懐かしいって確実に前世の話だもんな。


「ち、小さな頃一度だけ飲んだことが…」


「そうなんだ?」


「た、炭酸…、えっと、ソーダ水はこのしゅわしゅわが出る源泉があるらしくて…、水魔法で濾過して冷やして作っているそうですよ」


ミラの目が泳いでいる。誤魔化しがてらこのソーダ水が何処からきてるのか教えてくれた。

そういえば炭酸温泉ってのもあったなぁ…、二酸化炭素を含んだ温泉だ。

入る前に硫黄泉以外にも選べたし、ここには色んな泉質が出るらしい。


「少しお土産に持って帰ろうか」


僕がそう言うとヴェラの顔がぱあっと輝いた。

収納魔法で収納しておけば炭酸もそのままに保存できるはずだ。

ヴェラはソーダ水が気に入ったみたい。


「えへへ、実はもうユピテルにお土産用買ってきてって頼んでるんです…♪」


ヴェラがご機嫌にそう言った。通りでメイドと護衛がいるのにユピテルが居ないと思った。


「お兄様なら良いって言ってくれると思って…、それにお父様やお母様にもあげたいです。それにお留守番している屋敷の皆さんにも…」


照れながらヴェラはそう言って笑った。使用人にも気遣いを忘れない、まさに天使である。


「あるだけ買ってこう…」


「少しって言ってたのに!???」


僕の呟きにヴェラは嬉しそうにしていたけど、リオが絶叫していた。

買い占め、ダメ、絶対。

冷静になった僕は店にあるだけ…ではなく、お土産は少しで後で屋敷に送ってもらえるように手配したのだった。

ヴェラが気に入ったのならなんとかウチで作れる方法も考えよう。クエン酸と重曹で作れるしね。









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