96・タラッタ王国の観光地
タラッタ王国滞在三日目。
とはいえ、あとはほぼ観光なのでやる事は特にない。
あの後、ヴェラは一旦起きて湯浴みと食事をすると早めに就寝した。
特に昨日の話で落ち込んでる様子もなく、元気そうだ。
ミラも特に変わった様子はない。
「そういえば鑑定はつつがなくして貰えましたか?」
今日も今日とて、みんなで朝食。同席しているアヴィに聞かれて僕は頷いた。
「契約書まで書いてくれました。アヴィ様の言う通り、真面目な人ですね」
「そうでしょう?あれは本当に生まれつきの性分でしょうね」
アヴィがくすくすと笑った。生まれつきというより前世から真面目なんだろうけどね。
信用してもらう為に契約書というのにはアトリアやユピテルも驚いていた。
「彼に鑑定して貰えて良かったです」
ハダルは転生者だったし、鑑定はギフトだった。
結果的にはかなりいい方向に転がったので本当にわざわざ隣国まで来た甲斐があったというものだ。
「鑑定が終わってからの…今日からの予定などはあるんですか?」
「いえ、実はまだ」
「…おすすめの観光地はありますか?」
返答に僕が困っていると、アトリアがアヴィにそう話しかけた。
今回の大きな目的は鑑定だったので実は行き先はそんなに決めていない。
どうせ長い間滞在するので向こうに行ったらゆっくり考えようという腹積りだった。
都心、つまり首都も予定に入ってはいたが、やめた方が良さそうだ。
ちなみに魔力枯渇症について知る医者を尋ねるのはもう少し後だ。ユピテルに調べて貰っている。
ただそういう医者がタラッタ王国にいるという話はあるがどこに住んでいるのか、というのは分からない。
魔族を診る医者、ということくらいか…。
旅行中に分かる保証はないのであまり期待はしていない。アヴィに聞くにも魔力の暴走が起きてる中だとちょっとタイミングが悪くて躊躇いがある。
ヴェラがこの状況を止められるかもというのが万が一バレてしまうのが怖い。
バレないように上手くやっても何故魔力枯渇症のことを聞くのだろうという疑問は持たせてしまう。
まあ、魔族を診る医者で魔力枯渇症を研究しているなんて珍しいから聞けば分かるかも知れないけど、今すぐわかるよりユピテルを信じて情報収集はユピテルに任せるのが安心だ。
アトリアの質問にうーんと考えていたアヴィはあっと思いついたように口を開いた。
「そうですね、ここからなら…温泉とかどうですかね」
「「温泉 (ですか)??」」
僕とミラの声がダブった。いやだってこんなとこに温泉なんてあると思わんもん。反応しても仕方ない。
「温泉って何?」
リオが首を傾げる。プラネテス王国では風呂こそあれど馴染みのない文化だ。
中世風のような異世界、とはいえ妙に発展しているところがあるこの世界では魔宝石などで風呂も簡単に沸かせる。その為、貴族間で清潔を保つという文化はわりと浸透していた。植物性の石鹸なんかもある。木魔法の賜物だ。
石造りの浴槽だって土魔法の応用でちょちょいのちょいで作れるのだ。まあ浸かって長風呂する人はそんな居ないけどね。
さすがに庶民は貴族と違ってなかなか入れないけど、行水くらいはしている。
今更だけど庶民が風呂に入れる環境…銭湯とか作ったら流行るかもしれない。
と、それは置いといて、温泉という言葉は僕もこの世界ではここで初めて…、つまり前世ぶりに聞いた。
「水を沸かすのではなく、地中から湧くお湯のことです。身体に良い効能があったりするんですよ。この国のこの辺りは源泉が多いので」
確かに近くに火山があったはず、前世と同じ仕組みならそういう関係なんだろうけど……。
プラネテス王国よりも少し気温が低く、冬が寒いタラッタ王国では温泉は人気らしい。
「えっとぉ、大衆浴場みたいな感じなんでしょうか…?」
ミラが恐る恐るといったように口を出した。
それに対して、アヴィが首を傾げた。
大衆浴場という文化はプラネテス王国にはないが、この国にはないとは限らないと考えたのだろう。
「大衆…?」
「あっ、いえ、どこかの文化で温泉というのは大衆…つまり、色んな人が一緒になって入るもので、外にあって景色も楽しめる、みたいなのを聞いたことがあるようなないような」
前世である。
ミラが恐ろしく早口で説明した言葉にアヴィはなるほどと答えた。
こちらの国にもさすがに大衆浴場…、銭湯はないらしい。
「我が国では基本的に個人で楽しむものですよ。ああ、わりと広いのでご友人やご家族なら一緒に入れるかと。身体も温まるし、痛みや疲れに効くんです」
「それは少し気になりますね」
アトリアがそう答える。個人で楽しむという事は仕切りがあったり分かれていたりするんだろうか。
お湯を室内に引っ張ってきてる?僕的にもちょっと気になる。
個室になってるんだろうか?小さな部屋になってる?
「その他でしたら、工芸品は有名ですね」
「あ、木工細工ですわね。初日にお店を拝見させていただきましたわ」
「おや、もうご覧になったのですか」
シャウラが反応するとアヴィはふふっと笑った。それにシャウラは素敵でしたわと返事をする。
「ああいうのは手作り体験もあるんですよ」
「手作り体験」
楽しそうな響きにヴェラは目を輝かせた。
工芸品の手作り体験か、確かにそういうのってあるところにはあるよね。
「簡単なものですけどね。木片を組み合わせて好きな小物が作れます。モービル、ペン立て、コースター、小さめの絵画を入れられるフレーム…」
「すごい楽しそうです」
ヴェラがギュッと僕の服の袖を掴む。全身で行ってみたいと言っている。
僕はくすりと笑うとヴェラの頭を撫でた。
「じゃあ、行ってみようか」
ぱあとヴェラの表情が輝いた。かわいい。
他のみんなもいいかもねーと同意する。まあみんな揃って同じとこ、行く必要はないんだけれどせっかく揃っての旅行だしね。
それからアヴィは近くにある湖が透明度が高くてすごく綺麗なこと、色々な動物と触れ合える自然が豊かな保護施設があるということなど色々教えてくれた。
湖はボード遊びができるらしく、釣り体験もあるとかで保護施設はアヴィの説明からより自然に近い動物園のような印象を受けた。
タラッタ王国が自然が豊かでそういった関係の観光地が多いようだ。
特に印象に残ったのはやっぱり工芸品の手作り体験と温泉のことで、まずは今日は工芸品の手作り体験に行くことになったのだった。




