3 幸運な男の子
幸運な男の子
君を助けに来たんだよ。
『このままだとこの世界は終焉を迎えてしまいます。その終焉を回避することができるのは、今、この本を手にしている幸運な男の子である、ソマリ、あなた一人だけなのです』マリンは言う。
『私たちはみんな誰もが夢を見ているのです。ソマリ。あなたは自分が生きているこの世界の存在を疑ったことはありませんか?』
『知っていましたか? ずっと昔は、それはもう本当に昔の話ですけど、魔法が疲れる魔法使いの女性はみんな焼き殺されてしまうひどい時代があったのです。だから私はこうして本の中にずっと隠れて暮らしてきたんですよ』
ソマリは無言。
でも、それでもマリンは一人でしゃべり続けていた。
ずっと本に閉じ込められていて孤独だったのだろう。
マリンは言葉に、誰かとの会話に、……誰か違う人に会いたくて仕方がなかったのかもしれない。
「マリン。君の本当の年齢は?」久しぶりに口を開いてソマリは言う。
『あら、女の子に年齢を聞くなんて失礼ですね、ソマリ』マリンは言う。
ソマリは無言。
無言のまま秘密の図書館の崖をロープを握って、上に上に向かって登り続けている。
『……そうですね。だいたい千年くらいでしょうか。私が生きてきた時間は。もっともその大半は、この本の中に閉じ込められていた時間ですけどね』とマリンは言った。
千年。
……千年を生きた孤独な女の子の魔法使い。
そんな言葉を聞いて、ソマリはもうマリンの閉じ込められている本を閉じることをやめることにした。
そのソマリの優しさにおしゃべりのマリンが気がついたのは二人が真っ暗な秘密の図書館を抜け出して地上にある世界最大の大図書館の明るい室内に、こっそりと何事もなく戻ったあとだった。
そのあとで、マリンはもうあんまり一人で会話をすることはしなくなった。