光の都
そこは世界で一番美しい港と言われていた。帝都クランシエド。南洋の西東に帯のように長く広がる大きな孤島は貿易港として一年中賑わい、街中を血管のように張り巡らされた運河が、日用通路として人々の暮らしの支えとなっていた。運河の底には細かい真珠が砂のように積もっていて、光が反射して水面が鏡のように輝くことから「光の都」とも呼ばれた。
「本当に美しい街」
けれどそれは做られた景色だということを、わたしは知っている。
小箱のように小さな窓から外を眺めていた女は、ふと気まぐれに手を差し伸ばして器に盛られた真珠の粒を口元に運んだ。
人魚が奴隷となって幾星霜。彼女たちが流した涙の数だけこの街は潤い、そして美しく変貌していった。
「宝石を食すというのは、本当でしたか」
貴族たちが好むハイカラーの襟元からタイを引き抜きつつ男が近づいてきて、女の耳朶を甘咬みする。
女は目を細めて、口に含んだ真珠の粒を噛み砕いた。
ここ、クランシエドでは運河をザルでさらえば真珠などいくらでも手に入る。小石よりもその数は多いとさえ言われる真珠。
いったいどれだけの数の人魚たちが屈辱に耐え、涙を流したのか。想像するだけでその味は甘く、ほろ苦い。