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第69話 ぬいぐるみたち

「それではみなさん、屋敷の中へ行きましょう。でも、どんな罠が待ち受けているかわかりませんので十分気をつけて下さい」


 旦那さんがみんなを見ながら言った。


「よっしゃ、まかしといてんか!ワシは罠なんかに引っかかりまへんで!」


 緒方さんが言った。引っかかりまくりのクセによく言うよ――。


 わたしたちは屋敷の白いドアまで行き、旦那さんがドアノブに左手をかけてドアを引いた。あっさりとドアは開いた。まず旦那さんが、屋敷の中に入って行き、緒方さんと松永さんが続いて入って行った。わたしも山中さんと黒山さんが入った後、山根さんと屋敷の中に入った。


「うぐ、山中さん!なんか今までにも増して息苦しいで!」


 松永さんが顔をしかめて言った。確かに息苦しく、さらに圧迫感が増しているように感じる。


「それだけ松井に迫っとるっちゅうことですわ!後少しなんで頑張って下さい!」


 旦那さんが激を飛ばすように言った。そうだね、後少しだもんね、確かに頑張んなくっちゃいけないよ。


 屋敷に入ってみると、そこは外よりもさらに薄暗かった。玄関は大理石かなんだか知らないけれど床がツルツルしていていて、壁もなにもかもすべてが真っ白だった。吹き抜けの天井までの空間は相当に広く、すぐ正面には2階に上がるらせん階段があり、左右にはそれぞれ白いドアがあった。


 後、印象的だったのが、玄関右手の白い下駄箱の上に、スヌーピーやらミッキーマウスやら大小不揃いの多量のぬいぐるみが無造作に置いてあるってことだった。さっきのプーさんと言い、庭と言い、意外とメルヘンチックだね――。ただそれが、不気味さを倍増させてる気がするんだけどさ――。


「山中さん?ほんでまず、どこに行きまんの?」


 緒方さんが旦那さんに聞いた。


「そうですね――松井の奴を見つけないといけませんが、どこにおるかわかりませんので、とりあえずそこの左の部屋に入ってみましょう」


「左の部屋からやな。わかった」


 緒方さんがうなづき、旦那さんはみんなに呼びかけた


「みなさん、まずは左の部屋から行ってみましょか!」


 そうして旦那さんが、左に向かって歩き始めたその時だった――。


「左やって」


「正解は右やのにな」


「アホやな、左なんかになんもあるわけないやんな」


 いきなり、ぬいぐるみたちがしゃべり出した!え?なになに?わたしたちは立ち止まり、振り返ってぬいぐるみたちを見てみた。しかしぬいぐるみたちはなにも言わずシーンとしている。しばらくの間、ぬいぐるみたちを見ていたんだけれど、一向にしゃべる気配はない。ふぅ。こうしてぬいぐるみを見続けていてもらちがあかないので、再び旦那さんは歩き始めた。


「大体こいつら、呼び鈴も押さずに勝手に人の家に入ってどういうつもりや?」


「世の中で生きて行く上で、せなアカンことを知らんのとちゃうか?」


「そやろな。きっと、まともな教育受けてへんのやで」


「そんな世の中の決まりを守れん奴は警察に連絡して、牢屋にぶち込んでもらわんとアカンな」


 またぬいぐるみたちがしゃべり始めた。わたしたちは立ち止まって振り返る。でも、やっぱりシーンとしている――。旦那さんは、再び歩き始めた。


「しかも人の家に、靴を脱がんと土足に入ってどういうつもりや?」


「世の中で生きて行く上で、やったらアカンことがわかってへんねんで」


「そやな。まともな教育受けてへんからそうなんねやろな」


「世の中の決まりを平気で破る無法者は、さっさと牢屋にぶち込んだったらええねん」


 そこまでぬいぐるみたちが言った時だった――緒方さんが反応して、ぬいぐるみの方を振り向いてしまった!げ!またいらないことを言うんじゃないでしょうね!?


「おいおい君たち、知らんようやから教えたるけど、ワシはええ大学出とるねんで」


 緒方さんがニッコリ笑って、ぬいぐるみたちを諭すようにゆっくり言った。お、冷静だね、とりあえずのところはよかった――。


「こわ。なんかおっさんが笑っとんで。ええ大学出たとか言うとんで」


「ええ大学ってどこやねん?まぁどこでもええけど、世の中でやったらアカンことをわかってへんのやったらアカンやんな?そんなん世の中で通用せえへんやんな?」


「裏口入学ちゃうか?」


「とにかく、そんな世の中の決まりを守れん奴は即逮捕や。今すぐ牢屋行きや」


 そこまでぬいぐるみたちの言葉が続いたその時、旦那さんが言った。


「緒方さん!!そんなぬいぐるみの戯言なんかほっときましょうや!」


 そうだよ、そんなぬいぐるみ、わざわざ相手にしなくたっていいんだよ。しかし、さっきまで笑顔だった緒方さんにその面影はなく、今ではすっかり険しい表情となってしまっており、ついにはぬいぐるみたちの前までまっすぐズカズカ歩いて行ってしまった!一体どうするつもりなの!?すると緒方さんは、赤いブーツを脱いで、下駄箱の上のぬいぐるみたちめがけて思いっきり放り投げてしまった!わっちゃ~、またやっちゃったよ~!


「これでええんか~!!」


 そう叫びながら、緒方さんは矢継ぎ早にもうひとつのブーツも投げつけている!うわ~!


 しかしぬいぐるみたちは、サッと素早くブーツを避け、緒方さんの前に勢ぞろいした!


「わ、きったない足!」


「足が汚い人って、アホが多いねんてな」


「まぁ、そうやろな、だってこのおっさん、靴の脱ぎ方も知らんねやもんな」


「ええ大学卒業したって、なんにも学んでへんのやったら学費の無駄やったな」


「暴力反対、暴力反対」


「こんな横暴な奴は世の中に置いといたら危険やな」


「一生牢屋に入れといた方がええな」


 好きなことを言いながら、大小のぬいぐるみが緒方さんの前で跳ねている。


「じゃかあしいや~!」


 すると緒方さんは、背中にセットしていた斧を取って、それをブンブンと振り始めた!うわ~!危ないってば!


「わっ~殺人鬼や!警察呼んで!警察!」


「そやから、さっさと牢屋にぶち込めって言うたんや!」


 ウ~!ウ~!ウ~!!ウ~!!


 表ではパトカーのサイレンが鳴り響き始め、段々その音が大きくなって屋敷の前で止まった!げ!ホントに警察が来ちゃったの!


 ガチャッ。


 ドアが開くと、5人の警官が勢い良く入って来た!わ!ホントに来ちゃったよ!


「無法者の殺人鬼はここか!」


「取り押さえろ~!」


「気を付けろ!ええ大学出ても、なんにも学んでないアホと聞いとるで!」


「とりあえずあの斧を取り上げろ~!」


「捕まえて牢屋にぶちごんだるぞ~!」


 5人の警官たちは、めくらめっぽう斧を振りまくる緒方さんを取り囲んでゆっくり円を描くように歩いている。どうやら取り抑えるタイミングを計っているようだ――。


「頑張って!頑張って!」


 周りにいるぬいぐるみたちが、飛び跳ねながら警官たちを応援している。


 どうするの旦那さん!?緒方さんが捕まっちゃうよ!


「よし、ミレーユ、五蘊皆空や!いくで!」


 すると旦那さんがそう言って手を合わせた。


「はい!」


 なので、わたしも同様に手を合わせて、五蘊皆空を唱えることにした。


「ご~うんかいくう~、ご~うんかいくう、~ご~うんかいくう~」


 みんなもそれに合わせ五蘊皆空と唱え始めてくれている。よしっ!待っててね緒方さん!今助けるからね!


 世の中で生きて行く上でしないといけないこととか、してはいけないことなんて、その時代や国や地域によって違うから、なにが正しいとかなにが間違ってるとか、そんなことホントに大切なことではない――五蘊皆空!


「世の中で生きて行く上で、せなアカンことをちゃんとわきまえとる俺は立派な大人やで~!!」


「どいつもこいつも、やらなアカンことができてへんのは、大人になりきれん子供やからや~!!」


 次から次へぬいぐるみが消えて行っている!


 しかし警官たちは消えることはなく、今度は突然玄関に唄が流れて来た!え?なに?この唄って、確か中島みゆきだよね?なんでこのタイミングで流れるの?わたしが困惑していると警官たちが、ついに緒方さんを取り押さえてしまった!うわっ~!ヤバいってば!


「午前0時43分!容疑者確保!署に連行します!」


 2人の警官が緒方さんを立ち上がらせ、抵抗する緒方さんをドアの外へと連れ出そうとしている!げ!早くなんとかしないと緒方さんが連れて行かれちゃうよ!


 そして、そんな事態に重なるようにして、さらなる別の悲劇が起きてしまった!


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