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第54話 なにもかも正確にしゃべりすぎ

「昨日はウイスキーを飲みすぎてもうてやな~、頭ガンガンすんねや~」


 まず緒方さんが森川さんに言ったのは、ウイスキーを飲みすぎたことだった。げ、覚えてたんだね。でもさ、頭がガンガンするってホントなの?だってドラクエ世界ってさ、夢見てるようなもんなんじゃないの?


「大丈夫ですか?緒方さん。どこでお酒飲んだんですか?」


 そんなこととは露とも知らない森川さんは、そりゃあもうニッコニコで緒方さんに聞いていた。他の職員なら、またわけのわからんことを言っててな具合で相手にもしないのだろうけれど、森川さんはちゃんと爺さん婆さんに話しを合わせて聞くのだ。


「なんか、だだっ広い石畳のところや。ほんで最初は地べたに座って飲んどってんけど、軽トラがあったからな、その荷台の上で飲んどったんや」


「へ~、楽しそうですね。中道さん!緒方さん、昨日軽トラの荷台の上でウイスキーを飲んでたんですって!」


 嬉しそうに森川さんが、台所にいるわたしに報告して来た。知ってるよ。そもそもそのウイスキーは、わたしが発注して小屋から持って来たんだよ。


「飲んだのはウイスキーだけですか?」


 続けて森川さんが緒方さんに聞いた。


「いや、ビールとか酎ハイも飲んだかな。ほんでやな、あのデッカい魚がうまかったんや」


 え?デッカい魚ってもしかして、なんちゃらガーのこと?あんなのがおいしいの?


「え?デッカい魚ですか?もしかしてブリとかですか?」


 違うよ。なんちゃらガーだよ。


「いやちゃうな、魚の名前はわからんけど、なんか長い魚やったな~」


「そうなんですか。中道さん!緒方さん、デッカくて長い魚を食べておいしかったんですって!」


 また嬉しそうに森川さんがわたしに報告して来た。だから知ってるって。旦那さんが魔法の火の玉でこんがり焼いたんだよ。


「あの子も一緒におったで」


 緒方さんがわたしを指差して言った。げ。どこどこまでもよく覚えてるもんだね。


「え?そうなんですか中道さん!一緒に飲んでたんですか!」


 物凄く楽しそうな森川さん。


「いや、一緒に飲んではいないですね」


 わたしはどう答えてよいのかわからなかったので、ホントのことを言った。


「そや。ワシらが飲んどる時、あの子は巨人と戦っとったからな」


「え?巨人とですか?中道さん巨人と戦ってたんですか!?」


 また森川さんが聞いて来た。実際にその通りではあるんだけれど、どう答えたらいいのだろう?


「はい。20メートルくらいある巨人と戦ってました」


 これまたわたしは、ホントのことを言った。緒方さんがなにもかも覚えてるし、嘘をつくのもマズいだろうと判断したのだ。


「え~!凄いじゃないですか!それで倒せたんですか!?」


「いや、無理でした」


 わたしは正直に答えた。すると緒方さんが言った。


「そやな無理やったな。ほんで、全然倒せそうになかったからな、アンタはそんなんに向いてへんねんから、あきらめてワシらと一緒に飲んだらどうやって言いに行ったんや」


 え?そうだったの。それで軽トラで突進して来たんだ――。


「それで一緒に飲んだんですか?」


「いや、飲んでないねん。そっからすぐに帰ったからな」


 緒方さんが言った。すべてまったくそのとおりだよ――。


「いいですね~緒方さん、なんか楽しそうじゃないですか~。今度僕も一緒に連れてって下さいよ~」


 森川さんが物凄い笑顔で緒方さんの肩に手を回して言った。でもさ、残念ながらアンタは連れて行けないよ、多分ね――。


「わかった。明日も飲みに行くから山中さんに頼んどいたるわ」


 しかし緒方さんは簡単に承諾した。


「ありがとうございます!」


 森川さんが、両手で握手してお礼を言った。


 それにしても緒方さん、なにもかも正確にしゃべりすぎなんじゃないの?まぁ、まさか全部ホントのことだとは、夢にも思わないだろうけどさ――。


 緒方さんが昨日のドラクエ世界での出来事を洗いざらい森川さんにしゃべってしまうというハプニング?はあったものの、その後は特に何事もなく夜勤を終えることができた――。


 ――そして翌日、わたしは再びドラクエ世界にやって来ている。もちろん、緒方さん、松永さん、黒山さんも一緒だったんだけれど、なぜか今日はそれにプラスαして山根さんまでいた。まったく、なんなのよもう――。


 でもさ、これはしょうがないのだ。なんだか知らないんだけれど、今日に限って山根さんは自分の部屋に戻ろうとしなかったのだ。旦那さんによると「ゼメシナールの危機を察して立ち上がってくれたんや」ということらしいけれど、そんなの絶対嘘だよね。 


「なんで嘘やと言いきれるんや?」


 旦那さんが言った。だってそんなのさ、旦那さんにとって都合のいい解釈じゃない?きっと山根さんはさ、たまたま眠たくなかっただけだよ。


「ワイがモンスターを生むような、自分にこだわった物の見方をしとるっちゅうんか?」


 いや、別にそんなことは言ってないよ。なんか都合がいいなぁって思っただけだよ。


「都合がええやと!そんなことを言うんやったら、ワイを今すぐ色即是空の呪文で消してくれ!」


 真に迫った感じで旦那さんが訴えて来た!げ!急にどうしたっていうのよ!こわ!


「冗談や冗談、ハハハ」


 次の瞬間、旦那さんが笑った。なによ、その意味不明な冗談。怖いからやめてよね。


「まぁええやないかい、ハハハハ」


 また旦那さんが笑った。一体なんなのよ、もう――。


 ところで、ドラクエ世界初登場となった山根さんだったんだけれど、ひとつ他の人とは違う変わった特徴があった。


 その特徴とはなにか?


 それは山根さんが婆さんのままの姿で、ちっとも若返ってなかったってことだ。どうしてなんだろう?


「どうしてなんだろう?って、単純に今が一番ええってことなんやろ」


 旦那さんが言った。そっか――まぁ、そんなこともあるか――。


 ところで今回の小屋なんだけれど、旦那さんが言っていたとおり、部屋の中央にはあらかじめ立派なクーラーボックスが置いてあり、中にはたんまりとお酒が冷やしてあった。そしてその横には、なんのために使うのかわからない高さ30センチくらいの円柱の缶が置いてあり、なぜかうさぎが3羽に増えていた。


 そして緒方さんと松永さんと黒山さんは、すでに乾杯をしてお酒を飲んでいた。ところで黒山さん、なんでもいいんだけどさ、アンタ今は子供なんじゃないの?


「ほんじゃあワイらは、先に表の軽トラで待っとくから、着替えたら出て来てな」


 しばらくして、前と同じ衣装に着替え終わった旦那さんと緒方さんと松永さんが、クーラーボックスと謎の缶と3羽のうさぎを持って小屋を出て行った。軽トラは、小屋に着いてすぐに旦那さんに頼まれたので、召喚魔法で敦盛さんにあらかじめ頼んでおいたのだ。


 じゃあ、着替えるとするか。わたしはいつもの衣装に着替えることにした。山中さんと黒山さんも着替え始めた。山根さんは着替えずにベッドに座っている。


「私はそんなヘンな服は着んで」


 山根さんが言った。


「でも、外には凶暴な牛とかカラスとか巨大芋虫とかがいっぱいいるんで、パジャマのままじゃ危ないですよ」


 わたしは忠告した。いくらわたしに比べて敵が少ないとは言え、パジャマで外にでることはさすがにおすすめできない。


「でも、こんなわけのわからん服いらんわ」


 山根さんは勇者の服を放り投げてしまった。あ~あ。まぁでも、それが一番まともな反応かもしれない。普通、いい年した大人は、別に好きでもなんでもないゲームキャラクターの扮装なんてしない――。


 そう思うと――黒山さんは子供だからいいとして――緒方さんと松永さんは、どうしてあっさり戦士の扮装なんかしたのだろう?特に緒方さんは、一切戦う気なんてなくってお酒を飲むことしか考えてないのにね、まったく不思議だよ――。


 まぁ、あの2人のことはいいや。ともかく、着たくないと言ってるのに、無理やり勇者の格好をさせるのは完全に虐待にあたるので、山根さんにはパジャマのままでいてもらうことにした。


 3人の着替えが終わり外に出てみると、トラックがあったんだけれど、前の軽トラと違ってかなり大きなトラックだった。その荷台では、早速緒方さんと松永さんがお酒を飲んでおり、旦那さんはその周りをウロウロと歩いていた。なんでトッラクが大きくなったんだろう?


「平敦盛さんが気を効かせてくれたんやろ」


 そうなの?でもさ、こんなデッカいトラックまで須磨寺の池に沈んでたってことなの?


「それはわからんわ。平敦盛さんがどっかから調達してくれたんかもしれんしな」


 ふうん、そっか――。


「よし、ほなら行こか。さ、全員荷台に乗ってくれ」


 旦那さんが荷台に上がるように言った。そして運転するかと思っていた旦那さんも荷台に上がった。ん?どうするの?今から黒い塔に向かうんじゃないの?

 

 わたしは疑問に思いながら荷台に上がった――。

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