第51話 3人の精鋭
ブオオオオ!!
火の鳥は巨人の股間に見事命中し、音を立てて火柱が上がった!そして熱風が、わたしの元にも吹きつけて来た!あっつう!でもこれは凄いよ!やっつけれたんじゃないの!?
わたしは期待を持ってことの成り行きを見守った。しかし、しばらくすると火は消えてしまった――え?どういうこと?ダメージは与えられたの?
「ダメージはたいして与えらてないわ!」
旦那さんがこちらにやって来た。そうか、ダメだったのか――。
「ミレーユ!こうなったら2人で五蘊皆空の乱れ打ちで行くで!」
えっ?五蘊皆空の乱れ打ち!?
「そや!見てみい!巨人が起き始めとるで!起きるまでにケリをつけなヤバいで!」
見れば巨人の右腕が動き始めている!確かにこれはヤバそうだ!
「ほなら行くで!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」
旦那さんは、人差し指を立てる形で両手を組んで、五蘊皆空を連発し始めた!よ~し!わたしも!
「五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」
わたしも旦那さんの真似をして両手を組み、とにかく五蘊皆空の呪文を唱えまくった!でもなにかが変わる様子はない――。
「まだまだ~!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」
しかし旦那さんは、めげることなく呪文を唱え続けている!よ~し!わたしも!
「五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」
そうして、2人で五蘊皆空の呪文を唱え始めてどれだけ経っただろう?なんと!巨人の右足が薄く半透明になって来た!お!凄い凄い!しかし巨人は巨人で、すでに上半身を起こし始めている。
「五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」
なんとしても、起き上がる前に消してやらなねばならない!わたしたちは必死で呪文を唱え続けた!
その時だった!
巨人の左足がわたしたちめがけて飛んで来た!
わ!危ない!
わたしと旦那さんは走って逃げた!そしてなんとか、左足の蹴りを避けることができた!
「ミレーユ!大丈夫か!」
「はい。なんとか!」
わたしは答えた。今のはホント危なかったよ――。
巨人の右足を見てみると、半透明からすっかり元に戻りつつあった。あ~あ、せっかく消せると思ったのになんてことだろう――。巨人はと言えば、上半身をすっかり起こしてしまっていて、右足を伸ばし、左足はあぐらをかくようにしていた。げ!こうなってしまっては、起き上がるのも時間の問題だよ!もう、成す術はないの!?
その時だった!
ブオオオ~ン!!
いきなり後ろから、車が走って来る音が聞こえて来た!
え!?なになに!?
わたしが後ろを振り向いてみると、それはさっきの白い軽トラックだった!軽トラが、こちらに向かって猛スピードで向かって来ている!げ!危ない!!
「危ない!ミレーユ!」
旦那さんは、わたしを抱えて左側に走って逃げた!
キィィィ!!
軽トラは、物凄い勢いでわたしたちを通りすぎて行き、巨人の伸ばしている右足の裏の前で平行に止まった!
げ!一体なんなのよ!
よくよく見てみれば、軽トラの荷台には緒方さんと黒山さんが乗っているではないか!え!?なにやってんの!?緒方さんは、おもむろに立ち上がると、なんと!荷台の外、つまりは巨人の右足の裏に向かってオシッコをし始めた!
ええ!マジっすか!緒方さん!こんなところに来てまでも、やっぱり間違った場所でオシッコをするって言うの!?どうでもいいけどさ、今の状況わかってんの!?すぐそこにいる巨人はさ、剣での攻撃も呪文も簡単には効かないようなとんでもない怪物なんだよ!ベッドの中でオシッコをブリ散らかすのとはわけが違うんだよ!
しかしオシッコは、もう巨人の右足にかかってしまっている!
げ!ヤバいよ!そんなことをしたら巨人にブチ切れられてしまうよ!
しかしそのオシッコが、思ってもみないような、とんでもない結果をもたらした!
なんと!オシッコが当たった右足から煙が出て、ジワッ~と消えて無くなって行っている!
「サワムラノクソハゲヤロウノクソヤロウ!!!!」
巨人は両手で頭を抱え、上半身を前後に動かしながら叫んでいる。どうやら苦しんでいるようなんだけれど、図体がデカいだけあって声もデカい。思わずわたしは、両手で耳をふさいだ。
ところで、今の声ってナースの渡辺さんの声だったよね?もしかしてさ、この巨人の正体って渡辺さんの妄想だったの!?
「そういうこっちゃ。渡辺さんの澤村さんに対する積年の想いがやな、こんな怪物を生み出したっちゅうわけや」
うげ~!マジっすか!確かに渡辺さんによる澤村さんの文句には、わたしも散々迷惑をかけられて来たんだけどさ、まさかこんなにとんでもない怪物になるくらいだったとはね――。
今度は、松永さんが運転席から降りて来たんだけれど、なんとスッポンポンだった!
あっちゃ~、こんなところに来ても、やっぱり脱ぎ散らかしちゃうんだね・・・。
それから松永さんは、千鳥足で左に向かって歩いて行ったんだけれど、巨人のあぐらをかいている左足の方を向いて立ち止まった。ん?なにしてるの?
もしかして!
次に松永さんが取った行動は、わたしの思ったとおりだった。やっぱり松永さんも、オシッコし始めてしまった!
ホントこの2人ったらさ、どこにでもオシッコをブリ散らかしちゃうんだから――。
ところで松永さん、アンタわかってんの!?、アンタが今オシッコしてるのは、アンタがあんなに恐れていた巨人の足なんだよ!
松永さんが、巨人にオシッコをかましてるってことを認識できているかどうかはわからない。だけれど、松永さんのオシッコもやっぱり効果てきめんで、左足からは煙が出て、オシッコが当たったところからジワッ~と消えて無くなっていっている!
「ムラオカノアクジヲユルスワケニハイカンノヤ~!!!!」
巨人は両手で頭を抱え、上半身を前後に動かしながら叫んでいる。再びわたしは、両耳をふさいだ。
「鬼は~外!福は~うち!」
しばらくして、今度は荷台の上にいる黒山さんの声が聞こえて来たので見てみたら、黒山さんがなにかをバラまき始めていた。なにアレ?その謎の黒くて小さな物体は、巨人の右足や左足に落ちると煙が出て、やっぱり当たったところからジワッ~と消えて無くなって行っている!
「ムラオカノアホンダラゼッタイクビニシテヤル!!!!」
巨人の大きな叫び声が聞こえて来たので、わたしは両耳をふさいだ。巨人はもうずっと両手で頭を抱え、上半身を前後に動かしている。
「よっしゃ、ついに3人の精鋭が立ち上がってくれたで!これで巨人はもう立ち上がることができひんわいな!」
確かに巨人の両足は、ふくらはぎの真ん中辺りから下が、すっかり無くなってしまっている!これでなんとか倒せるんじゃないの!?
しかし、そんなわたしの思惑をよそに、旦那さんが意外なことを言った―――。




