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第49話 宴会

「ところで山中さん、酒はどうなっとるんかいな?」


 ある人物とは緒方さんで、なんと、この後に及んでまだお酒のことを言って来たのだ。お酒なんか飲んでる場合じゃないんじゃないの?巨人はもうわりと近くまで来ちゃってるんだよ。


「酒ですか?ミレーユ?酒はどないなっとるんかいな?」

 

 旦那さんは、そんな状況だっていうのにわたしに聞いて来た。わたしってさ、いつからお酒当番になったのよ?


「え?お酒ですか?お酒だったら小屋に降って来てましたけど――」

 

 わたしが答えると、緒方さんが反応して言った。


「え!酒あんのかいな!それやったらちょっと取って来てえな~」


 え?今から?巨人が来てるっていうのに、わざわざお酒を取りに帰れって言うの?わたしが疑問に感じてたら、旦那さんが言った。


「ミレーユ、お酒を取って来てあげなさい」

 

 え!?マジっすか!?まさか旦那さんが、緒方さんに賛同するなんて!今はお酒を飲んでる場合じゃないんじゃないの!?


「大丈夫や。巨人がここに来るまでに、お前さんが酒を取って来るくらいの時間はあるやろ」

 

 ホントに?でもまぁ、別にわたしは巨人なんかと戦いたいわけじゃないからね、さっさと巨人が来てくれたってちっとも構わないんだけどさ――。


「お姉ちゃん頼むわ。一緒に宴会しようや」

 

 今度は緒方さんが、一生のお願いとばかりに両手を合わせて懇願して来た。別にいいんだけどさ、この後に及んでまだ宴会するつもりなの?


「わかりました。行って来ます」

 

 わたしが言うと、緒方さんは泣き出しそうな顔をしながら言った


「お~マザーテレサ!ありがとうな!この恩は一生わすれへんさかいな!」

 

 緒方さんは合わせた両の手をこすりながら、何度も何度もお辞儀をしている。それにしても誰がマザーテレサよ。まったく、ミレーユといいさ、どうしてみんなわたしに好き勝手に名前をつけたがるのよ。

 

 わたしは、お酒を取りに行くために小屋に向かった。所々敵がいたので、五蘊皆空の呪文で吹き飛ばしながらだ。小屋付近まで行った時、小屋の前に巨大な羊がいるのが見えた。羊と言っても牛くらい巨大で、明らかに危険な感じを漂わせている。これは大物だよ、果たして倒せるのかな?と言っても、わたしには五蘊皆空しかないし、五蘊皆空が効いてくれることを祈るしかないんだけどさ。


「五蘊皆空!!」


 わたしは、両手を前にかざして思いっきり呪文を唱えた。


「サンノミヤノジンギスカンノミセニイキタイ~!!」

 

 巨大羊は、あっさり吹き飛んでくれた。よかった~。わたしはホッと胸をなで下ろした。ところで今の羊もさ、山田さんの声だったね。三宮のジンギスカンの店に行きたい?今度は牛じゃなくって羊?ホント、アンタの食欲は底なし沼だね、別にどうでもいいんだけどさ――。

 

 わたしは小屋に入り、バッグの中にお酒を入れることにした。ところで、よくよく考えてみたらさ、どうしてわたしがお酒を取りに来なくちゃいけなかったんだろう?そんなにお酒が飲みたいんだったらさ、緒方さんが自分で取りに来ればいいんじゃないの?


 疑問に思いつつも、バッグに缶のお酒と瓶のウイスキーを入れてみたら、わたしの持っているバッグは小さかったので、全部は入りきらなかった。でもまぁ、ウイスキーが飲みたいって言ってたことだし、とりあえず瓶のウイスキーがあれば大丈夫なんじゃないかな?


 お酒を入れ終えたわたしは、みんなの元に戻ることにした。巨人はもうみんなの元にたどり着いたのだろうか?


 わたしがみんなの元に近づいてみると、まだ巨人は来ておらず(と言っても巨人は、後10歩くらい歩いたらここに到着するんじゃないかっていうところまでには近づいていた)、みんな思い思いの行動をしていた。緒方さんは地面で寝そべり、松永さんと山中さんは、旦那さんと一緒にそれぞれの武器を振る練習をし、黒山さんは火の玉を出しまくっており、至るところで火が上がっていた。


「緒方さ~ん!お酒持って来ましたよ~!」


 わたしはウイスキーの瓶を掲げ、振りながら言った。すると緒方さんは、こちらを振り向くや否や即座に立ち上がり、わたしの元に走って来た。げ、凄い勢い――。


「ありがとうな、ありがとうな」

 

 旦那さんは、わたしの元にたどり着くと、わたしの手を取りながら何度も何度もお礼を言った。そこまで感謝されると恐縮しちゃうな――。


「どうぞ、お酒です」

 

 わたしは持っていたバッグをそのまま渡した。


「おっほ~、お酒ちゃん、こんにちわ~」

 

 緒方さんは、口が裂けるんじゃないじゃないかというくらいの笑顔で、妙に高い声でおどけて言ってからバッグを受け取った。そして、バッグの中身を確認しながら言った。


「ビールちゃんにウイスキーちゃん、お、梅酒ちゃんもいるやないの~、みなさ~ん、こんにちわ~」


 緒方さんは、そのようにお酒にいちいち話しかけてから、ビールを取り出し、それからわたしに聞いてきた。


「お姉ちゃんもなんか飲むか?」


「いや、いいですいいです勤務中ですから」

 

 わたしは両の手の平を振って断った。この世界でアルコールを摂ったらどうなるのかわからないんだけれど、一応止めておいた方が無難だろうからね。


「そうか、それやったらしょうがないな。山中さん!お酒来たんやけど、飲みまっか!」

 

 緒方さんが、後ろのちょっと離れたところで剣を振っていた旦那さんに聞いた。


「いや、ワイは止めときますわ!これから大事な戦ですからな!」

 

 旦那さんは断った。そりゃそうだろうね。そしたら、その横で斧を振っていた松永さんが、斧を地面に置き、こちらに近づいて来ながら言った。


「緒方さんすんまへん、ワイも景気づけに一杯もろてもよろしいやろか?」


「もちろんやがな~、ビール?ウイスキーの水割り?酎ハイ?後、梅酒もありまっけど、なんにしまっか?」


「ほなら、ビールをもろてもよろしいやろか?」


「ええでっせ」


 緒方さんは松永さんにビールを渡した。松永さんがビールを受け取ると、2人はフタを開け、缶を合わせて言った。


「かんぱ~い!!」


 威勢よく乾杯した後、2人は斜め45度上を向いて、ビールを一気に流しこんでいる。


「プハ~うまい!緒方さん、今後ともよろしゅう頼むわ。僕、こんなわけのわからんところ連れて来られて、そんで巨人を倒せなんて言われて、こわ~てしょうがなかったんや~」


「わかるわ~。まぁ、飲みなはれ飲みなはれ。巨人なんてわけのわからんもんはほっといたらよろしいがな。ワシらがそんなもん倒す義務なんてあれへんねんからな」


「そうやんな!倒さんでええやんな!?義理なんてないんやもん!それにしてもさすがは緒方さんやな~、話しがわかるな~!」


「それでは、気の合う2人がそろったちゅうことで!はい!宴会の始まり始まり~!かんぱ~い!」 


 緒方さんがそう言うと、また2人は缶を合わせ、それからビールを流しこんだ。あ~あ、ホントに宴会が始まっちゃったよ――。


「ミレーユ!そろそろサイクロプスが来んで!お前さんもこっちに来て態勢を整えんかい!」


 その時、旦那さんがわたしに言った。そうだね、確かにこんな宴会の2人にかまっている場合じゃない。見れば巨人はもうすぐそこまで来ちゃってる。


「わかりました!」


 わたしは走って3人の元に行った。


「よっしゃミレーユ、ほならまずは召喚魔法を唱えてくれへんか?」


 え?召喚魔法?でもさ、なにを送ってもらえればいいのよ?


「それは平敦盛さんにおまかせや。お前さんはサイクロプスが来とるところをイメージして、それに対抗しうる物を送って欲しいと願うんや」


 え?そうなの?さっきのウイスキーみたいに、具体的な物じゃなくてもいいの?


「お前さんには、池の中になにがあるかわからへんやろが?平敦盛さんは1回この世界を見とるわけやし、どういう物が役に立つかちゃんと選んでくれとるはずや」


 なるほどそうか――じゃあ早速なんか送ってもらうとするか。え~と、巨人がまさに迫り来てる今の状況を強くイメージしてと――。


「どこで売っているかわからない素敵なパンを食べた中道理子です!!」


 わたしは両手を組んでおもいっきり呪文を唱えた!


 ――すると、とんでもない物が空から降って来た!

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