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第47話 うさぎ

 とんでもない事態とはなにか!


 なんと!天井から銀色の物が落ちて来るのが見えたのだ!それはボトっと鈍い音を立てて、部屋の真ん中辺りに落ちた!


「え!なになに!?」

 

 わたしは思いも寄らない事態に危険を感じ、後ろにあった本棚にへばりつくようにした。山中さんと黒山さんも同様に本棚にへばりつく。


 ボトボトボトボト!


 すると次の瞬間、そのなにかが今度は多量に天井から落ちて来た!げ!ホントになんなのよ!危ないじゃないのさ!まだ落ちて来るかもしれないから、今動くのは危険だ!


 ドン!


 すると一層鈍い音がして、またなにかが落ちて来た!なになに!?もう!やめてよね!


 一体なにが落ちて来たというのだろう?ここから見る限り、ジュースかなんかの缶が10缶くらいと、茶色い瓶が転がっているのが確認できる。う~む――あっ!

 

「ウイスキーだ!」


 ピンときたわたしは、思わず大きな声を出してしまった。さっきの召喚魔法の呪文が効いたのだ!


 なるほどね~、召喚魔法ってちゃんと効果あるんだね――わたしが感心していたら、今度はなにか白い物が落ちて来るのが見えた!今度はなに!?すると白い物は音もなく床に落ちた途端、飛び跳ねて部屋の窓の方に行った!なになに!?――あっ!


 もしかして子犬!?でもさ、それにしては妙に飛び跳ねてたよね――。


「なにアレ?なんか飛び跳ねてたけどさ――」


 わたしは誰に言うでもなく言った。


「うさぎとちゃうか?」


 山中さんが答えた。え?うさぎ?どうしてうさぎなんてものが落ちて来るのよ?


「うさぎですか?」


 わたしは、ホントにうさぎなのか確かめるようと思ってよ~く見てみたんだけれど、その白い生き物は床の隅の方で丸くなってしまっていて、正体がわからない。


「え!うさぎなの!?」


 すると黒山さんが嬉々として言い、その白い生き物に向かって走り出した!


「危ないよ!まだなにかが落ちて来るかもしれないんだからね!」


 わたしは黒山さんに言ったが、黒山さんは白い生き物のところに行ってしまった。


「怖くないよ、おいでおいで」


 黒山さんは、白い生き物の傍でしゃがむと、そう言って手を差し伸べた。そして、しばらくすると「よいしょ」と言って抱き上げた。するとその白い生き物はやっぱりうさぎだった。


「かわいい~」


 黒山さんはニッコリ笑ってそう言って、抱きかかえたうさぎを撫でている。それにしても、どうしてうさぎなんかが落ちて来たのだろう?わたしが敦盛さんに頼んだのは、子犬であってうさぎではないんだけどな――。


 まぁ、なんでもいいや。なんか、黒山さんも気に入ってるみたいだしね。だったら別に子犬である必要もないもんね。


 それからわたしは、もうなにも落ちて来なくなったし、どうやら大丈夫そうなので、最初に落ちて来た缶と瓶が、ホントにウイスキーなのかを確認することにした。部屋の真ん中に行って、散乱している缶を見てみると、確かにウイスキー水割りもあったんだけれど、缶チューハイやらビールやら梅酒やらいろいろなお酒があった。でも、瓶のは確かにウイスキーだったので、まぁこれでいいんじゃないのかな?わかんないけどさ――。


 わたしは、それらの缶と瓶をとりあえず本棚の空いてるスペースに置くことにした。とりあえず、冷蔵庫なんてないしね、ここらに置いておけばいいだろう。よし、それでは小屋の外に行こう。


「山中さん、黒山さん、そろそろ出発しましょうか?」


 わたしは、2人に声をかけた。


「うん、行こか」


 すると山中さんは、そう言ったんだけれど、黒山さんはと言えば、うさぎを抱き続け、すっかりうさぎに夢中になってしまっている。でもまぁ、そういうことなんだったらさ、別に小屋にいたらいいんじゃないかな?なんせ外は危険だし、黒山さんは魔法使いというわりには、呪文を覚えている様子がないからね。


「黒山さんはどうする?わたしと山中さんは外に行かないといけないんだけどさ、ここでうさぎと遊んでる?」


 わたしは黒山さんに聞いてみた。


「嫌やよ。わたしも外に一緒に行く~」


 黒山さんは言った。


「そう。じゃあ一緒に行こうか」


 わたしは言った。別に一緒に行くって言うのなら、それはそれで構わないんだけどさ――。


 よし、それではようやく出発だ。わたしは2人と共にも扉に向かったんだけれど、黒山さんはうさぎを抱えたままだった。え?うさぎも一緒にいくつもりなの?


「黒山さん、うさぎも連れて行くの?」


 わたしは聞いてみた。


「うん。一緒に行くん」


 黒山さんは、ハツラツとした笑顔で答えた。なんにもわかっちゃいないよね。うさぎなんか抱っこしてたらさ、たちまち殺されちゃうよ。


「いや、止めといた方がいいと思うよ。外にはモンスター、つまり化け物やら怪物やらが一杯いてさ、めちゃんこ危険なんだからね」


 わたしは諭すように言った。


「大丈夫!うさちゃんと一緒に行くん!」


 しかし黒山さんは頑として譲らない。一体なにを根拠にして、大丈夫だなんて言ってるのだろう?大丈夫じゃないから言ってるんだけどな――。


「そう。ま、いいよ。じゃ行こっか」


 わたしはあきらめて言った。外の世界がどういう世界なのか知りもしない人間に、なにを言っても無駄だからね。


 いろいろあったけれど、ついに外に出る時がやって来た。わたしは扉に手をかける。わたしは、この段になってようやく緊張してきた。ウイスキーやらうさぎやらのせいで忘れていたけれど、いよいよ牛と対決の時がやって来たってわけだからね。


 心臓が高鳴り、緊張が高まる。わたしはゴクリと音が聞こえるくらい唾を飲んだ。


「行くよ!」


 わたしは、自分を鼓舞するように大きな声で言ってから扉を開けた。


 すると、そこには相変わらずモンスターがひしめいており、あちらこちらから叫び声が聞こえて来たのだ!


「フクヤママサハルトカツオノタタキヲタベタイ~!」


「ソヤスイカッテカエロセイリョクガマスラシイカラナタべサセタロ~!」


 ん?どうも今日は達郎の声がよく聞こえるね。よ~し、どこだ?ヒトラーモンスターは?ぶっ飛ばしてやるんだから!


 気合十分なわたしは、早速目の前に現れたデッカイうさぎに向かって呪文を唱えた。


「五蘊皆空!」


「フクヤママサハルトシマントガワデウナギヲタベタイ~!!」


 デッカいうさぎは物凄い勢いで吹き飛んだ。お!なんか呪文の威力が増してる気がするよ!さすが、ずっと呪文を唱えてただけのことはあるね!よ~し!


「五蘊皆空!五蘊皆空!五蘊皆空!」

 

 それからわたしは、迫り来るモンスターに向かって立て続けに呪文を唱えた!


「コンバンサワムラサンサソッテミヨカナ~!!」


「コウヤッテスペースヲアケテキロクヲカクンガハヤリヤノニナンデミンナワカラヘンネヤロナ~!!」


「ナンデリヨウシャノコトカンガエタラアカンネヤ~!!」


 次々と叫び声を上げてモンスターが吹き飛んだ!


 ところで、旦那さん達はどこにいるのだろう?その姿が見えないところを見ると、随分先の方に行ってしまってるのかもしれない。


 よし、じゃあ追いつかないといけないね。

 

 わたしたちはズンズンと先に向かったんだけれど、その道中はめちゃんこ楽ちんだった。なんせ、山中さんと黒山さんが歩いているだけで、なんにもしなくても、ちょっと触れただけでモンスターが吹き飛んで行くんだからね。


 それにしてもこれは強い。黒山さんなんて、うさぎを抱っこして歩いてるだけでも威力十分、呪文なんて最初から必要なかったわけだ。それにしてもさ、うさぎなんか抱っこしてたらたちまち殺されちゃうなんて、なんにもわかってないのはわたしの方だったよ。ただ、楽ちんなのはいいんだけどさ、楽ちんだけに、わたしが必死こいて呪文を唱えるのがバカらしくなるんだけどね――。


 そうやって3人で黒い棟が見える方に向かって歩いていたら、ついに旦那さん達3人の姿が見えた。


 しかしその3人の姿は、わたしの想定してたものとは随分違っていた――。


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