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第22話 チリチリ頭

 ええ!なに!?あの叫び声!?どっかで聞いたことがあるような声だった気もするけれど、めちゃんこ不気味で、バケモノとしか言いようがないよ!


「ほな」


 しかし旦那さんと山中さんは、何事もなかったかのように出て行っちゃった――。


 マジっすか?どうしよう?これって、マジでヤバい奴なんじゃないの?全身に悪寒が走る。動揺したわたしは、落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりを繰り返す。

 

 やべえやべえ――今思えばさ、もっとちゃんとこの世界のシステムについて聞いておけばよかった。だってさ、今からあんな叫び声のバケモンと戦わなくちゃいけないんでしょ?こんなズブの素人のわたしじゃ、絶対怪我とかしするよね?いや、下手したら死んじゃうかもしれない――。その時はどうなるのよ?旦那さんは、この世界は四次元的霊世界とか、バーチャルリアルなゲームみたいなもんとか、夢見てるようなもんだとか言ってたけどさ、ホントに大丈夫なの?


 しばらくの間、アレコレ考えながら部屋をうろちょろしていたら、「ガチャ」と音がして扉が開いた。見てみたら旦那さんだった。ん?なんの用なのかな?


「ミレーユ、なにやっとんねや、はよ来んかいや」


 どうやら、わたしがモタモタしてるから呼びに来たらしい。


「いや、バケモノみたいな声が聞こえて来たんで、大丈夫なのかなって思って――」


 わたしは言いながら、はたと気がついた。なんと、旦那さんの全身には血がついていて、右頬に傷ができており、黄色い全身タイツの右上腕部分がパックリ破れていたのだ!げ!やっぱり、大丈夫じゃないんだ!


「なに言うとんねんな、そりゃモンスターやねんから鳴きもするし、戦えばちょっとくらい怪我もするし、敵を倒せば血も浴びるやろ」


 別になんでもないっていう感じで言う旦那さん。


「ちょっとくらいって、結構ビリビリじゃないですか――」

 

「大丈夫や、こんなくらいなんともないわ。それにな、怪我したって大丈夫なんやで、なんちゅうてもここは霊的世界で、夢見とるようなもんなんやからな」


「ホントのホントに大丈夫なんですか?痛みとかはないんですか?」


「そんなもんあるかいな。例えばお前さんもやな、どっかから落ちたり、なんかにぶつかったりして怪我する夢とか見たことあるやろ?」


「はい」


「その時痛かったか?痛なかったやろ。それと一緒やがな」


「そうなんですか?」


「そうなんです。そやなかったら、澄子を外に出すかいな」


「なるほど――」


「まぁ、そういうことやから、余計な心配せんでも大丈夫や。じゃあ、はよ着替えて来いや」


「はい――」


 再び旦那さんは出て行った――。


 なるほど、確かに旦那さんが言うとおりな気もする。自分のお嫁さんを危ない目に合わせるわけないもんね。はぁ、しょうがない。そういうことなら、着替えてみるか――。


 わたしは着ていたジャージを脱いで、用意してあった服を着て行くことにした。白いTシャツを着て、白いもんぺみたいなのを履いて、青いガウンを纏った――と、そこで、わたしははたと立ち止まってしまった。なぜなら、次に黄色の腰巻をしようと思ったのだけれど、その腰巻から長い帯が二つ出ており、どうやら銀の胸当てに繋がっているらしかったからだ。


 なにこの腰巻?どうなってんの?なんで、銀の胸当てと繋がってんのよ?わたしは、銀の胸当てから出てる帯を見たり、腰巻を見たりしていた。


 するとまた「ガチャ」って音がして、ドアが開いた。見てみると旦那さんだった。


「ミレーユ!なにやっとんねんな!はよ来んかいな!」


 旦那さんが大きな声で言った。どうやら怒ってるみたいだけれど、そんなことよりも問題は旦那さんの姿だった。さっきよりもっと全身血まみれなのもそうだけれど、頭にしている金色の冠は歪み、そこから出ている髪は茶色に変色してチリチリになっており、黄色の全身タイツも、青い服も、紫のマントも、茶色の籠手もなんか所々黒くなって、焦げついていたのだ。


 わたしは言葉もなく、あ然として口を半開きで開けたまま、旦那さんの姿を見ていた。


「ん?なんや、ミレーユ?鳩が豆鉄砲くらったような顔して?」


 旦那さんは、チリチリの焦げ焦げなのにも関わらず、やはり平然としている。


「いや、だって、なんかめっちゃ焦げてないですか?」


 わたしは旦那さんの頭を指差しながら言った。


「あ~、な~んや、そのことかいな~。ハハハハ」


 なんか知らないけれど、旦那さんがめっちゃ笑った。一体なにがそんなにおかしいのだろう?


「これな~、わかるわかる。確かに黒なっとうもんな。うんうん。まぁでも、ドラクエ言うたらそんなもんやで~」


 相変わらずめっちゃ笑顔の旦那さん。一体どうしてしまったのだろう?あまりにも敵にやられすぎて頭がおかしくなってしまったのだろうか?。いずれにせよ、外に出たら、どエラい目に合うことだけは確かだ――。


「ハハハハ、大丈夫や大丈夫、頭なんかおかしなってないわいな。これな、いろいろダメージ受けとうように見えるかもしれんけどやな、全然痛ないねんで。ほら?元気やろ?ピンピンやでピンピン、なんせ、夢見とうようなもんやからな」


 旦那さんが笑って、屈伸運動とか前屈とかいろんな動きをしている。例え夢見てるようなもので、痛くなくてピンピンだとしても、やっぱり旦那さんみたいになるのは嫌だ。


「そっか~、やっぱし怖いか~。でもな、心配せんでも大丈夫や、ミレーユ、お前さんにはワイがついとるからな、全然大丈夫や」


 そうなの?随分とやられちゃってるみたいだけどさ――ところでさ、今外では山中さん1人なんじゃないの?大丈夫なの?


「澄子か?澄子は心配ないんやけど、早よ戻るにこしたことはないかもしれんな。よし。じゃあ戻るけど、戻る前に一つ言うとかなアカンやことがあんねや。お前さんは、随分怪我のことを気にしとるようやけどな、さっきも言うたとおり、別に怪我してもなんの問題もないんやで。それにもし仮に怪我してもやな、そんなもん呪文を唱えたらすぐ治んねや」


 え?そうなの?


「そうなんや。例えばこの頬の傷やけどな、こんなもん、呪文唱えたら一発やからな。今からその証拠見せたるわ。よう見ときや、いくで~、あっホイミッ!」


 旦那さんが呪文を唱えると、一瞬にして傷がなくなった!うわ!凄い!


「な、そういうわけでな、なんの心配もいらんねん。後、その黄色い帯やけどな、それはそんな衣装やから気にせんとき。なんも考えんと、腰巻きして胸当てしたらそれでええねんで。じゃあワイは行くけど、はよしいや」


 そうして旦那さんは、チリチリ頭のまま出て行った――。


 ふうん、そっか~、怪我しても心配はないわけだ――ただ、チリチリ頭はちっとも治ってなかったね。例え夢でも、チリチリ頭はちょっと嫌だな――。


 まぁでも、モタモタしてたら旦那さんが来ちゃうし、さっさと着替えを済まして外に行くとするか――。


 わたしは、黄色の腰巻きをして銀の胸当てを装着した。思ったより重くない。黄色の帯が、胸当ての肩からの伸びた棒の先からぶら下がっているのが気にはなるんだれけど、特に邪魔になるわけではないし――旦那さんも気にするなって言ってたし――これはこれでよしとしよう。それからわたしは、銀の籠手をして茶色のブーツを履いた。そこで気がついたんだけれど、なんと籠手は前腕をガードしているだけで(それもなんか短い)、上腕のフォローを一切してなかった。おかげ様で上腕は、半袖のTシャツからモロに肌が露出してしまっている。


 なんなのよ、これ?防御する気がイマイチないじゃない。火を吹くのかなんなのか知らないけどさ、なんか焦げるようなバケモノがいるんじゃないの?なのにさ、こんなに肌を露出してたらさ、完全に火傷しちゃうよ。まったく――わけのわからない黄色の帯を作ってる暇があるんだったらさ、この上腕部分を防御する物を作れって言うんだよ――。


 でも、しょうがない。これはそんな服なのだ。後で旦那さんに行って改良してもらうことにしよう。


 最後に、雑誌くらいの大きさの紫のバッグが残っていたので、その中身を見てみることにした。なんにも入っていない。こんなバッグいる?でも、置いてあるってことは、なにかに必要なのかもしれないよね。なのでわたしは、そのバッグを肩から掛けることにした。そしたらさ、やけにショルダーが短くって、脇の下くらいにバッグが来る感じになってしまったんだよね。なにこれ?どうせなら、もっと持ちやすいバッグを置いといてよね。でも、しょうがない、わたしはバッグを背中に移動させて、リュックのように背負うことにした。


 よし、できた。それじゃあ、今にも旦那さんが怒鳴り込んで来そうなので、怖いんだけれど、勇気を出して外に出ることにしよう。

 

 ふぅ~。


 わたしはひとつ大きな息を吐き、ドアノブに手をかける。よし!さぁ、開けるよ!


 ガチャ。


 わたしがドアを開けた先には、信じられない光景が広がっていた――。


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