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第16話 勇者のぬいぐるみ

 わたしは唾を呑み、ゆっくりドアを開ける。部屋は常夜灯の明かりのみで薄暗くてよく見えないけれど、山中さんは寝ているようだ。部屋の様子はいつもとなんら変わりはない、引き出しボックスの上にはドラクエのモンスターフィギアがあって、スライムとホイミスライムのぬいぐるみが、その横の椅子の上に置いてある。


 ところで、肝心の勇者のぬいぐるみはどこにあるのだろうか?やはり山中さんが抱いているのだろうか?わたしは緊張しながらベッドに近づいて行く。今のところヘンなオッサンの声はしない。


 ベッドのすぐ傍まで来た。やはり山中さんは寝ている。勇者のぬいぐるみは、山中さんの頭のすぐ横に立つようにして置いてあった。わたしはちょっと緊張しながら、しばらくじっと見つめてみた。しかし動きもしなければしゃべりもしない。


 わたしは、なにかアクションが起こるのを待ってみたんだけれど、5分くらい経っても、全然なんの音沙汰もない。アレ?おかしいな?今日の夜にいろいろ説明してくれるんじゃなかったの?


 でも、なにも起きないんならしょうがない。わたしは、なんだか肩透かしをくらったような釈然としない気分で部屋から出ることにした。しかし部屋を出ようとドアに手をかけたその時だった――。


「今はまだ早いんやで。10時にここに来てくれへんか。あっ」


 ヘンなオッサンだ!わたしは急いで振り向いた。しかし勇者のぬいぐるみが動いているような様子はない――。


 ――ところで10時だって?どうして今じゃダメなんだろう?ヘンなオッサンにもなにか用事があるってことなんだろうか?幽霊事情のことはわからないけれど、まぁしょうがない、また10時にここに来ることにしよう――。


 わたしは山中さんの部屋を後にして、これまでの記録を書くことにした。時刻は21時30分を回ったところで、約束の22時までは後30分ある。その時だった。ガラガラガラと部屋が開く音がして井上さんが部屋から出て来た。


 その後も杉浦さん、黒山さんと続々と部屋から出て来た。なんか忙しい夜だ。その対応に追われていると、時刻はあっという間に22時になっていた――。


 よし!行こう!今度こそはちゃんと説明してもらわないとね。


 わたしは山中さんの部屋に行き、静かにドアを開ける。部屋の中は先ほどと同じように、常夜灯の明かりだけで薄暗い。どうやら山中さんは眠り続けているようだ。


 わたしは部屋に入ると、ゆっくり1歩ずつ慎重に歩く。そしてわたしが5歩くらい歩いたところで、ついに来たるべき瞬間がやって来た!


「おう。来たんやな、まぁ、そこの椅子に座りいや。あっ」


 ヘンなオッサンの声が、ベッドから聞こえて来たのだ!


 わたしは言われたとおり、椅子に座ることにする。すると次の瞬間、ベッドから勇者のぬいぐるみが床に飛び下りるのが見えた!うわ!めっちゃ俊敏じゃないのさ!


 わたしの1メートル先くらいで、勇者のぬいぐるみがわたしの方を見て立っている。わたしは息を呑み、勇者のぬいぐるみを凝視する。頭でっかちで、しっかりとした体幹があるわけでもないのに、一体どうやってバランスを取っているのだろう?


 勇者のぬいぐるみがゆっくり歩き始める。太った足をまっすぐ交互に動かしているので、少しぎこちない歩き方だけれど、ちゃんと歩けている。


 わたしは吐きながら、息を冷静さを保つように努める。勇者のぬいぐるみは、わたしの前方50センチくらいのところで立ち止まって言った。


「お待たせ。あっ」


 口こそ動きはしなかったけれど、しっかり顔から声が出てる感じがする。一体どういう仕組みになっているのだろう?


「仕組みか?それを説明すると、いろいろ難しい話しになんねんけど、どうしても聞きたいか?」


「いや、別に、大丈夫です」


 わたしは答えた――ん?ところでこの人、なんでわたしが頭で考えてることがわかったの!?


「それはやな、ワイが4次元的霊的世界に属しとる存在やから、人が考えとることとか、思っとることとかやな、そういう目には見えへんことがわかるんやで。あっ」


 え?そうなの?よくわかんないけどさ――。


「そんなことよりお前さん、いらんことを考えすぎやで。うんこを踏んだんを主任のせいにしてみたり、山田さんや渡辺さんや矢崎さんに文句タラタラ言うてみたり、昨日も酷かったで。あっ」


 それで、時々あんなふうに言って来てたってわけなの?


「そういうこっちゃ。お前さんはこれから僧侶として我々パーティーに加わってもらわんとアカンからな。こんなふうに我が立ち過ぎとったり、妄想でグチャグチャになっとったりしたらアカンのやで。あっ」


「え?僧侶?」


 わたしは思わず口に出して言っていた。なによそれ?僧侶としてパーティーに加わるってどういうことなの?


「今ワイが言うたとおりそのまんまや。ドラクエでも僧侶ッちゅうんがおるやろ?体力を回復させたり生き返させたり、かまいたちの魔法かけたりする奴が。お前さんにはその僧侶になってもらうんやで。あっ」


「はぁ――?」


 全然ピンと来ない。別にドラクエに興味があるわけじゃないからね。それにしてもなんで?なんでわたしが、そんな僧侶なんてのにならなくちゃいけないの?


「確かにわけがわからんわな。ほなら最初から順番に説明していこか。あっ」


 そうしてヘンなオッサンの長い話しが始まった――。


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