VS 大盗賊(?)アイオーン!④
ついに登場したアイオーンの切り札《【紅眼】カードを奪う賊》!
【紅眼】の恐ろしい能力とは!?
最強デュエリスト、どう戦う!?
手札無し。
場にカード無し。
アイオーンの場には、切り札の《【紅眼】カードを奪う賊》。
客観的に見たら、状況は絶望的。
だが待ってほしい。
見えている情報だけで判断するのは、僕のスタイルじゃない。
「僕のターン…」
カードを引く態勢をとりつつ、冷静に考える。
デッキは残り16枚。強力なユニットを処理できるものもあったはずだ。
ほかに、サーチ、引き伸ばして次のターンを期待できるもの、墓地のカードを再利用するもの…
いろんな対応を考えられる状況だ。
僕のスタイルは、いつだって確率と効率との戦いだった。
その経験からしたら、いまは絶望的な状況なんかじゃない―――!
「ドロー!」
引いたカードを確認する。
よし、いける!これならまだ戦える!
頭の中でカードを使う順番を構築する。
この手順で、盤面を持ち直す!
「僕は、いま引いた《異世界に続く階段》を発動!墓地のカードを1枚除外し、デッキからユニットを召喚する!
デッキより《異世界の放浪者》を召喚!」
「異世界…だと…?」
少女とアイオーンが怪訝な顔をした。
空に黒い亀裂が入り、亀裂から僕の前にまで、闇で作られた階段が現れる。
そこからゆっくりと《異世界の放浪者》は降りてきた。
こいつが、僕のデッキの切り札だ。
「な、なんだそのカードは…そんな【託宣】、聞いたことがねえ…!」
「まさか…【使徒】…?」
「【使徒】だろうが何だろうが、俺サマだって、【託宣】から外れた、超常のカードを持ってるんだぜ!」
アイオーンの言葉に反応するように《【紅眼】カードを奪う賊》の眼が妖しく光った。
「【紅眼】のスタンド効果!相手のカードを除外する!」
《【紅眼】カードを奪う賊》が吼える。
紅い眼の妖しい光に呼応するように《異世界の放浪者》の周囲に黒い空間が現れ、その姿を飲み込んだ。
「ヒャハハ!【紅眼】はなあ、その能力で敵を、魔の領域、【混沌】に落とすのさ
!そこに落ちたら最後、もう誰も戻ってこれねえ!ハッ、ザコユニットが、ビビらせやがって!」
アイオーンがまくしたてる。
どうやら、知らないカードを見て焦っているようだ。
【混沌】、ゲーム的にいってしまえば、いわゆる除外ゾーンか。
落ちたら帰ってこれない。どうやら、この世界のルールは、まだ除外が除外として意味を成していたらしい。
この《異世界の放浪者》が現れるまでは―――!
「《異世界の放浪者》のレイド!除外されたとき、フィールドに戻る!」
再び黒い空間が出現する。そこから放浪者は弾き出されるように帰還した。
「か…【混沌】から…!」
「帰って来るなんて、そんなカード、見たことない…!」
アイオーンと少女は、またも驚嘆する。
やはり、いままでは存在しなかったのだ。世界を移動する放浪者などは―――!
「【紅眼】!もう一度だ!」
《【紅眼】カードを奪う賊》が再び眼を光らせ【混沌】の扉を開いたが、さっきと同じように《異世界の放浪者》は帰還した。
さらに【紅眼】は、効果使用のコストにより、そのパラメータを4/0まで減らしていた。
「ば、バカな…」
切り札である【紅眼】が無力な状況に、アイオーンはかなり戦意を喪失している。
効果の無駄撃ちのおかげで隙もできた。畳み掛けるなら、いまだ―――!
「さらに除外ゾーンから《【征剣】カオスⅩⅢ》のレイド効果!フィールドのユニットの装備となってスタンド、+1/+1を与える!」
「【征剣】!?しかも除外ゾーンから装備だと!?そんなカード、いつ除外して―――ま、まさか!?」
そう、1枚だけある。
ハンデスによって、内容も確認されず墓地に送られ―――
《異世界に続く階段》のコストとして、除外されたカードが、1枚―――!
この世界で初ドローしたカード。
それにはやはり。
ハンデスされたことにすらも。
確かな意味があったんだ。
「《異世界の放浪者+【征剣】カオスⅩⅢ 5/5》で、《【紅眼】カードを奪う賊 4/0》を攻撃!」
放浪者は、黒く輝く【征剣】を高く掲げる。
その刀身から、黒い闇の輝きが雲を貫くように吹き出した。
「…その者【混沌】よりきたる。【征剣】をもって、闇の使いを撃退せん―――
やっぱり【使徒】様―――」
「混沌両断!」
放浪者は【征剣】を振り下ろす。
刀身から放出された闇が、まるでビームのように《【紅眼】カードを奪う賊》を飲み込んだ。
アイオーンのライフが0になる。
僕の勝ちだ。
「…【混沌】から帰って来る!?【征剣】!?そんなこと、ありえない!」
アイオーンはまだ、自分の負けを認められないようだ。
「せっかくあいつから【紅眼】なんて【託宣】から外れた、強力なカードをもらったってのによー!」
そういえば、さっきから、全然知らない言葉を聞く。
「それはなんだ」そう声をかけようと思ったとき―――
「ありがとうございました。【使徒】様!」
少女が僕に駆け寄ってきた。
ああ、ここにも、知らない言葉がまたひとつ。
「その【使徒】っていうのはともかく、様付けは慣れないな」
「僕を呼ぶなら、波瀾万丈」
「僕の名前は、波瀾万丈だ」
やっぱり、ここは異世界に違いない。
さっきの【決闘】を見ても、現実じゃ、あんなエキサイティングなゲームはできやしない。
まだ、興奮に手が震えている。
少女とアイオーンに目をやる。
確かに、熱いゲームではあったけど、遊んでばかりはいられない。
【決闘】、【紅眼】、【託宣】、【使徒】、【混沌】、【征剣】、【使徒】…
僕がこの異世界を生き抜くためにも、知らなきゃいけないことはたくさんある。
勝利の喜びも束の間。
僕は彼女らから、話を聞くことにした。
■用語説明
①サーチ
-デッキ内の、ほかのカードを探すカードのこと
-必要なカードを引く確率を上げるためにも、重要なカード
②除外
-ゲームから除外の略。第二の墓地ともいう
-除外されたカードは、そのゲーム中は使用できない
-はずだったが、いまは除外されたものを専用のカードで利用できることもしばしば
-世界観としては、【混沌】と呼ばれる
③【混沌】
-ゲーム的には除外ゾーン
-世界観としては地獄のようなものと思われている
④帰還
-除外ゾーンから戻ること
-類似の例として、墓地から戻ることは蘇生という
⑤【使徒】
-しと
-世界観としては、神の代行者のようなもの
⑥【征剣】
-せいけん
-12の使徒が持つと言われる、特別な剣のこと
⑦【託宣】
-神教国カルディアの国教、【カルディア聖教会】よりカードが配布されること
-神の意志として、ランダムにカードが配られる
-いわゆる、パックの配布
-高貴な者ほど、相応しいレアカードがあたるとされる
⑧パック
-カードが複数枚入った袋
-中身がわからないように閉じられており、開けるまでどんなカードが入っているかわからない
-現実世界の大人はたくさん買う