VS 大盗賊(?)アイオーン!①
ついに4話もかけて、アイオーンとの【決闘】がはじまった!
ルールも把握できていない最強デュエリストは、異世界でも最強を維持できるのか!?
「「【決闘】!!」」
雄叫びをあげ、アイオーンは光る【本】から、カードの束を抜き放った。
その様子は、まるで盾から剣を抜く騎士のようで、僕は思わず見入ってしまった。
―――っ!いけない!集中しないと。
抜かれたカードの束、おそらくアレはデッキだ。
光の落ち着いたアイオーンのデッキは、立体画像のように彼の横に浮遊している。
見よう見まねで、僕も【本】からデッキを引き抜く。
恐る恐る手を放すと、僕のデッキもやはり同じく宙に浮いた。
―――やばい!楽しい!!
デッキの準備ができた。それだけの動作。
だけど、ただそれだけのことが、こんなにもファンタジカルに体験できるなんて!
カードゲーマー冥利につきる!
つい勝負のことを忘れて、僕は感動してしまった。
それぞれのデッキから3枚、目の前にカードが並ぶ。
どうやらこれが手札みたいだ。
並んだ3枚のカードを見ると、どうにも頼りない名称と数字が並んでいる。
まるで、買いたてのストラクチャーデッキのようだ。
「ヒャハハ!大盗賊デッキを見せてやるぜ!俺サマのターン!」
アイオーンが腕を振るう。
「ドロー!」
すると、腕の動きに連動するように、アイオーンのデッキから手札へカードが1枚移動した。
その光景に僕はまたまた感動しそうになるが、ほほをはたき、集中力を持ち直す。
しっかりアイオーンの動きを見て、ルールや動作を覚えなければ。
「《盗賊の偵察者》を召喚!」
光が溢れ、収束する。
すると、その中からいかにもな単眼鏡を覗く盗賊が現れた。
いちいち感動していたらキリがないけど、本当に召喚できるのか―――!
僕は自分のターンが待ち遠しくなった。
「2枚のカードを伏せる!」
さらにアイオーンがカードを裏側で場に出した。
この伏せたカードは、いわゆる罠だろう。
相手の動きに対応する、カウンター系のカードと僕は読んだ。
「先攻は攻撃できねえ。命が長引いたなあ。ヒャハハ!ターンエンドだ!」
テンプレのような説明セリフでターンを終わらせたアイオーンを見て、僕は思わず、意外と悪い奴ではないのでは?などと考えて可笑しくなった。
さあ、そしていよいよ僕のターンだ。
この世界で、記念すべき初ドロー!
いったい何を引くのだろう―――
「僕のターン!ドロー!」
僕は腕を振るう。デッキからカードが舞った。
そのカードが手札に入ろうとした、その瞬間―――
「伏せていた《森の窃盗者》のレイド効果を発動!ドローカードを墓地に送るぜ!」
アイオーンの場で裏側表示だった《森の窃盗者》カードが表になり、姿を現す。
僕がデッキから引いたカードは、手札に入ることなく、墓地に送られてしまった。
この世界での、記念すべき初ドロー…!
それは、なんの特別感も無く。
そして、なにを為すこともなく、墓地に送られた。
「―――前言撤回、やっぱり、ただの悪人のようだな!」
僕は珍しく、声を荒げた(僕は自分の性格を温厚な方だと思っている)。
僕は、ハンデスだけは、絶対に許せない質なんだ。
頭に血が上った状態で、僕は手札のカードに手をかけ、自分のターンを開始した!
■用語説明
①デッキ
-【決闘】でつかう、カードの束のこと
-ここからカードをひいて、ゲームで使用していく
-裏側で積まれており、どんな順番でカードをひくのか、自分にも分からない
-この世界では、自分で選び抜いた20枚のカードをシャッフルしてデッキとしている
②ドロー
-デッキからカードをひき、手札とすること
-基本的には、デッキからドローした手札のカードを使ってゲームを進行する
-この世界では、ターン開始時に1枚ドローできる
③墓地
-使用済みのカードが行く場
-ユニットカードの体力が無くなったりすると墓地に送られる
-ここに移動したカードは、基本的に使用できなくなる
④ハンデス
-相手の手札を捨てる効果のこと
-手札破壊の省略
-これを嫌うプレイヤーは、稀によくいる