VS マリーとマリア④
マリーの《【華盾騎士】マリーゴールド》が、マリアの《【紅眼】血に飢えた獣》を打ち破る。
急激な成長をみせるマリーだが、マリアを打倒するにはまだ足りない。マリアの場には、まだ《異形の母サタンマリア》が健在だ。
しかし、そこで回ってきた僕のターン。異世界転移の主人公らしく、ここらでいいところを見せようか!
僕のターンが回ってきた。
マリーに守られなければ、やってこなかったハズの僕のターンだ。
マリアにはまだ《異形の母サタンマリア 0/1》がいるが、コストで弱まっており、もう【紅眼】を蘇生することはできない。
先のターンで不意のカウンターも決まり、マリアから見たら、いい盤面ではないハズだ。
「たたみかけるなら、いましかない!!」
僕は力強くカードをドローする。
「―――きた!
魔法カード《異世界への階段》を発動!」
「《異世界への階段》―――ですって?」
「それは!ハランさんのエースユニットを呼ぶカードですね!」
「そう!墓地のユニット除外をコストに、デッキから《異世界の放浪者》を召喚!!」
空の亀裂からかかる闇の階段。
こことは異なる世界から、僕のエースユニット《異世界の放浪者》が召喚された。
「また知らない【託宣】のカード…
まさかこの子たち、ただの村人ではないと言うの?」
「気付くのが遅かったね。僕もマリーも、ちょっと特別なのさ!
《異世界の放浪者 4/4》で《異形の母サタンマリア 0/1》を攻撃!」
《異世界の放浪者》が《異形の母サタンマリア》を斬りつける!
この攻撃で《異形の母サタンマリア》は死亡し、マリアのライフは8→5となった。
これで僕らの場には《異世界の放浪者》と、マリーの【華盾騎士】が並び、マリアの場には伏せが1枚のみ。
マリアの真の切り札である《異形の母サタンマリア》も倒した。
(勝利条件はほぼクリア―――)
「勝った、と思っているでしょう?」
刹那、気が緩んだ僕の隙を、マリアは見逃さなかった。
「まさか、このカードを使うことになるとは思わなかったわ」
マリアの伏せカードがオープンされる。
「呪いカード、《混沌への道連れ》。
私のライフが半分以下のとき、死亡したユニットを【混沌】へ落として発動。
これより死亡するユニットはすべて、【混沌】へいくのよ」
「―――永続除外カード!」
(しかし、それはハマれば驚異であるものの、僕の《異世界の放浪者》は除外には耐性があるし、この状況を覆せる効果ではない。
これだけならば―――)
「まだよ!《異形の母サタンマリア》のもう1つの効果!
このカードが【混沌】に到達したとき、墓地のユニットを蘇らせるわ!」
「なんだって!」
「蘇らせるのはもちろん私の子、《【紅眼】血に飢えた獣》!」
何度も何度も、死んだものを生き返らせる。まったく、恐ろしい執念だ。
「そして、この効果で蘇った私の子は、完全に蘇生する。
―――つまり、再び効果も使えるということ」
「なんだって!」
「それじゃあ、私の【華盾騎士】は―――」
「もう遅いわ!《【紅眼】血に飢えた獣》の効果!
0/-2をコストに、《【華盾騎士】マリーゴールド》を除外!」
オオオオオオオオオ!!!
【紅眼】が吠え、【華盾騎士】を喰らう。
「―――!!!」
思わず目を背けるマリー。
「見ておかなくていいのかしら?だって―――
次はあなたがそうなるのよ」
【華盾騎士】を喰らい終えた【紅眼】は、その能力でパラメータが4/3に戻る。
「続けて、あなたに直接攻撃!」
【華盾騎士】が場から消え、マリーは攻撃から身を守る術がない。
【紅眼】がマリーに向かって走る。
「ハランさん」
「―――」
これから起こることを想像し、僕は声が出せなかった。
「巻き込んでしまって、すみません。
でももし、ハランさんが【使徒】だったら、一つお願いしたいです」
「どうか、みんなのために、あの人を―――!!」
そのとき《【紅眼】血に飢えた獣》がマリーに突撃し、マリーはすべてのライフを失った。
「マリー!!!」
そのショックに、僕はようやく声が出せた。
「ああ、わかった!約束する!必ず勝つさ!」
僕の声は震えていたが、マリーに届くようにと力強く応えた。
「―――ああ、でも、やっぱり悔しいなあ…」
そう言い残し、マリーは動かなくなった。
自分が育った村なのだ。やはり自分の力で敵を討ちたかっただろう。
その無念が胸に染みるようだ。
「きちんと看取れたかしら?次はあなたもそうなるのよ」
マリアはすでにマリーのことなど見ていない。
次は僕を【混沌】に落とすのだと言っている。
マリーの最期の願い。
みんなのために、マリアを倒す。
僕が【使徒】かどうかは、関係ない。
この世界で親しくなった、マリーのためにも!
「私はカードを1枚伏せ、ターンを終了―――」
マリアがターンの終了を宣言する。
こちらのチームは僕1人となったため、次は僕のターンだ。
月明かりの下、涙を流すマリーを見たとき、僕は声をかけることもできなかった。
しかし、マリーの無念を晴らす手伝いをすると、せめてそれくらいはしようと決めたのだ。
僕はカードをドローする。
引いたカードは、まるで、この手順で勝つようにと、世界に誘導されているように感じた。
「勝つよ。僕は」
「できるかしら、あなたに」
「僕も、誰かの思惑で勝たされるようなことは、本意じゃないけどね」
「なにを言っているかわからないわね」
「ああ、僕にもわからないさ」
「でも、決着はつけよう。
《異世界の放浪者 4/4》で《【紅眼】血に飢えた獣 4/3》を攻撃!」
【紅眼】と《異世界の放浪者》は、互いに攻撃しあい、絶命する。
その攻防で、マリアのライフは残り4となった。
「それで終わり?ならば―――」
「―――そう、《混沌への道連れ》の効果で、互いのユニットが除外される」
黒い空間が現れ、2体のユニットを飲み込んだ。
「伏せカード《カオスの生贄》を発動!
私の子が除外されたとき、【混沌】からユニットを帰還させるわ!」
マリアが先のターンの終わり際に伏せたカード。
そう、これはおそらく彼女の戦術を回転させるための1枚。
「さあ、【混沌】より再び現れなさい!《異形の母サタンマリア》!!」
こうして墓地と混沌を利用し、相手の切り札の再利用を禁じつつ、自分は強力なユニットを循環させる。
―――その戦略は、もう見切った。
「僕の《異世界の放浪者》のレイド効果。除外されたとき、フィールドに戻る!」
「なんですって!?
単身で【混沌】から帰ってくるカードなんて―――!」
マリアの息が上がっている。
ここはすでに、互いの予測を超え合った先なのだ。
消耗も激しい。
僕1人では、ここまで来ることはできなかっただろう。
そう、マリーがいたから、ここまでこれた
そして、マリーがいたから、勝てるのだ。
「僕は手札から《遺された剣》を発動!
ユニット1体のATKを、1度だけ、除外ゾーンのユニットのATKだけ上げる!」
黒い空間【混沌】より、1振りの剣が落ちてくる。
「その剣は、あの子の…!」
「そう、《【華盾騎士】マリーゴールド》の剣さ。
《異世界の放浪者》の攻撃力は、8になる!」
遺された剣を携え、《異世界の放浪者》が構える。
「そして、混沌から戻った《異世界の放浪者 8/4》は、まだこのターン攻撃していない」
「ま、まさかそんな…!」
「【華盾騎士】の遺志で、《異形の母サタンマリア》を斬れ!」
「混沌両断!」
「―――あああああっっっ!」
バトルダメージで、マリアはライフ失う。
【決闘】の決着がついた。
彼女の作り出していた瘴気が晴れる。夜はすでに明けていた。
「―――私の負けね」
マリアがつぶやく。
背を向けているせいで、どんな表情をしているかはわからなかった。
「よくよく考えたのだけれど、この村はカオス教団の計画には不要だったわ。
―――また合いましょう。ハラン・バンジョー」
マリアはそのまま、まだ暗い森の闇に姿を消した。
僕はマリーの下へ歩み寄る。
彼女の顔は、最期の時の悔しさの涙で濡れていた。
抱きかかえ、僕はそれを静かにぬぐってやる。
「マリー…勝ったよ…」
これで少しは安らかに眠れるだろうか。
君の無念を晴らせただろうか。
そのとき、背後で音がした。
「―――!」
まさか、まだ敵が!?と、驚いて振り返る。するとそこには―――
「うーん、わしら、こんなところでなにをしとるんじゃ…」
次々と立ち上がり、失っていた意識を取り戻してゆく村人たちの姿があった。
「…う…ん…」
そして、腕の中から聞こえる小さな声。
「ハ…ラン…さん…?」
「マリー!!!よかった!!!!」
僕はマリーを力一杯に抱きしめ、あとで思い返すと恥ずかしいくらい大声で泣いてしまった。
■カード紹介
②《異形の母サタンマリア》
-種類:ユニット
-レベル:2
-パラメータ:0/3
-効果①:スタンド:コスト0/-1:効果を失った状態でユニットを蘇生する
-効果②:レイド:除外されたとき、ユニットを蘇生させる
①《遺された剣》
-種類:マジック
-効果:レイド:ユニットのATKを、1度だけ、除外ゾーンのユニットのATKだけ上げる