紅眼の村④
村人を引き連れて現れた紅眼の女。
その恐るべき正体とは―――
「あらまあ、お客様がいると思って歓迎してみたら、逃げたお嬢ちゃんじゃない」
紅眼の女性が、この空き家に向かい歩いてくる。
ぞわり、と背筋に悪寒が走る。
嫌な予感しかしないが、僕とマリーも女に相対するために外に出た。
「ようこそ、私の村へ」
女が優雅に礼をした。
村人もそれに合わせ、全員で礼をする。
一見、礼儀正しいように見えるが、もとの住人であるマリーを煽っての行為であることは明白だった。
「みんなを元に戻して!あなたがやったんでしょ!?」
「あらまあ、そんなに怒って、いけない子」
女性は、マリーをたしなめるように言い聞かせる。
「私はマリア。闇の聖母とも呼ばれています。
―――喜んでください。この村の人々は、選ばれたのです」
「選ばれた?」
「なにに―――」とマリーは返した。
「もちろん、私のカオス教団の忠実な信徒としてです。
私のカオス教団の崇高な目的はただ一つ。
この国をゆがめる邪悪である【カルディア聖教】を滅ぼし、国民を自由へと解放すること―――」
「カオス教団―――」
「【カルディア聖教】を滅ぼす―――」
「この私の村人たちは、その崇高な目的のための走狗となるべく、選ばれたのです。
ああ、なんと幸運な方々なのでしょう―――」
「ふざけないで!」
マリーが話を遮った。
「幸運?なにも考えられなくなって、あなたの意のままに動くことが!?
【カルディア聖教】を滅ぼすために選ばれた?私たちは、そんなこと望んでない!」
マリーは強く意思を込めて言い返した。
意識を奪われた村人みんなの言葉を代弁するように!
そんなマリーの強い意思の言葉も、マリアはいとも簡単に受け流す。
「言い忘れていたけれど―――
―――あなたもそうなるのよ」
僕は全身に鳥肌がたつのを感じた。
マリアの紅眼が不気味に光る。
「ウオオオォォォォォ!!!!」
マリアの背後の闇から、巨大な怪物が姿を現し、吠えた。
その四足の獣の眼もまた、マリアと同じように不気味な紅い光をたたえている。
「【紅眼】!」
間違いない、四足獣の【紅眼】。こいつがマリーの村を襲った怪物だろう。
「わたしは逃げない!
お父さんとお母さんのためにも、村のみんなのためにも!
ここで仇を討ちます!」
マリーは、僕が見たことのない強い表情で【本】からデッキを抜いた。
僕もそんなマリーに合わせて【本】からデッキを抜く。
マリー。
盗賊から逃げるばかりだった少女。
僕より背も低くて、笑顔がまだあどけなく、僕のような放浪者にこの世界のことを教えてくれる優しい少女。
しかし、いまとなりに立つ彼女はどうだ。
意思の強い瞳。
他人のために強大な敵に対して剣を抜く姿。
それはまさしく、高潔な女騎士を連想させた。
「あらあら。まさか私と【決闘】しようというの?
―――聞きわけのない子たち。
いいわ、ではその魂、【混沌】に捧げましょう!」
マリアは黒い【本】を取り出し、そこからおぞましいオーラのデッキを抜き放った。
■用語説明
①カオス教団
-闇の聖母マリアと名乗る女性の所属する宗教団体
-国教である【カルディア聖教】に成り代わろうとしている