最強デュエリスト、異世界に降り立つ①
身体中が痛む。息が切れる。でも、走らなければ。
私は走っていた、全力で。
だけど、あてもなければ、目的地があるわけでも無かった。
足がもつれて転んだ。それはむしろ転がったというような勢いだったけれど、転ぶ中でも私は前へ進むことはやめなかった。
よろめきながらも、立ち上がった。
ただ前へ。ただ遠くへ。
よろよろと、また一歩を踏み出したとき、私が走る理由が現れた。
「どうしたぁ?もう逃げねえのかぁ?」
下卑た笑みを浮かべながら男が現れた。
そう、私は逃げていたのだ。この野盗から。
追いつかれてはいけなかった。絶対に、コレだけは、奪われたくないから。
「さあ、観念して渡しな!【騎士】のカードをよ!」
あの人から預かっている、この【騎士】のカードだけは。
私の命に代えても、絶対に守りたいのだ。
ぎゅっと胸に、強くカードを握った。
「大人しく渡すつもりはねえようだな。…まあいい。【決闘】で奪うだけだからよ!賭けな、【騎士】を!」
ついに、追いつかれて。
ついに、【決闘】を挑まれてしまった。
こうならないために、逃げ切りたかった。
だって、【神教国カルディア】の民ならば、挑まれた【決闘】から逃げるわけにはいかないのだから。
「これで俺サマも、騎士サマの仲間入りってわけだあ!ヒャーッハッハッハ!」
そう、私では、この男には勝てない。
―――そう思ったとき。
「それはどうかな!」
力強い言葉は突風のように。
澄んだ声は疾風のように。
これが、後にこの国をも変えてしまう彼との、初めての出会いだった。