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第七話 防衛と情報

 防衛と情報


 ダンジョンの準備が終わり、予定通りに侵入者候補が到着した。

 しばらくの間、唖然として遺跡風のダンジョンを眺めていたが、石橋を渡り、周囲を観察し始めた。


 石橋を渡ったところから、ダンジョンの敷地内に入るので、自由に映像と音声を拾うことができる。

 会話の内容には、あまり興味はないのだが、確認しておきたいことがあり、映像だけではなく音声も聴こえるようにしてある。


 どうやら、何の建物かよくわからないようで、周囲を周りながら、観察をしているようだ。

 恐る恐る地上一階の祭壇のある広間に入り、神殿か何かなのかと疑問を持ち始めた。


 やっと、奥に入り、ガラス床の下に見えるジュエルゴーレムの宝物部屋を見つけ興奮している。


 さて、ここまでで、確認したかったことはだいたい分かった。


 私が確認していたのは、言葉の問題だ。

 この地に来た時は、あまり考えていなかったが、ダンジョンマスターになったので、ダンジョンコアのリアとモンスターたちと意思疎通ができるのは、当然だと思う。

 だが、原住民の言葉がわかるかどうかは、別の話だと考えるようになっていた。

 そこで、音声で確認したところ、明らかに知らない言語を話しているが、意味がしっかり理解できるようだ。

 出来れば、生け捕りをしたいが、今回はダンジョンのテストを優先にする。

 音声は、この先を考えると、つらくなるので、映像のみにして追いかける。

 私には、悲鳴を聴く趣味もなければ、嘆き悲しむ声を聴く趣味もない。


 ガラス床の部屋から、奥に入って行き、立体迷路に突入した。

 だが、三人は、あまり警戒をしているようには見えない。

 気楽な足取りで、進んでいくと、案の定、落とし穴に、二人が落ちて、一人が、混乱し始めた。

 そこに仕掛け弓の矢が何本も飛び交い、三人目も脱落した。

 この時に、獣を絞めた時とは、明らかに違う量のポイントが入り、それが人の魂のポイントだとすぐに理解できた。

 全部で一万二千ほど、一人当たりが約四千となる。これに遺体の千ポイントを合わせて、ダンジョンで人を葬ると約五千ポイントとなることが分かった。

 今回の侵入者は、明らかに油断をしていたが、ガラス床の下にある偽宝物部屋を見て、しっかり反応をして興奮してくれたようだし、立体迷路の落とし穴と仕掛け弓も問題なく作動した。

 相手の数にもよるが、基本的なダンジョンの方向性は、間違っていないと思えた。


 続いて、地下十階のバトルルームに遺体を呼び出し、リアと見分する。

 人の遺体を愛でて楽しむ趣味はないのだが、初の侵入者の死因くらいは、しっかり見定めておきたいというのと、この世界の人族の姿も知っておきたかった。


 死因は、落とし穴に仕掛けてあった槍が突き刺さり、死亡しているが、落ちた時かは、わからないが、骨折もしているようだ。落とし穴に落ちた二人は、ほぼ同じ状態で、仕掛け弓の犠牲となった者は、首元に矢が刺さっていた。他にも矢は、刺さっていたが、死因はこれだろう。


 着ていた革の装備や服をダンジョン内に回収して全裸にして観察をする。


 肌の色は白く、顔立ちは、東洋人とは違う。かといって完全に西洋系化と言えばそうでもなさそうだ。あえていうなら、東ヨーロッパ系という感じかもしれない。


 一人は、黒髪で、二人は茶髪をしている。

 瞳の色も無理やり見てみたが、どちらかと言えば、濃い色をしており、ダークグレーを三人ともしていた。


 筋肉のつき方は、狩人なのだと思われるので、それなりにしっかりついている。


 今の私が、この人たちの集団に紛れられるかを考えた結果、多少の違和感は持たれるかもしれないが、無理ではないという結論になった。


 ダンジョンマスターになってから、もともとインドア派で、日焼けをあまりしていなかった私は、白い肌のままで固定されてしまったようだ。

 外で魔法の練習をしても日焼けを全くしない。

 黒い髪と黒い瞳も黒髪にダークグレーがいるのなら、問題にならないだろう。

 残るは顔立ちだが、これだけはあきらめるしかない。

 ということで、顔立ち以外は、馴染めるというわけだ。


 さて、気分を変えて遺体の処理だが、人体を素材にしたモンスターはいくらかいる。

 このダンジョンでは、直接攻撃するよりも、モンスターがいることを意識させるだけで、トラップに引っかかりやすくなると考えている。

 だが、ゴーレム系と死霊系だけでは、守り抜くことが困難だと感じ始めていた。

 そんな中で悪魔系に注目し、ブラッドアイというモンスターを見つけた。

 ブラッドアイは、野球ボールほどの球に一つ目と口とコウモリの翼を付けた赤いモンスターだ。

 こういう見た目なので、ダンジョンから出すことはない。これらを立体迷路に放ち、ただ飛んでもらうだけにする。

 攻撃方法は、噛み付きと、萎縮の魔眼があるのだが、使っても魔眼だけだろう。

 そういうわけで、三人の遺体を素材にして、わずかなポイントを消費し、ブラッドアイを六体呼び出した。

 初めての侵入者は、こうしてこの世を旅立っていった。


 工房に移り、彼らが装備していた物の見分をグレムリンたちと行う。

 革の兜、革の鎧に革のブーツ、革のグリーブといったところのようだ。所々金属も使われていて、狩人の持ち物にしては、良い気がする。

 インナーとして着ていた服は、柔らかく加工された革の上下のようで、加工に手間がかかっていそうだ。

 同じ物をグレムリンに作れるかと聞くと、ダンジョンの機能を使えばさらに上等な革の装備を作れるという。


 武器は、弓矢と槍に短剣を持っていた。

 こちらは、良し悪しがわからないので、グレムリンに状態を聞くと、粗悪品とは言えないが上物ともいえないそうだ。


 全ての品を一段上等にして十組作るように頼んで、工房を離れた。


 ダンジョンを平時に戻して再び開拓に戻ってもらおうかと思ったが、すでに周辺は十分広がっており、道もつながった。

 これ以上の開拓をする必要がないように思えたので、今後の侵入者が気楽に来られるように、石の道を広げてもらうことにした。


 全てのゴーレムとハイスケルトンが石の道に旅立ち、ダンジョン周辺の警戒は、ガーゴイルに任せてしばらくの間広域警戒には出ないようにしてもらった。


 ガーゴイルが、たまにダンジョンに獣を捕まえて持ち帰って来てくれる日々が、二週間ほど続いた日、ハイスケルトンのうちの数体が戻ってきた。


 ハイスケルトンたちは、革鎧に身を包んだ男たちを四人と馬を四頭引き連れて戻ってきて、男たちの首には、黒い首輪の様なものが巻かれていた。

 あの首輪の様なものは、リアが皆を送り出す時に、万が一のお守りと言って渡したものだ。

 後で性能を聞くと、魔法阻害の首輪だそうで、この世界の者は、誰でも規模は関係なく魔法が使えるので、普及している物らしい。

 犯罪者はもちろんだが、生まれたての子供が、間違って魔法を暴走させないようにするためにも使うそうなので、当たり前のように広く使われている品物らしい。

 一般用と犯罪者用との大きな違いは、自ら外せるかどうかだそうで、皆に渡したのは犯罪者用らしい。

 こんなものをグレムリンに作らせていたのかと、驚いたのは、よく覚えている。


 男たちの手足は、当然のように縛られていて、ダンジョンに収容した。


 男たちは、地下十階の牢獄に入れて、馬たちは牧場に放っておいた。

 装備も一通り取り上げ、グレムリンの研究素材にさせた。


 さて、尋問なんてやったことがない……。

「リア、どうしよう。話を聞き出すなんてやり方がわからない……」

「マイカ様、せっかく覚えた魔法の使う時です。闇魔法の魅了を使いましょう」

「その手があったね。忘れてたよ!」

 地下十階のバトルルームにブラッドアイたちと、待ち受け、ハイスケルトンが一人ずつ連れてくる男たちに、魅了をかけて情報を聞き出していった。

 彼らの話をまとめるとこうなる。

 一週間ほど前、辺境領最南端のミナンの村から、自衛団の者が、奇妙な道を見つけたと言って行方不明になった。

 それを辺境領南部最大の街であるエスナルの冒険者ギルドに連絡が入り、依頼として受理したそうだ。そして彼ら四人がミナンの村から謎の道に侵入したところで、モンスターの集団に捕まったという。


 エスナルまでミナンは馬で三日程の距離で、間は草原で街道ともいえない道がつながっているそうだ。

 ここから、北の村改めミナンまでは馬で二日程だったかな。そこから三日ほどか。何をするにも丁度良い距離に思える。


 それからも、辺境領とはどういう立場の地域か、エスナルは、どういう街か、どういう文化があるのかなど、細かく聞いていった。


 その結果、魔法があるためなのか、地球とはかなり違う文明の発達をしているようで、政治形態は封建制で、中世程度の文明度なのに、魔道具という便利な道具があり、料理ではコンロの魔道具を使ったり、冷蔵庫の魔道具や、水を出す魔道具もあるそうだ。ごみ処理は、スライムボックスと言われる装置が各家にあり、残飯から汚物まで処理してくれるという。


 辺境領とは、ランクス王国のマルス南方辺境伯の領地のことで、エスナルは、辺境領の領都となるそうだ。

 南方辺境領は、広く、陪臣もおり、騎士爵、男爵、子爵まで自由に任命できるそうだ。

 その兵力は、全てを合わせると二万と言われているそうで、王国の中でも大きな勢力らしい。

 そして、兵力以上に貴重な情報を手に入れた。

 それは、エスナルから北に一日程の距離に、ダンジョンがあるという情報だった。


 彼らからは、まだ情報を引き出したいので、牢獄に戻し、水と食事を与えることにした。

 本来なら、彼らは侵入者になるはずだった者であり、すぐに命を奪っても良いのだとダンジョンマスターとしては思う。

 だが、まだ覚悟が足りないようだ。

「ねえ、リア、彼らを解放したらどうなると思う?」

「北の森には、モンスターの巣があって、進入禁止だと話が広がるでしょう」

「じゃあ、解放しなければ?」

「何度も調査員が派遣され、その都度帰らない者が出ることになります。最終的に、その辺境伯やらが、動いて調査をするのではないでしょうか」

「ってことは、彼らはやっぱりここで葬るべき?」

「はい、解放する者を作るとしても、時期が早すぎます」

「時期というのは?」

「明らかに、身分の高そうな者を捕まえた場合や、どうしても権力者と連絡を取りたい場合です」

「確かにその通りだと私も思えた。じゃあ、彼らを人に近いモンスターにするには?」

「残念ながら、知性が高く、人と同じように会話のできるモンスターは、ポイントが多く消費されてしまうので、よほどのことがないかぎり考えない方がよろしいと思います」

「そっか……。じゃあ、悪いのだけど、リア、彼らから情報を引き出すことを任せていいかな。今の私には辛いみたい」

「はい、できるだけ多く引き出して見せましょう」

「最後に、命を奪う時は、私にやらせて。まだここで生きることに迷っているみたい。彼らには私の覚悟の犠牲になってもらう」

「かしこまりました」



 それから、数日後、私は、四人の命をこの手で奪った。





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