第四十九話 宰相からの手紙と吸血鬼のダンジョン
宰相からの手紙と吸血鬼のダンジョン
二つのダンジョンの処理を終えて、ミナンのダンジョンに戻ると、王都へ向かわせていたアサドの一体が、戻ってきていた。
どうやら宰相からの手紙を預かってきているらしい。
手紙を受け取り、内容を確認すると、私から宰相に宛てに送った手紙の返事だった。
私の記した通りに行動したようで、全てうまくいき、感謝の言葉が記されていた。
さらに、宰相から私への会談の申し入れがあり、日時はこちら任せで良いので、会談可能なら知らせてほしいとのことだった。
返事をアサドに持たせ、一か月程後に宰相との会談をすることにした。
それにしても、これからの戦いのために、指揮官となれる者たちを増やす必要がありそうだ。
エビルプリエステルのマリアは、万事をうまくこなせる器用さがあるが、あくまで魔法特化型の存在で、拠点防衛に優れている。それに彼女は、私たちの統括をしてくれており、調整をいろいろとしてくれているので、前線にはあまり出したくはない。
ゴルゴンのメリッサは、強力な石化の攻撃手段やドクヘビの攻撃などがあるが、やはり彼女も、拠点で待ち構えている方が性格にあっていそうだ。
アルルーナのユーリシュカは、植物による様々な攻撃手段を持っているが、最大の特徴が茨結界という防御特化の能力なので、やはり彼女も拠点防衛向きだろう。
フェニクスノスフィルは、自爆攻撃があるので、強力な手札としては使えるのだが、彼女の場合、自ら判断して自爆攻撃をするよりも、誰かの指揮下で行動する方があっていそうだ。
ドライアドのヒノスたちは、そもそもミナンのダンジョンから動けない。
ヘルコッペリアのウイステリアは、まだよくわからないが人形を従えられるのだろうが、どうも人形技師としての要素が強そうに感じる。
ダークネスジェネラルのセシリアが、指揮官として、本来あるべき存在なのだが、だからこそ、オロチのダンジョンから、あまり動かしたくはない。
ゴーレムたちやデモンナイトたちの中で高位の存在から指揮官を作り上げることも可能だが、彼らを作り込んでいるうちに、一体当たりのコストが高くなってしまい、自ら進化するのは、かまわないが、私から進化を促すのには、躊躇うほどの存在になってしまった。
他のモンスターたちもいろいろといるのだが、それぞれに役目を持っており、自由に動かせられる存在は、多くはない。
こうなると、バンパイアたちが、指揮官として動いてくれている現状をありがたく思う。
遺体からバンパイアを作り上げていくのには、様々な素材が必要で、ポイントを素材の代わりに消費して生み出すことしか当初の私は、考えていなかった。
だが、捕虜たちをバンパイアにした時、生きている人を素材にすると、低コストで良質なバンパイアが生み出せられると実感してしまった。
人の命を考えなければ、バンパイアたちは、本当に優秀な存在のようだ。
私の考え方も、人のそれとは随分かけ離れてきたのかもしれない……。
バンパイアたちの運用方法を見直すべきだと結論付けて、吸血鬼のダンジョンの改築に向かった。
「おまたせ。アインス」
「マイカ様、ようこそお越しくださいました。二つのダンジョンを立て続けに破棄してから、こちらへ来られたのですから、多忙だったことでしょう」
「うーん、多忙といえば、そうだったかもしれないね。でも、やることは、やっておかないと、皆も困ってしまうからね。アークバンパイアになってしばらくが経ったけど、どんな感じ?」
「そうですね。力は、大きく増したようです。以前よりも、心に落ち着きが持てるようにもなれた気がしますね。おそらく、アークバンパイアが通常のバンパイアが到達できる最高位ですので、そういう意味では、完全体になったと言えるのではないでしょうか」
「この先には、バンパイアロードとか、オリジンとかがあるみたいだけど、あれは、別格なんだね」
「バンパイアロードは、一握りの者が、幸運と才能に恵まれ到達できるようです。オリジンは、創世の神のような存在ですから、そもそも到達できるとは思えないですね」
「確かに、私のリストにあるロードになるための必要な素材もちょっとおかしい感じだから、アークバンパイアが通常の最高位ってのは、本当なんだろうね」
どうなっているかというと、アークバンパイアの悪魔核を十二個を集めて、一体のアークバンパイアと合成する必要があるようだ。これは、アークバンパイアが必要なのではなく、アークバンパイアの悪魔核が必要ということであって、おそらく殺し合いの末に生き残った者のみが到達できるという、恐ろしい内容だった。
それでも、本当に必要なら、私は集めてしまうのだと思う……。
「そうなのですね。このクラスにまで到達させて頂けただけで十分ですので、ロードクラスのことは、あまり気になさらないでください」
「うん、本当に必要にならない限りは、気にしない。それで、話は変わるのだけど、この中東地域での行動方針を改めようと思う」
「どのような具合にでしょうか?」
「まずは、タリア王国を滅ぼすつもりでの攻撃は、そのままでお願い。変わるのは教皇国の方で、神官を集めるのは、しばらく中止で。できれば教皇国自体への攻撃を止めてほしい。どうしても、タリア王国側から、集めにくくなったら、教皇国で消えても気にならない者、例えばスラムのような場所の住民とか、そっちを狙ってほしい」
「そうなると、マリア殿の進化に必要な素材が集まらなくなりますが?」
「うん。ちょっと事情が変わったんだよね。皆がダンジョン攻略を始める頃に、ランクス王国の宰相へ手紙を出してあったのだけど、その効果が良く効きすぎているみたいで、最悪の場合、ランクス王国から、オロチのダンジョンを攻撃されて、中東地域からは、タリア王国とオリウス教皇国の連合軍と戦うことになるかもしれない。だから、せめてオリウス教皇国は、動かないようにさせたいから、あちらから被害を出さないようにしたいんだ」
それから、アインスに手紙の内容を話した。
私が手紙で記した内容はこういう内容だ。
北方辺境領でのホックルの惨劇と北の城の陥落は私たちの仕業と明かしたうえで、当時、王都に避難していたノルン北方辺境伯の責任を追及し、お家取り潰し後、処刑とする。
その後に、敵対派閥のリーダー的存在であったノルン辺境伯が消えたことで、混乱している敵対派閥の貴族たちを北方辺境領に領地替えを断行し、彼らに、北方辺境領東部にある未知のダンジョンことオロチのダンジョンの探索と攻略を命じる。
という内容だ。そして現在は、しぶしぶながらも、北方へ向かった貴族たちが、ダンジョン攻略の準備を行っているとのことだった。
ちなみに、おおよその規模は、五千人以上一万人以下ということで、時期は、三か月後から半年以内ということになるそうだ。
「……、その、ダンジョンの耐久度の調査とポイントの収集がマイカ様の目的ということでしょうか?」
「うん、そのつもりで、手紙を送ったんだよね。それと宰相の一族が、王位を簒奪できたら、面白いかなぁって」
「ダンジョンの耐久度の確認やポイントの収集は必要ですから、わかりますが、簒奪までも視野に入れた仕掛けなのですね……」
「まあ、そっちはおまけだね。というわけだから、私がダンジョンの改築を行っている一か月の間に、集められるだけのバンパイアを集めてほしい。それで、最低でもアニエッタをアークバンパイアにしてあげたい」
「アニエッタをですか。彼女をアークバンパイアにすることには賛成ですが、さらに何か仕掛けを用意しているのでしょうか?」
「まずは、一か月後に宰相と会談をする予定なんだよね。この時までに、ベルギド王国で情報収集と仕掛けの準備をしているアサドたちから、報告をもらうつもり。その報告にもよるのだけど、アインスには、会談に出てほしいんだ」
「一か月後にならなければ、わからない仕掛けが用意されているというわけですね。報告と会談の内容によっては、私は、このダンジョンから離れて、別の行動をする必要があるといったところでしょうか」
「せっかく中東地域司令官なんていう役職を考えたのに、すぐに変更することになるかもしれなくて、ごめんね。でも、この仕掛けは、アインスたちが、ダンジョンを攻略する前から動いていた仕掛けだから、納得してほしい」
「役職などは、かまいません。問題は、この一か月でやるべきことをやるだけです!」
そうして、改めてやってほしいことを伝えた。
できる限りのバンパイアを集め、最低でもアニエッタをアークバンパイアにし、可能なら、妹たち全てをアークバンパイアにする。
今までの話に追加して、アインスがこの地域から離れることを前提に、アークバンパイアにしても問題のない個体を男女二体ずつ見つけ、できる限りの指導を行う。
さらに追加で、バンパイアの軍勢が作れるほど集められたなら、さらに良いとした。
これらは、タリア王国内、オリウス教皇国内のスラムなどから集め、最悪の場合でも、タリア王国のみとの交戦状態になるように気を付けるという内容で確認をした。
「それでは、その指示通りに、一か月間活動いたします」
「よろしくお願いするよ。私は、ダンジョンの改築に取り掛かるね」
そうして、アインスたちバンパイアは、それぞれに活動を始め、私はダンジョンの改築を始めた。
このダンジョンは、当初、使い捨てにするつもりだったが、ヘルコッペリアのウィステリアの工房を作ったり、エビルパラディンたちの拠点も必要だと考え、地下百階層まで作り込むことに決めた。
そうして、吸血鬼のダンジョンは、このように改築された。
地下一階から地下八階
地下九階から地下十六階
地下十七階から地下二十四階
地下二十五階から地下三十二階
地下三十三階から地下四十階
地下四十一階から地下四十八階
吸血鬼と鎧人形の迷路
八階層ずつに分けた隠し部屋とトラップを設置した立体迷路で、隠し部屋には、エビルマシンアーマーとバンパイアたちを配置し、程よいタイミングで攻撃を行う。
地下四十九階と地下五十階
聖魔のコロシアム
二階層分を合わせ、アークバンパイアとエビルパラディンを配置したミナンのダンジョンと同型のコロシアムがある。
コロシアムの観客席に当たる部分に、牢獄を設置し、バンパイアにせずに捉える必要が出来た者たちをここで投獄して置く。
周辺には、清浄な雰囲気を作り出す木々を配置し、コロシアムにも、それらの木々をモチーフにした彫刻が彫られている。
コロシアムの最奥には、偽の玉座があり、そこから裏のダンジョンへ行ける。
裏ダンジョン
地下五十一階から地下五十八階
鉱脈の迷路
通常の鉱脈から採掘可能な鉱石から石切り場で採取可能なものまで、ここで採掘可能にした。
主に、バンパイアスレイブたちが採掘作業をしている。
地下五十九階から地下六十六階
森と花広場
人形制作には、様々な素材が必要で植物や小動物などから素材を集める必要が出た時のために用意した。
農園もあり、様々な野菜や果物も採取できる。
地下六十七階から地下七十四階
牧場
人形制作に必要な動物素材をここからも採取できる。
また、生命力からダンジョンポイントを回収するためにもこの場所を用意した。
地下七十五階から地下八十二階
人形工房
ヘルコッペリアのウィステリアのための工房区として用意した。
ドールたちもそれぞれに分かれて人形の部品を作っている。
地下八十三階から地下九十階
真夜中のカタコンベ
バンパイアになったばかりの者たちが、バンパイアの特性を知るために用意した洞窟墓地。
洞窟の外には夜空が映されており、この階層で、バンパイアとしての自覚を持たせる。
地下九十一階から地下九十八階
居住区
オロチのダンジョンと同様に、メルヘンな建物からアパートメント、この世界の建物まで様々な住居を区画ごとに分けて設置してある
また、貴人用の牢獄も用意してある。
地下九十九階と地下百階
玉座の屋敷
二階層分をつなげて、玉座の広間を含めた木造の屋敷を設置した。
外観は、王都にあるような、貴族のための屋敷風だが、中は、ミナンのダンジョンにある宮殿とよく似た作りにしてあり、一階をアークバンパイアたちの私室、二階は、二つの広間にわかれており、手前の広間を会議室風にして、奥の広間を玉座の広間にした。
三階には、サロンを用意しておいた。
周辺は、様々な木々を植え、華やかに彩っている。
なんとか一か月以内に地下百階層まで到達することが出来た。
正直なところ、あまり工夫はしていないがエビルパラディンたちも住みやすい居住区にしたつもりなので、大丈夫だろう。
さて、アインスたちが集めてくれているはずのバンパイアたちの合成を繰り返す作業が待っている……。
ダンジョンよ。肉体は、疲労をしないが、精神は疲労をするんだよ。もう少し手加減をしておくれ!




