第四十七話 ハナマイカと三つのダンジョン
ハナマイカと三つのダンジョン
ダンジョンが地下百階に到達すると、ダンジョンからダンジョンマスターであるところの私に特殊な能力を与えてくれるらしい。
ミナンのダンジョンを地下百階まで到達させた時に『転移』の能力を受け取った。
そうして今回、オロチのダンジョンから私が受け取った能力は、『魔槍召喚』という能力だ。
ずっと、剣術の訓練ばかりやっていた私に、魔槍とは……。
ダンジョンをたどって転移のできる私に、転移を与え、今度は、剣術を訓練していた私に、魔槍召喚を与えるとは、絶対に狙ってやっていると思う。
持っていても困らないけど、あえてほしいという能力でもない能力を与えて、どうしたいんだ?
それでも、良い能力なので、転移同様に、ありがたく使わせて頂くけどね。
そうして、呼び出した魔槍は、『必中の毒槍』というらしく、長さを自由に変えられる槍だった。
何度か、いろいろと試した結果、投げ槍としても使えるようで、毒槍というだけあって、傷をつけたなら、そこから毒が入り込むらしい。
必中というのは、必ず急所に当たるという意味ではなく、必ず傷を与えられるという意味のようで、その傷に毒を流し込ませ、致命傷にできるという恐ろしい武器だった。
毒の種類も私が自由に選べられるようで、猛毒はもちろんだが、非致死性の麻痺毒も使えるのは、ありがたい。
さらに、投げ槍として、投げても傷を与えたなら、すぐに私の手元に戻ってくる素晴らしい仕様で、魔槍召喚というだけあって、自由に私の手元から、出し入れもできることもわかった。転移ができる世界なのだから、手元から消えている時は、亜空間的などこかに収納されているのだろう。
今後は、剣術とともに槍術も訓練に入れる必要が出てきてしまったが、良い能力なので、あきらめて訓練に励もう。
同じような槍の話は、地球にもある。魔槍なのか聖槍なのかは、わからないが『ゲイボルグ』という槍だ。
ゲイボルグは、必中の槍という話や毒槍という話もあるが、傷を治さなくさせるという話や無数に分かれて攻撃を与えるという話もある。さらに大きく思いという話もあるので、似てはいるが別物なのだろう。
私の槍の銘は、ゲイボルグではなく、別物として『ハナマイカ』という銘を与えた。良い武器には銘を与えるべきだという話をどこかで聞いたことがあるので、銘を付けてみた。
柄にあたる部分に、植物をモチーフにした彫り物があり、何の金属かわからないが、かなり丈夫な槍なのは理解できる。その中にいくつも花模様があったので、この名を選んだ。
さらに、ダンジョンが今回、私に与えた恩恵は、これだけではなかった。
私は、唯一のベルゼモスという悪魔なので、どういう方法をとれば、大悪魔へ進化できるのかわからなかった。
おおよその見当はついていたのだが、私の予想を裏付けしてくれるように、方法を教えてくれた。
それは、一万人分の魂相当のダンジョンポイントを消費することで、大悪魔になれるという情報だった。
これは、一万人を殺せ、という意味ではなく一万人の魂相当のポイントだというところが重要なのだ。
私が保有しているダンジョンポイントは、一万人の魂の総量には、届いていないが、ホックルの戦いで回収した様々な物をポイントに変えれば、一万人分のダンジョンポイントを軽く超えてしまう。
大悪魔であるアークデーモンクラスには、できるだけ早くなっておいた方が良いとは思うのだが、まだ、その時ではない気がする。
おそらくなのだが、私の悪魔核の成長が、大悪魔であるアークデーモンクラスに、まだ対応できないと、何となくだがわかってしまうのだ。
大悪魔への進化は、今すぐではなく、もう少し先に取っておこう。
オロチのダンジョン周辺の整備や、北方辺境領からの家畜泥棒など、皆がそれぞれに仕事をこなしている中、私も槍術の訓練を行っていると、立て続けに、三つのダンジョンの攻略完了の知らせが届いた。
ツバイスが攻略していたダンジョンは、石蛇のダンジョンといった様子で、石材を採取できる岩だらけのダンジョンだった。
表のダンジョンは、様々な蛇のモンスターたちが出現したそうで、事前情報から、ガーゴイルナイトを中心にした部隊でダンジョンアタックを行ったらしい。
裏のダンジョンには、ストーンバイパーという萎縮の魔眼を使う蛇が主力で、ガーディアンには、バシリスクが用意されていたが、元々が、鉱物資源の塊であるガーゴイルナイトには、バジリスクの石化の魔眼が、役に立たず、命までは取らずに、しっかりと縛り上げて袋を頭に被らせて大人しくさせているという。
すぐに、ダンジョン掌握に向かい、おそらく青年ほどの年齢の見た目の前マスターを横目にダンジョンの掌握だけ済ませ、ドライスの攻略していたダンジョンに向かう。
ドライスが攻略していたダンジョンは、人形のダンジョンという様子で、古城の中に石壁の迷路が広がっていた。
こちらのダンジョンには、オートマターというべきか、マシンドールというべきか、とにかく自動人形が待ち構えていたそうだ。
このダンジョンで取れる素材は、この自動人形たちの部品そのものだそうで、いくつか見させてもらったが、木製の歯車だけではなく、金属製の歯車もあれば、その体表面も陶器のような質感があったり、確かに素材としてこの自動人形自体に価値があることがわかる。
自動人形たちは、表のダンジョンで活動しており、裏のダンジョンに行くと、リビングドールやエビルドールなどの姿は、人形だが、中身は死霊や悪魔という存在たちが待っていたそうだ。
ガーディアンは、ヘルコッペリアという自動人形に魂が宿った存在がいた。
このヘルコッペリアは、自らも自動人形の技師でもあるモンスターで、自動人形である自分を愛してくれた青年の想いに答えるために悪魔の力を借りてヘルコッペリアになっという。
だが、悪魔は魂の代償に、ヘルコッペリアの体中に暗器を仕込み、青年が彼女を抱きしめようとすると、青年が死んでしまうという体に作り替えていた。
そのことをしらずに、ヘルコッペリアと青年は抱き合い、そして、青年は死んだ。
その後、ヘルコッペリアは、大いに悲しんだが、自分を愛してくれた青年のことを思い、愛される人形を作り続けているという。
こんな悲しいフレイバーテキストのあるヘルコッペリアなのだが、本当に凶悪なモンスターで、彼女を攻略するのには苦労しただろう。
攻略方法をきいたところ、デモンナイトで包囲してから、ウイッチやジンたちによる、遠距離攻撃で、徐々に機能を弱らせ、一気に魔核を本体からきりはなしたそうだ。
彼女のもつ暗器には、飛び道具も当然あるのだが、その脅威は、接近戦にこそ発揮される。また、彼女には、自動修復機能もあるので、この方法がもっとも効果的だったと思う。この作戦を速やかに実行できたドライスは、見事だと思う。
こちらのダンジョンも熟女という年齢程の女性の前マスターの遺体を横目に掌握だけすまし、アインスのいるタリア王国のダンジョンへ向かう。
ミナンのダンジョンに戻り、アーマードスレイプニールに乗り、一気に駆け抜ける。
それでも、一日近くの時間がかかり、他国を横断すると、時間がかかると実感してしまった。
アインスたちがいるダンジョンは、悪魔のダンジョンというべきダンジョンで、レッサーデーモン、ローデーモンが出迎えてくれたという。
デーモンたちは、基本的に黒い猿っぽい姿をしていて、多分、黒い猿人という存在がいたなら、こんな姿なのだろう。
では、他の悪魔とデーモンとの違いを挙げるなら、意味付けがされているかいないか、ということになり、デーモンというだけの存在は、何の意味も持っていないただの悪魔だということになる。
私たちと一緒にいるデモンナイトたちは、騎士という意味を付けられているので、あえていうならただのデーモンではなく、デモン族という種族になり、人の姿も自由に取れるようになる。
だが、このダンジョンにいる悪魔たちは、意味付けがされていないただのデーモンたちなので、特徴という特徴がなく、あえて特徴をいうならば、上位の存在には、異常なまでに萎縮してしまうという特徴があるようだ。
この特徴は、ダンジョンの強制力よりも上位の強制力が働いた結果のようで、私たちは、無事のままのデーモンたちを眺めながら、裏のダンジョンに到達した。
裏のダンジョンは、ミドルデーモンとハイデーモンたちがいたが、表のダンジョン同様に、無傷のデーモンたちを眺めながら、玉座の広間に辿り着いた。
玉座の広間には、すでに朽ち果てたグレイターデーモンの骸と、悪魔核を手にしたアインスたちが待っていた。
「おつかれさま。全員無事かな?」
「無事にダンジョン攻略完了いたしました。まずは、ダンジョンの掌握をお願いします」
そのままダンジョンの掌握を行い、三つのダンジョンが私のダンジョンに加わった。
とはいえ、このうち二つは、整理が出来次第破棄してしまうので、この悪魔のダンジョンしか残らないのは、若干惜しくも思ってしまう。
「ガーディアンが、グレイターデーモンだったんだね」
「どうやら、ガーディアンのグレイターデーモンが、マスターを洗脳したうえで、取り込んでいたようです」
「そんな状態だったんだ。それで、マスターの遺体が見当たらなかったんだね」
「ええ、グレイターデーモンとともに、朽ち果てたのでしょう。今後については、タリア王国をこのまま攻撃でよろしいでしょうか?」
「それなんだけど、このダンジョンにいる悪魔ってかなりの数になるみたいだよね。合成を繰り返したら、グレイターデーモンの悪魔核が集まらないかな。三十個近く集まれば、アインスたち三人だけなら、アークバンパイアクラスになれるのだけど?」
「集まりはしますが、戦闘を繰り返すのも大変ですから、そういうことでしたら、ハイバンパイアたちに集めてグレイターバンパイアにしてから合成を行えば、アークバンパイアクラスになれますね」
「それじゃあ、それをやって行こう!」
ここまで来たハイバンパイアたちには、申しわけないけど、彼らは、こういう時の、素材として、生み出したところもあるのだから、しょうがないことなのだと割り切ろう。
そうして、ツバイス、ドライスを呼び、合成を繰り返しながら、新たなグレイターバンパイアクラスを二十七体作り出した。
それぞれを十体ずつ合成していく。
うまく合成の時に主人格を元々の三体が残るように調整して、アインスたちはアークバンパイアクラスへと進化した。
「どうかな。多少、性格は、変わっているかもしれないけど、主人格や見た目は、今までのままに調整したのだけど……」
「問題ないようです。しっかりとアインスとしての自我が維持できております。確かに多少性格が変わったかもしれませんが問題はありません」
「ツバイスとドライスは、どうかな?」
「はい、私も大丈夫のようです。しっかりとツバイスだと認識できます」
「わたしも、ドライスとして問題ないようです」
「それじゃあ、このままこの地は、アインス、アニエッタとバンパイアたち、エビルパラディンたちに任せる。このダンジョンは迷路とトラップのダンジョンだから、しばらくは、持つと思う。それと、タリア王国は、滅ぼすつもりで問題ない。オリウス教皇国は、神官をできるだけでよいから、生かしたまま連れ帰って。無理なら遺体でもかまわない。マリアの進化に必要なんだ」
「マリア殿は、我々の統括をされているお方ですから、彼女を進化させるのは重要なことですね。マイカ様は、どういたします?」
「うーん、私の進化は、まだ悪魔核が育っていない気がするから、もう少し先かな」
「私としては、マイカ様はすでに、大悪魔の視覚があるように感じておりますので、可能ならぜひお願いします」
「そういうものなのかなぁ。それじゃあ、ツバイスとドライスが落としたダンジョンの処理をやって来るね」
「かしこまりました。こちらのことはお任せください」
「それじゃあ、二つが終わったらこちらも改修するから、またしばらくしたら来るね」
「お待ちしております」
そうして、ツバイスとドライスとともに、悪魔のダンジョン改め吸血鬼のダンジョンを後にした。




