第四十六話 ダークネスナイトたちと大改築
ダークネスナイトたちと大改築
コロシアムの牢獄で、中東吸血作戦のための吸血行為を見守りながら、数がそろい次第、ハイバンパイアを作り出していく。
五十体のハイバンパイアが生まれ、アインスとアニエッタが、ハイバンパイアたちを連れてエビルパラディンたちとの作戦会議へ向かった。
ツバイスたちも、それぞれに必要な情報やモンスターたちを確保するために動き出したので、あとは彼らに任せれば良いだろう。
一緒に来ていたマリアとコロシアムに残る。
「皆、やる気があって、うれしいのだけど、本当に命を大切にしてほしいな……」
「彼らは、彼らなりに、楽しんでいますよ。もっとひどいダンジョンマスターは、いくらでもおりますから」
「マリアの進化に必要なのは、それなりの数の偽神官の遺体とかそんな感じなんだけど、教皇国を攻めたなら、いくらでも手に入りそうだね」
「そうですね。人が思う神なんて、魔界やらがある外側の世界を知ってしまうと、ごっこ遊びに感じてしまいます。それでも、熱心な者には、神は力を、お与えになるようなのです。それほど、本当の神は慈愛に満ちた存在なのですよね」
「そうなんだ。私も、そのうち、魔界に行くのだろうけど、その時はぜひ、本当の神様の力を感じてみたいな」
「感じたいと思うだけで感じられるのが、あちらの世界ですから、いつかご一緒に行ってみましょう」
うん、いつかそのうちね!」
「さて、一休みをしたことだし、ちょっとお仕事をするよ。マリアも見ている?」
「はい、たまには、お側におりましょう」
ホックルの戦いで集まった遺体の中で、損傷の激しい遺体をポイントに変えようとしたのだが、ただ激しい損傷だけなら、通常と変わらないポイントを獲得できたのだが、欠損が激しい遺体は、獲得できるポイントが大幅に減ってしまうことがわかった。
今まで、まとめてポイントにしていたので、あまり気にしていなかったが、そんな傾向は確かにあった気がする。
それが今回は、大量にあるので、激しく欠損した遺体でも呼び出せるモンスターを探してみた。
結果として、二種類のモンスターを選んだ。
私は、基本的に生物系を呼び出すのは、好まないのだが、すでにいる種族や、必要な種族は呼び出している。
一種類は、そういう種族で、もう一種類は、本来なら妖精系になるのだが、その亜種的な存在で悪魔系になっているモンスターがいた。
「それじゃあ、まずは、素材を出していくよ」
激しい欠損のある遺体を全て出し、そこに、街の中で犠牲となった家畜の牛たちを出していく。
「ミノタウロス、十体現れて!」
いつも通りに、素材が必要な分だけ消えて、その後にはミノタウロスが十体現れた。
「君たちの同族がすでにいるから、そちらに案内するよ」
思念波でアーマードミノタウロスたちを呼び、新しく呼び出したミノタウロスたちを、オーガニュートたちのところに連れて行ってくれるようだ。
戦斧と鎧を頼むのだろう。
さて次に取り掛かろう。
街攻めや城攻めで犠牲になった馬たちに、大量の木材や布など、それに金属鎧や武器、鉄鉱石も出して、並べていく。
「ダークネスナイト、この素材でこちらへ来れるだけ来て!」
素材となった欠損のある遺体が全て消え、馬の遺体や木材や金属鎧なども全て消えた。
そして現れたのは、小型のチャリオットを引く馬鎧を装備した黒馬と全身が黒い鎧に身を包んだ騎士たちだった。
チャリオット、黒馬、黒騎士、この三つを合わせてダークネスナイトとなる。
妖精系のディラハンを悪魔側にした存在がこの黒騎士たちだ。
デュラハンだったころの名残は、馬車の代わりにチャリオットがあることと騎士というところくらいか。首はしっかりつながっている。
「それにしても、少し多いかも……」
全部で百二十体程いる。
二十体の女性型のダークネスナイトを選び、さらに合成をして進化をさせてダークネスジェネラルへと進化させた。
「君は、この騎士団の団長ね。名は、セシリアでどうかな?」
「良き名をありがたく存じます。この騎士団を束ねてまいりましょう!」
セシリアは、ローマ帝国次代の聖人の名で、その人物をモチーフにした絵画には、首に傷があるという。
欠損した遺体から呼び出した黒騎士の名として、ふさわしいと感じてこの名を送った。
「それじゃあ、マリア、私はオロチのダンジョンの本格的な改築に行ってくるよ。しばらく留守になるかもしれないけど、何かあったら知らせてね」
「かしこまりました。間もなくバンパイアたちも出発することでしょう。それぞれにご武運を祈っております」
「うん、ありがとう。行ってきます!」
セシリアたちを連れて、オロチのダンジョンに向かう。
「君たちは、このダンジョンの守備が主な任務になるかもしれない。いろいろ大変な仕事になるかもしれないけど、よろしくね」
「かしこまりました。必ず守り通して見せましょう」
メリッサを呼び、ダンジョンの改築の話をする。
「いよいよ、この地が、本格的に重要な拠点となるのですね。多少不安なところもありますが、総力をかけて守り抜いて見せましょう」
「それじゃあ、改築を行うから、玉座の広間に、このダンジョンの幹部たちを集めて」
「かしこまりました。スフィル殿とユーリシュカ殿でよろしいでしょうか。そちらの方も存在感が違いますので、幹部に?」
「うん、ダークネスジェネラルのセシリア。仲良くやってね」
「このダンジョンを任されておりますゴルゴンのメリッサと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。セシリアという名を頂きました」
それじゃあ、行こう!」
それから、セシリア、ユーリシュカ、スフィル、メリッサたちでダンジョンコアのある玉座の広間で、あれやこれやと、話し合いながら、改築が始まった。
そうして、オロチのダンジョンは、こうなって行った。
地下一階から地下八階
淡水湖と飛び石の迷路
淡水湖に無数の飛び石があり、正しいルートを渡らなければ対岸へ行くことができない。
階段のある両端には、神秘的な彫刻が彫られた祭壇があり、興味をそそるような演出をしてある。
配置モンスターはケルピーで、人には、渡れない位置に様々な薬草が植えられた小島があり、その周辺には、水生植物も豊富に植えられている。
地下九階から地下十六階
熱帯の森
マングローブの植えられた熱帯の森らしい川や湿地があり、その他の木々や草花も水にも火にも強い植物が植えられている。
また、熱帯雨林ならではの生物たちが住んでおり、獣道程度の迷路も設置してある。
配置モンスターはラミアとナーガが主力で、アルラウネが補助的に草花を操る。
地下十七階から地下二十四階
幻惑の森
広葉樹の森で、幻覚成分を持つ胞子を放つキノコたちが植えられており、他にも、植物を使ったトラップが無数に設置してある。
木々の密度を高くして薄暗くなっており、獣道よりはしっかりとした道がある。
だが、複雑な迷路になっており、落ち葉などで足元も悪く、迷いだすと、なかなか抜け出せない構造になっている。
配置モンスターはアルラウネで、キノコを含めた全ての木々や草花を操る。
地下二十五階から地下三十二階
静寂の森
針葉樹の森で、密度を上げて薄暗くし、さらに深い霧で覆っている。
気温も低めに設定してあり、それに対応できる小動物を放っている。僅かな音でも、反響するように木々が配置されており、迷いだすと恐怖心をあおるような設計になっている。
幻惑の森と同じような道が迷路状に設置してあるが、恐怖に飲み込まれると錯乱しかけない。
配置モンスターは、スペクターとレースで、侵入者たちの命を静かに刈り取って行く。
地下三十三階から地下四十階
砦の迷路
地下三十三階と地下三十四階がつながれたフロアになっており、三分の二を茨と植物の迷路になっている。残りの三分の一は、石造りの砦となっている。
茨と草花の迷路には鉄柵が配置してあり、複雑な立体迷路となっている。
アルラウネとアルルーナのユーリシュカを配置し、優雅に侵入者を刺殺や絞殺していく。
砦内部と、その地下に続く迷路には、トラップを設置してあり、侵入者を阻む。
さらに、ダークネスナイトとダークネスジェネラルのセシリアを配置し、堅牢な防衛網が敷かれている。
地下四十一階から地下四十八階
炎とマグマの迷路
高温の洞窟に炎とマグマを利用したトラップを無数に設置した迷路で、準備不足な者では、進み続けるのは、困難と言える。
ジンを配置し、トラップの合間に襲ってくるので、まともな人では、通り抜けられないかもしれない。さらにドラゴナイトもこの階層最深部の階段前に配置しており、彼らを突破しなければ先には進めない。
地下四十九階と地下五十階
マグマと飛び岩のバトルフィールド
マグマの池に、無数の石柱が突き出しており、その上を跳び渡りながら、最奥にある祭壇の前に置かれた玉座の前にまで行ける。
だが、カルーラとガーディアンであるフェニクスのスフィルが待ち構えており、ラストバトルとなる。
とはいえ、玉座は偽玉座で、その裏に階段があり、裏ダンジョンへ行ける。
裏ダンジョン
地下五十一階から地下五十八階
鉱脈の迷路
トラップのない鉱脈の迷路ではあるが、表のダンジョンが攻略された時に備えて、迎撃のために迷路状になっている。
作業をする者たちは、手の空いている者たちが行っている。
地下五十九階から地下六十六階
石切り場の迷路
この世界では、化石燃料が取れない可能性が高いので、石材を工夫して様々な用途に活用できないか、模索するために石切り場を設置した。
鉱脈の迷路と同じで、表のダンジョンが攻略された時に備えて、迎撃のため迷路状になっている。
作業をする者は、手の空いている者が行う。
地下六十七階から地下七十四階
森と花広場
オロチのダンジョンの前マスターの遺産とも言える植物たちを安全に保護するために用意した。
ここでは、農園も作られ、自給自足のために必要な環境が用意されている。
また、アルラウネたちが使う草花の調達や、工房もここに設置される。
地下七十五階から地下八十二階
牧場
馬や牛、ヤギやヒツジ、ニワトリなど、家畜となる動物たちを放っている。
管理は、アーマードスレイプニールとアーマードミノタウロスが行う。
地下八十三階から地下九十階
研究区
ここでは、まだ何も研究されていないが、グレムリンのような、特殊な能力を持つモンスターが見つかり次第、研究を行うために用意してある。
現時点では、捕虜として連れてきた人を捕まえておくための牢獄が用意されている。彼らは、研究素材ともなるので、この区画の存在意義とも合致している。
地下九十一階から地下九十八階
居住区
ミナンのダンジョンと同じようなメルヘンな家々からアパートメント、この世界にある屋敷など、様々な住居が区画を分けて建てられている。
基本的に人型のモンスターのための居住区となっている。
また、貴人用の牢獄も用意されている。
地下九十九階と地下百階
オロチの宮殿
ゴルゴンであるメリッサが常駐している神殿で、玉座の広間とダンジョンコアがある。
パルテノン神殿の様な作りの神殿の表の広間は、メリッサのための広間で、奥にある玉座の広間には、椅子や机が並べられ、会議室のようになっている。
湖に浮かぶ小島のようなイメージのフロアとなっており、神殿は二階建てで、一階部分は、メリッサの私室と、マイカが来た時に休むための部屋が用意されている。
約一か月をかけて、オロチのダンジョンの大改築を行った。
足りない物資は、ミナンのダンジョンや、周辺の森から集めた。
家畜は、ダンジョン攻略に行かなかったガーゴイルナイト、ゴーレムナイト、ビッグハンドに新たに呼び出したカッパークラスのガーゴイル八十体で、北方辺境領の村々で、家畜泥棒をしてもらい、集めてもらった。
そうして、ダンジョン内が完成し、外観の話となる。
以前にマリアとメリッサに、オロチのダンジョンを名乗るなら、オロチのダンジョンらしい外観を考えておくようにと宿題を出しておいた。
その結果は、残念ながら、ただ石床の坂を作るだけというものだった。
石床の坂は良いと思うのでそのまま採用として、外側から石垣、石壁、石床の坂、低木の林、という並びで作って行くことにした。
石垣と石壁を明らかに違う色の石で作って行けば、とぐろを巻いた大蛇に見えるだろう。そして、ホックルのダンジョンから集めた情報で作り出した石切り場の迷路で取れる様々な色の意思を使えば、良質な漆喰が作れるので、強固な石垣と石壁が作り上げられる。
低木は、万が一、石垣が崩れた時に備えて、距離を作るために用意し、根をしっかり張ってくれたなら、山全体の強度も高くなるはずなので、低木を植える価値はあるだろう。
この作業は、新しくロッククラスのゴーレムとビッグハンドを呼び出し、やってもらう。
木々や草花の移動は、トレントとアルラウネの力を借りなければならないが問題なく、完成できるだろう。
鉱脈には、ミナンのダンジョンに百体、オロチのダンジョンに百体のスケルトンを呼び出し、てオロチのダンジョンの石切り場の迷路にも百体のスケルトンを呼び出した。
この作業が終わる頃には、バンパイアたちのダンジョンアタックも一通り終わるだろう。
さて、私も次の戦いのための仕込みをしなくちゃ。
ランクス王国とベルギド王国のそれぞれの王都へアサドたちを向かわせる。
ランクス王国の方には、宰相宛ての手紙を持たせた。あの宰相なら、悩みはするだろうが、最後は、必ず私の提案に乗ってくるだろう。
なんだかんだで、ミナンのダンジョンがある、ランクス王国を、私は、好ましく思っているのかもしれない。
その一方で、ベルギド王国については、アサドたちに全面的に任せるしかない。彼らの見解を聞いて、方針を考えて行こう。