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第四十四話 北の城攻めと作戦の終わり

 北の城攻めと作戦の終わり


 玉座の広間に、スフィル、ユーリシュカ、バンパイアたちに、アサド数人を集めて作戦会議を行う。

「北の城を攻撃することに決めました。ということで、どういう作戦で攻めようか、意見を聞きたい」

「現在の北の城は、どのような状況なのでしょう?」

「スフィルの言う通り、まずはそこから話さなきゃだね。アサドたち、説明をお願い」

 北の城には、現在多くても五百人程が滞在している様子で、本来の北の城の機能は、北の国、ベルギド王国との国境を警備する拠点なのだが、現在はホックルへの援軍のせいで、常備軍がほぼいない状態にある。代わりに、国境に近い警備隊がいくつか入場しているという。

 城は円状の石壁で囲まれており、北と南に門がある。石壁の中には、四つの尖塔と、三階建ての石作の砦が中央にあり、それを全て合わせて城と呼称するべき存在となっている

 ホックルの領主館砦も三階建てだったが、比べるには、おこがましいほどの堅牢さを誇っているようだ。

 その他の施設に、演習場や、兵舎などがあるが、今回は、完全に無視で良いだろう。

「……、こんな感じらしいよ」

「そうなりますと、やはり私の自爆攻撃が必要になりますね」

「うん、スフィルは、当然に活躍してもらうつもり。他はどうかな?」

「ホックルのダンジョンの防衛は、どういたしますので?」

「防衛は、ガーディアンをユーにお願いしようと思う。このダンジョンは、すぐに放棄してしまうから、疑似生命を使うと不都合が出てしまうかもしれないから、名称だけの任命になってしまうけど、許してね。後はアルラウネ、アーマードミノタウロス、オーガニュート、これだけ残そうと思うのだけど、ユー、どうかな?」

「スペクターも残して頂けると、さらによろしいのですが、いかがでしょう?」

「それじゃぁ、スペクターも残しておこう。追加で、アーマードスレイプニールも残しておいた方が良いかな?」

「彼らは、今回、ほぼ活躍する場面がなかったようですし、北の城へ向かわせてくださいませ。これだけいれば、アルラウネたちのトラップをうまく使ってどうにかしてみせましょう」

「数人ならユーたちで、対処できると思うけど、百人以上が来たら、すぐに連絡をしてね。急げば半日もかからない距離にいるのだから」

「かしこまりました。必要となれば、すぐにお呼びいたしますわ」

「それじゃあ、夜襲か、通常の城攻めにするかなのだけど、どう思う?」

「先日の夜襲は、あまり夜襲らしくありませんでしたから、本格的な夜襲を一度、皆でやっておきたいところです。いかがでしょう?」

「そうだね。アインスたちが、前回同様に指揮官をしてくれるかな。今回は、包囲するゴーレムたちまでしっかりお願い」

「かしこまりました。では、スフィル殿の攻撃のタイミングも私たちにお任せしてもらっても?」

「スフィル、どうかな?」

「ええ、問題はありません。私は自爆しかまともな攻撃手段がありませんので、ここぞというところで、よろしくお願いたします」

「しっかりやらせて頂きます」

「アインス、私はどうしたら良い?」

「マイカ様は、前回同様、アシッドフィールドを使って頂いた後は、包囲する部隊に加わって頂けると助かりますが、前線に出てみますか?」

「うーん、アインスたちが、指揮官だから、今回も包囲の方に加わるよ。でも、攻城戦を前提に作られている城らしいから、誰かの眼を借りて、内部構造を把握しておきたい」

「かしこまりました。では、私とアニエッタの眼をお使いください」

「ありがとう。そうさせてもらうね。ここからは、アインスたちに任せるから、後はお願い」

「では、夕暮時にでも出発いたしましょう」

 アインスとアニエッタが、夜襲組、ツバイスとベルエッタが、北門組、ドライスとシェリエッタが南門組、ユーリシュカが、ダンジョン防衛組となって、それぞれに分かれて行動を始めた。


 夕暮れ前となり、ダンジョン前に、北の城へ向かう者たちが集合した。

「今回は、本格的な城攻めになる。『命大事に安全第一』で、しっかりやって行こう!」

「おおおお!」

 ダンジョンに残るユーリシュカたちも見送りに来てくれている。

「こちらのことは、お任せくださいまし。無事なご帰還お待ちしておりますわ」

「ユーも、気を付けてね。無理は、だめだからね」

「ええ、肝に銘じておきますわ」

「それじゃあ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 ダンジョンを出発した私たちは、ビッグハンドの速度に合わせて、移動をして行く。

 距離もだいたいわかっているので、到着時間を午前一時程度に設定しながら行動している。

 先行して、アサドとガーゴイルたちが向かっているので、異常があれば、すぐに連絡をしてくれるだろう。

 特に誰も無理をするほどの速度は出していないので、到着次第、問題なく攻撃開始となるだろう。


 そうして、予定通りに、私の懐中時計が午前一時を示す頃に、北の城に到着した。

 実際に見てみると、有事の時には、兵士が一万人程が籠城可能な城なので、ホックルの街程の敷地はないが、それなりの広さがあるようだ。


 アインスの指示通りに、砦の最上階となる三階の屋上にアシッドフィールドをかけて、穴を開ける。

 そこから夜襲組が次々と入って行き、ブラインドカーテンに包まれてほとんど見えていなかったカルーラたちとジンたちも突入していった。

 それを確認した同じくブラインドカーテンに包まれていたスフィルが、尖塔の攻撃を始める。

 何度かの自爆攻撃の後、尖塔は、砦に向かって内側に倒れていく。

 それを確認したガーゴイルナイトたちとアーマードスレイプニールたちが、石壁を飛び越え、城の敷地内に入って行く。

 混乱状態になって外へ飛び出してくる者たちを狩りに行くのだろう。

 私は、ツバイスとベルエッタのいる北門へ降り立ち、様子を伺うことにした。


 南北の門を起点にして、ゴーレムナイトとビッグハンドたちが巡回をしている。

 今回は、デスナイトたちがデモンナイトになり、夜襲に参加しているので、外側から、門を壊すのではなく、石壁を越えて逃亡する兵士たちの処理を主な任務としている。

 門に異常があればすぐに皆が集まり、対処をする予定だが、それまでの足止めをバンパイアたちがするという。

「ツバイス、どんな感じだと思う?」

「今のところは、問題はありませんね。尖塔が間もなく全て倒されるでしょうから、そこから逃亡する兵士たちが出始めるのではないでしょうか」

「あの尖塔は、シンボル的な意味もあるのだろうから、心をくじくには良い攻撃なんだね」

「ええ、私もそう思います」

「ベルエッタは、そろそろ慣れてきた?」

「慣れるというよりも、日々を楽しんでおります。私は、ダンジョンのモンスターとして呼ばれたはずなのに、夜空の下で城攻めをする展開が待っているなんて思っておりませんでした。このままマイカ様とご一緒したいです」

「確かに、私たちの行動に慣れてしまうと、ダンジョンのモンスターとしては、どうかって感じもするよね。でも、楽しんでくれているなら、ありがたいよ。私は、強くはないから、皆に守ってもらわないと困ってしまうんだ」

「マイカ様は、弱くはありませんよ。単純な力では、バンパイアの方が強いですが、マイカ様が本気になれば、単独でホックルの街程度、破壊可能だったでしょう」

「そうなのかな。私は、人だった頃の記憶に、まだ体が縛られているようだから、悪魔の力を全て引き出すには、もっと時間が必要みたい」

「無理をする必要はないのです。いつの間にか、マイカ様らしい悪魔になっておりますから」

「うーん、そういうものなのかなぁ。まだまだ私は悪魔初心者ってことだと思っておいてね」

「時とともに、マイカ様らしい悪魔になりますから。マイカ様の本気の強さをいつか見られる日を期待しておりますね」


 ベルエッタには、少し後ろめたいのだが、会話をしながら、場内にいるアニエッタの眼を借りて内部構造を眺めている。迷路というほど複雑ではないが、攻めにくく守りやすいという構造のようで、T字の分かれ道が多くあり、一つの通路も狭く長めに作られている。この構造だと、守る側は、待ち伏せをしやすく、大人数での攻撃ができないので、時間稼ぎもできるのだろう。長い通路も、部屋が幾つもあり、あれも隠れやすい構造の一つなのだろうな。こういう構造の砦風の迷路も良いかもしれない。私のダンジョンの参考にさせてもらおう。

 それにしても、兵士たちは、アニエッタたちに出くわすと、戦わずにとにかく逃げているようだ。何か作戦があるようには、見えないので、ただ逃げ出しているだけなのだろうか……。


 そうしているうちに、四本の全ての尖塔が倒され、砦にも相応のダメージが入ったようだ。

 逃亡する兵士たちが増え始め、思いついたことができたので、指示を出す。

「一つ思いついたことがあるから、逃亡する兵士たちをできるだけ殺さずに捕まえて、南門へ連れてきてもらえるかな。降伏する兵士たちもでてきたら同じように南門までお願い」

「かしこまりました。何か面白いことを考え付いたのですね」

「結果は、すぐに出ないかもしれないけど、試してみたいことができたの」


 そうして、南門に行き、逃亡兵士たちに麻痺の毒針を刺していく。

 城内にも、私の指示が伝わったようで、アサドたちが、麻痺毒を使って兵士たちを捕獲しているらしい。

 アサドのポイズンネイルは、少しの切り傷でも、毒の効果を与えられるので、順調に集まっているそうだ。


 そうして、捕獲した兵士たちが二百人を超えた頃、アインスから戦闘終了の知らせが入った。

 兵士たちが逃げ回っていたのは、作戦じゃなかったようだ。……、いや、逃げ回ることで、少人数にしていったり、こべつの行動を促したり、あれはあれで、作戦の一つなのかもしれない。実際に、逃亡兵士がそれなりの数がでているし、降伏する兵士もかなりの数となっている。

 これがわたし達じゃなかったら、砦内の半分近くが生き残ったことになる。敗北の中でも生き残る手段としては、最善の手をつかったかもしれない。

 考えれば考えるだけ、意味があるようで意味がないような、不思議な戦いだったと思えてしまう。

 こういう作戦は、ソウルソードたちが使うと有効な作戦かもしれないので、覚えておこう。彼らに実践してもらい、これが作戦なのかどうかを検証するのも面白そうだ。


 ガーゴイルナイトたちに、捕虜となった兵士たちをミナンのダンジョンにあるコロシアムの牢獄に入れてくるように頼み、残りの皆で北の城の解体を始めた。


 明け方に、ガーゴイルナイトたちが戻り、解体の速度を上げてゴーレムナイトとビッグハンドに廃材となった城の石材や兵士たちの遺体を、ホックルのダンジョンに徐々に運んでいってもらう。

 今回の戦いで旅立った兵士たちの遺体は、石壁や天井、尖塔などによって圧死した遺体も多く、酷い有様だったが、ここに放置するわけにもいかないので、なんとか全ての遺体を運びだすことにした。

 そうして、三日後にやっと全ての解体と運搬が終わり、皆でアシッド系の魔法を打ちこんで城があった形跡を消しておいた。

 この土地は、機会があれば、植物を植える程度にしておこう。

 ホックルの街は、非戦闘員を犠牲にしてしまったので、できる限りのことをしておきたかったが、こちらは戦闘員である兵士の居城なので、深く考える必要はない。


 そうしてホックルのダンジョンに皆で戻り、アルラウネたちが植物を植えたばかりのホックルの市域を眺めながらダンジョンに入って行った。


「長い攻略戦だったけど、これにてホックル攻略作戦は、完了だよ。お疲れさまでした。皆、それぞれのダンジョンに戻って行ってね。移動があるのはジンの半分、スペクター全員、アルラウネ全員、アルルーナのユーリシュカは、オロチのダンジョンへ行ってね。エビルパラディンとデモンナイトはミナンのダンジョンへ行ってね。どういう役目についてもらうかは、また後日にするから、今はともかく裏ダンジョンで休んでいて。それと、最後の後始末のためにバンパイアたちと、アーマードスレイプニールたちは残っておいてね」


 そうして皆が少しずつ本拠地としているダンジョンに戻って行き、私も、ダンジョンの階層を少しずつ解体していく。

 茨の迷路は、あのくされマスターにしては、良いアイディアだったと思う。鉄柵だけの迷路は作ってみる価値はありそうだ。

 メリッサを呼び出し、ダンジョンコアを、いつでも吸収できる準備が整った。

 全ての階層を消し終わり、メリッサにダンジョンコアを吸い取ってもらう。ダンジョンコアにメリッサが手を触れると、徐々に小さくなり、ダンジョンコアは、メリッサに完全に吸収された。

 それと同時に、ダンジョンは、ただの浅い洞窟に変化をしてしまう。

「それじゃあ、私たちも帰ろっか」

「はい、マイカ様もお疲れさまでした」

「今回は、アインスたちが、大活躍だったね。また頼りにさせてもらうよ」


 そうして、私たちは、アーマードスレイプニールに乗り、オロチのダンジョンへの帰路についた。



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