第四十話 堕天騎士とサキュバスのその後
堕天騎士とサキュバスのその後
ホックルのダンジョンを掌握し、保存庫を覗くと、多くはないが冒険者たちの遺体が保存されていた。
このダンジョンの様子から見て、大量のスケルトンを作るための素材として少しずつ集めていたのだろう。
その他には、様々な石材と木材があるが、私には、わからないのでオーガニュートたちに後で見てもらうしかない。それ以外には、並みの武具防具に、金銭などしかなかったので、興味を持てなかった。
さて、ダンジョンの整理を進めていくか……。
毎回ながら、面倒な作業でもあるのだが、この作業は、重要な作業でもあるので、慎重に行わなければならない。
まずは、牧場の整理をする。
六階層もある牧場の馬たちは、それなりの数になるので、六体のスレイプニールに変えて、残った馬たちも五十体のケルピーに変える。
まだ残っている馬たちと家畜たちは、ミナンのダンジョンの牧場へ向かわせ、ケルピーは、オロチのダンジョンの淡水湖へ向かわせた。
淡水湖に薬効のある水生植物を植えておくように、あちらのアルラウネに思念波を送っておこう。
スレイプニールたちは、馬鎧を装備してもらうため、オーガニュートたちとともに、工房へ向かってもらった。
世話をしていたボーンアーミーたちは、砦に向かわせ、牧場として使われていた八階層分を処分した。
続いて、アルルーナとアルラウネに、鉄柵と茨の迷路の内、二階層分を全て他の三階層に移してもらう。
その後、移した先の三階層分に植物を植えなおしてもらい、植物の密度が高い凶悪な迷路に作り直してもらった。
そして、ただの鉄柵の迷路となった二階層分を処分して、地下三十階のダンジョンへと作り直した。
ここで、同行していた者のうち、フェニクスのスフィルとカルーラ、アーマードスレイプニール、アサド、バンパイアたちを残して本来の持ち場に帰らせた。
ジンだけは、オロチのダンジョンとミナンのダンジョンに五十体ずつになるように戻す。オロチのダンジョンは、この先、戦う可能性が高いので、防衛能力を高めておきたい。
次は、マリアを呼んで階層を処分したポイントを使って新たなモンスターを作り出す。
バイトとハイスケルトン以上の骨戦士たちを全て呼び、革鎧を大量に取り出して、ボーンナイトに変えていく。さらに、スカルレイブンたちを呼び出し、相性の良い組を作らせて、遺体を全て取り出す。
「マリアとスフィルたち、それにアーマードスレイプニールたち、今から堕天騎士を作るから、聖属性を彼らに流し込んであげて」
「堕天騎士ですか。珍しいモンスターですね。皆さん、やりましょう!」
聖属性は、神官のみが使えるのだが、例外に幻獣たちも使えるので、十分な聖属性を流し込められるだろう。
スカルレイブンとボーンナイトが合成され、そこにバイトたちと多数の遺体が加わり、聖属性が付与されていき、五十体のエビルパラディンが生まれた。
ボーンナイトの数とエビルパラディンの数が合っていないのだが、素材となって消えてしまったようだ。さらに革鎧がどういうわけか、金属鎧に代わっているが、これは騎士の亡霊であるとも言われるバイトを合わせた結果だろう。
エビルパラディンは、黒い翼があり、飛行可能で、しかも神官としての能力も持っているので、これから良い働きをしてくれると期待できる。
砦にエビルパラディンたちを戻し、ついでに、ダンジョン上層のモンスターたちを全て下層に移す。上層は、元々モンスターが少なかったので騒ぎにはならないだろう。
エビルパラディンの合成に巻き込まれなかった遺体からレースを作り出し、彼らも下層に送り、このダンジョンにある現時点での全ての遺体は、使い切った。
全ての下層にいるモンスターたちに、侵入者が敵対行動に出ない限りは、こちらから襲わないというように伝えておく。こうしておかないと、ただでさえ少ないモンスターがさらに減ってしまう。
ここで、スフィルたちもオロチのダンジョンへ戻らせる。
残るは、サキュバスたちなのだが、私に彼女たちを使いこなせる気がしない……。
ひとまず、考えているモンスターを生み出してみよう。
「アインスたち、グラスをだすから、そこにアインスたちの血液を入れてくれないかな?」
「サキュバスをバンパイアに?」
「うん、君たちの妹って感じで生み出してみるよ」
保存庫からグラスを取り出し、アインスたちに一つずつ渡す。
手首をざっくりと切り裂き、グラスに注がれたバンパイアの血液をサキュバスの前に置き、三体ずつ合成していく。
そうして生まれたバンパイアたちは、金髪、赤髪、黒髪と、アインスたちの特徴を受け継いだ者たちだった。
「君たちは、アニエッタ、ベルエッタ、シェリエッタね。この三人の妹ってことでこれからともに行動するように」
「兄様方とともに良い働きをいたしましょう!」
「かしこまりました。兄様がたと共に参ります」
「良い名をありがとうございます。兄様がたと精進してまいります」
「皆、仲良くね」
「さて……、サキュバスって、アサドたちの血液を与えることで、同じシャドーポイズンアサシンになりそうなんだけど、アサドたち、どう思う?」
「今後のことを考えると、現状の二十体では、満足のいく結果が挙げられなくなるでしょう。同朋が増えるなら、ありがたいです」
「それじゃあ、アサドたちに変えていくね」
シャドーポイズンアサシンは、弱い存在ではないが、バンパイアの様な強大な力を持っているわけではなく、アサシンとしての行動に特化したモンスターたちだ。サキュバスの能力とも一部が重なるので、このまま変化ができるようだ。
アサドたちの血液をグラスに注ぎ、一体ずつ合成をしていき、十体のシャドーポイズンアサシンが生まれた。
「君たちは、今日からアサドという集団にして一つの存在になるから、よろしくね」
「新たなアサドとして、お役に立てて見せましょう」
相変わらず、声がそろうのがこのアサドたちらしい。
残ったサキュバスなのだが、私が取り込むという選択肢があるようだ。
私の幻覚を強化できるようになり、ベルゼモスがより強力な悪魔になれるというわけだ。
淫魔の影響も多少は受けてしまうようなのだが、身体が少しだけ成長する程度しか影響がでないようなので、実行してみようと思う。
悪魔核も問題はなさそうだから、早速、合成を試みる。
六体のサキュバスに合成をかけて私の中に取り込んでいく。
何の抵抗もなく悪魔核が融合し、多少だが体に熱を感じたが、無事に成功したようだ。
能力の変化は、幻覚の実体化、魅了の効果増大、詰めの攻撃がポイズンネイルになっているようだ。
他にも変化はあるが、大きなところはこのあたりで、背が少し伸び、体つきが女性らしさを増しているように感じる。
鎧や制服などのサイズを少し直した方が良さそうなので、後でやっておこう。
年齢で言うと二つほど上がった感じと言えばよいだろうか。氷鏡を出して自分の顔を見てみると、今までの明らかな日本人の顔から、少しだけ、この世界に多い東ヨーロッパ系の顔に近づいた感じがする。
今の私にとっては、顔が少し変わる程度、気になるほどの変化ではないので何も問題はない。
他にやることは……。
「アルルーナ、貴方に名前を与えたいのだけど、何か希望はあるかな?」
「以前のマスターからは、名も与えられず、ひどい目にあっただけでしたので、名を頂けるだけでありがたいですわ。マイカ様がお決めくださいまし」
「それじゃあ、ユーリシュカでどうかな?」
「良い響きですわね。どういう意味が?」
「確か薔薇の名前だったと思う。強くて奇麗な薔薇だったかな」
「気に入りましたわ。このユーリシュカ、マイカ様にお仕えいたしましょう」
「ありがとう。ユー」
「愛称は、ユーなのですわね」
「うん、なんとなくそういうのが良い気がしたんだ」
「愛称も合わせて大切にいたしますわ」
「わかった。よろしくね。ユー」
「ええ、こちらこそよろしくおねがいいたします」
ミナンのダンジョンでの作業を始める前に、こちらで確認しておかなければならないことがある。
それは、今回のダンジョンアタックが、街の者に見つかっていないか、ダンジョン上層では、混乱は起きていないかだ。
モニターをだし、まずは、ダンジョンの街を音声も出して眺めてみるが、平常通りという雰囲気がする。
ダンジョン入り口には、衛兵が立ち、冒険者や街の者が中に入って行っているようだ。
地下一階にモニターを切り替えたが、やはり何も問題はなさそうで、ここまでは大丈夫のようだ。
地下十階にきりかえると、モンスターがいないことに違和感を感じている冒険者たちがいるようだが、別の場所では、気にせずに、採取を行っている様子がわかる。
地下十五階を見てみると、モンスターが遠巻きにしながら冒険者を眺めている様子が確認できた。
私の言いつけ通りに、敵対行動に出ない限りは、こちらから襲わないという行動を実践しているようだ。
冒険者は、多少違和感を感じているようだが、採取作業が進むので、深くは考えていないように感じる。
うん、私たちが攻め入ったことも、ダンジョンマスターが変わったことも気が付かれていなさそうだ。
だが、この状態を長く続けていると、調査をしに来る可能性は、高そうに感じる。
できるだけ早くの第二段階の作戦を行う必要がありそうだ。
ビッグハンドの強化をするのは、大変だなぁ……。
「それじゃあ、ここは、ユーとツバイスたちに任せるよ。私は、ミナンのダンジョンに一度、帰るね」
「こちらのことは、お任せくださいまし。何かありましたらすぐに、お知らせいたしますわ。それでは、行ってらっしゃいませ」
そういえば、そろそろココアが飲めるかなぁ……。




