第三十二話 事件のその後と売れ残りの魔道具
事件のその後と売れ残りの魔道具
屋敷に帰り、我に返ると、とんでもないことをしていたのだと気が付いてしまった。
明らかな、間違いをしていた国王となぜあの場所にいたかよくわからない王太子は、まだよいと私は思うのだが、公爵たちの首をはねるのは、やりすぎたかもしれない。
とはいっても、どうにもできないので、忘れよう。
それが良い。うん。
そもそも、貴族という輩は、替えが何人も用意されているのだろうから、国王たちも含めて、なんとでもなるだろう。
それから数日間は、警戒態勢を取りつつ過ごしたが、特に何も起こることはなく、アサドたちが、間諜やらの気配も探ってくれていたが、それもなかった。
そろそろ警戒態勢を解こうかと考えていた頃に、クラレ君たちがあちらに戻るそうで、挨拶にやってきた。
この時に、クラレ邸での出来事の後日談を聞くことになった。
皆、病死か事故死とされるそうで、時間差で発表されるという。
時間の稼ぎ方は、水属性の魔法で、氷に閉じ込めて保存するそうだ。
同じようなことを、ジンたちもやっていたので、上級魔法の使える魔導師がいたなら、可能なのだろう。
王城側の動向としては、国王は、凡庸な人物だったそうだが、希に奇策を思いつく悪癖があったそうで、代替わり自体は歓迎らしい。さらに、王太子も、外向きの印象は良かったそうだが、内向きの態度は、癇癪持ちで、思い付きで行動をするところがあり、あの場所に紛れ込んでいたのも、無理やりに入り込んでいたそうだ。
そんな人物たちだったので、第二王子を推す声が強かったという。
この国の継承権は、基本は長子優先だが、長子が国王にふさわしくないとされたときに限って、継承権が動くそうだ。
今回は、ぎりぎりで王太子となっていたらしいので、王城側は、悪いムードではないことがよくわかった。
貴族側については公爵たちのことがあって、気掛かりだったが、公爵家は、どちらかといえば、王城側の立場らしく、若い公爵たちが立つことには、不安があるそうだが、そこには、不満はないそうだ。
問題があるとしたなら、宰相らしく、国王不在のうちに、私の言ったことを行うために、多少無理をしているらしい。
さらに、クラレ君が伯爵になり、エスナルから東の国の国境までを領地とし、残りを子爵のまま二人が領有することになったらしい。
結果として、あの場にいた貴族たちは、全会一致で宰相の判断に賛成し、あの場にいなかった、北方辺境伯を中心にした派閥が、強く反対をしたそうだ。
とはいえ、南方貴族は、私たちの恐怖を多少なりとも知っているので、南方貴族と宰相派閥が合わさった、大派閥が出来上がり、国の意見は、まとまったらしい。
貴族の子供たちが、親の敵と私に挑んでこないのは、多少もったいないとも思うが、国がまとまるのはよいことだ。
さらに話を聞くと、宰相の派閥の者は、王城の派閥とほぼ同じで、王都を中心にした東西に広がる中央を治める中央貴族が中心となっているそうだ。
これは、良いことをきいた。
早速、話をバンパイアのツバイスとドライスに伝えなければ。
一通りの後日談を聞かせてくれたクラレ君たちに、あの時渡せなかった無駄に派手なただの剣と虫よけの香水を渡して、旅立つ彼らを見送った。
エビルドールたちに、ミナンのダンジョンへ少し行ってくることを告げ、地上二階の謁見の広間に一度転移をして、そこから宮殿にはいる。
「マリアに、皆も、ただいま」
「おかえりなさいませ」
「ツバイスとドライスはどうしているかな?」
「ツバイスとドライスは、トラップの迷路で訓練をしておりますね」
「訓練中に呼び出すのも悪いかな……」
「何かあったのでしょうか?」
「それじゃぁ、マリアにも報告したいことがあるから、後でツバイスとドライスにも必要なことを伝えておいてくれるかな?」
「報告ですね。かしこまりました」
「まずは、ちょっと国王とか王太子を殺っちゃったけど大丈夫みたい」
「マイカ様が動かれたなら、そんなこともあり得ましょう。大きな問題は起きていないのですね」
「うん、それで、国の宰相と少し話したんだけど、元気で若い家畜を毎年内訳はあちら任せで、百頭用意させることにした。その代わりに家畜泥棒は、終わりにする」
「それは、このミナンのダンジョンに限ってでしょうか?」
「そのつもり。実際は、具体的に場所を指定していないから、私がこの先にダンジョンを複数持つとは思っていないんじゃないかな」
「かしこまりました。人の家畜化は、手間だけがかかって、よいことがほとんどないので、家畜を繁殖しながらダンジョンを攻略するのが一番良いでしょう」
「それでね。南方は、このダンジョンでとらえていた貴族たちが、領有するみたいで、実質、わたしたちの領地みたいな感じにになったから、これからは、このダンジョンは静かになると思う。それと、中央は、宰相の派閥が多いらしく、後回しにしたい。ということで、北方のダンジョンを狙うことにする!」
「モニターをだし、ランクス王国の地図をだし、調査済みのダンジョンを表示する。
さすがに、荷ねんほど、こちらにいるので、それなりの情報が集まってきており、ランクス王国外の情報も蓄積されているのだが、今回はランクス国内だ。
二つのダンジョンを大きく光らせ、わかりやすくする。
「この二つとなりますと、こちらの北部中央は、北方辺境伯の領都となっているホックルの街に隣接したダンジョンでしたよね。こちらの北東のダンジョンは、管理者のいない、いわば野生のダンジョンでしたね」
「ホックルの方は、正直なところ、エスナル北のダンジョンと同じくらいの難易度だと思う。ガーディアンとダンジョンマスターがどう出るかわからないけど、すぐにも取り掛かって良いかな。野生のダンジョンの方が、今回は本命って感じで、この土地は、東にある山脈のすそ野で、北の国と北東の国にすぐに行ける立地にあるんだよ。ホックルは潰して野生のダンジョンを残す方向で考えて行こうと思う」
「では、今の話をツバイスとドライスに伝えて、編成をさせましょう。編成には、指示を?」
「いや、二人とも、やる気がすごいことになっていそうだから、今回は最後まで任せる」
「はい、それがよろしいかと。二人には、わたしから手配しておきますので、後の事は、攻略後によろしくお願いいたします」
「うん、任せた。それじゃあ、王都に行くね」
「またのお帰りをお待ちしております」
そうして、王都の屋敷に戻、屋敷の皆にも同じ話をした。
ガーゴイルナイトが行きたがっていそうなので、ミナンのダンジョンへ、戻らせた。
こちらの防衛は、エビルアーマーだけで足りそうだ。
それから、アーマードスレイプニールに乗り、予定のダンジョンの位置を見に行ったり、本屋で面白そうな本を探したり、アミツ商会で、魔道具を見て過ごした。
アミツ商会でみた魔道具は、ほぼ日用品だったのだが、売れ残りのように置いてある魔道具が気になり、すこしみせてもらった。
説明を聞いているうちに、それがなぜこの世界で売れないのか不思議に思うほどすばらしいものだった
その魔道具の正体は、蒸気機関だったのだ!
この世界の魔道具は、高級品だが、便利なものでもあり、コンロの魔道具などは、庶民でも持っている。
そんな魔道具の作り方は、宝石に、魔法言語を刻み、それに合った属性の魔力を注いでいく。そして、その魔道具となった宝石を投げつければ、魔法が発動するというのが、一番簡単な魔道具だ。
複雑にするには、宝石に刻む魔法言語を細かくするか、ミスリル板に魔法言語を書き込み、その中心に属性魔力を注ぎ込んだ宝石をはめ込む。ミスリルという金属は、魔力抵抗が高いが、魔力を打ち消すのではなく、魔力を受け流す金属で、魔道具のそざいとしての需要も高い。
そして、魔法言語というものは、簡単に言えばイメージを文字にしたもので、決まった形はあるが、絶対にそれにしないといけないという決まりはない。
イメージを文字にする……、これは象形文字で、漢字や梵字などもこれに当たる。
よって、日本人である私との相性は、かなり良い!
早速、屋敷に持ち帰り、慎重に分解をしていって魔法文字もある程度読み解いてわかったのだが、この蒸気機関は、本当にただの蒸気機関だった。
どういうことかというと、何を指せるために作ったかという意図が、全く感じられないのだ。
あえて言うなら、作れるから作ってみた、動きそうだから作ってみた、という程度の意図しかわからなかった。
地球の蒸気機関も、発明から本格的な活躍の時代まで時間がかかったと聞いたことがあったが、これと同じようなものだったのかもしれないな。
魔力さえあれば、半永久的に動き続ける蒸気機関なので、そのあたりは、地球の蒸気機関よりは、扱いやすいか。
この蒸気機関で、できそうなことや、わかったことをレポートにまとめてオーガニュートたちに渡して、後は彼らに任せよう。
この世界ならではの発想もあるかもしれない。
そうして、充実した日々を送っていたある日に、ドライスからの思念波が届いた。