第三十一話 ミナン商会と国王
ミナン商会と国王
商工ギルドで一つやっておかなければならないことがある。
それは、商会の設立だ。
ガバスから、商会を設立しておいたほうが、いろいろと管理の都合が良いと言われ、商会を設立することにきめた。
確かに、私一人で管理をするのは大変だろうし、個人資産と商会資産を別々にしておいた方が、取引をする上でわかりやすいと思った。
ついでに、ガバスの商会との契約が成立したことをヨハンに報告をしておこう。
紹介をしてくれたのだから、報告はしておくべきだろう。
「ガバスさんの商会というと、アミツ商会ですね。物々交換ですか。良い商会と面白い契約ができたと思います。おめでとうございます」
アミツ商会というのか……。どこかに書かれていただろうし、そう名乗られているはずなのに、すっかり記憶から抜け落ちていた。
「ええ、ガバスさんとは、良い契約が出来ました。ヨハンさんには、紹介していただけて感謝しております」
「それで、契約書は、こちらでお預かりした方がよろしいですか?」
この際だから、貸金庫とやらも使ってみるか。ついでに、契約書の内容も不備がないか確認してもらおう。
「はい、貸金庫をお願いします。それと、契約内容におかしなところがないかの確認もしていただけると助かるのですが、どうでしょう?」
「はい、それくらいなら問題はありません。では、契約書をこちらへ」
アインスがヨハンに契約書を渡し、目を通してもらう。
「……、内容には不備はありませんが『ミナン商会』と名乗られるのですか?」
「ええ、南にミナンのダンジョンという恐ろしいダンジョンがあるとお聞きしまして、ダンジョンとは、悪意を持って近づけばひどい目に合う存在なのでしょう。そういう存在にあやかって名を付けてみました」
正直なところ、マイカ商会とハセベ商会が候補に合ったのだが、マイカ商会は、私の存在が、表に出た時に困る可能性が高く、ハセベは、こちらの世界に持ち込みたくない名前だと思ってしまった。長谷部舞香は、あの事故で、死んだことにしたほうが良いと思う。今の私は、あえて言うなら、マイカ・ミナンとしたほうがこの先にある苦難を考えると良いだろう。
「なるほど、ミナンのダンジョンの話は、私も聞いておりますね。一万以上の未帰還者をだしたとか。確かに強力な存在の名にあやかるということは良くありますので、良いかもしれませんね。ドクヘビ商会や、サソリ商会なんてものもありますから」
ドクヘビとかサソリを使っているのは、闇ギルドとかいう暗殺集団に違いない!
やたらと可愛い小物が売っていて、じつは毒が仕込めたり、暗器が隠せたりとか……。
妄想が膨らみすぎて、楽しすぎるぞ!
私が、妄想世界に行っている間に、アインスがヨハンと全てを終わらせていたようで、商会設立の書類までアインスが書いていた。
私のタグカードが必要というところで、妄想世界から帰還させられ、我に返り、あっというまに『ミナン商会』は設立してしまった。
とはいっても、名ばかり商会なのは、ヨハンも承知なので、問題はないようだ。
その後、ドクヘビ商会について、聞いてみると、観賞用植物を専門に売買する商会で言うならばお花屋さんだった。
創業した先代が、毒蛇に森で遭遇して、逃げた先に広がっていた花畑に魅入られたのがドクヘビ商会の名前の由来らしい。
絶対に何かが……。何もないよね。
こうして、屋敷に戻り、商業ギルドでの、やっておきたかったことも終わらせた。
アサドたちに三人の貴族について聞いてみるとすでに住所は調べがついていたそうで、明日にでも先触れに行ってくれるそうだ。
三人とも子爵だったのだが、一人がリーダー役としてふるまっていたのでその人物にまずはあうことにした。
名は、クラレ子爵といったか。
先触れに出したアサドがいうには、三日後に来てほしいとのことで、空いた時間を、商工ギルドの図書室と冒険者ギルドにもあった図書室で過ごした。
この世界には、植物紙がすでに普及していて、本自体はそれなりにあるのだが、印刷技術がない。
よって、買おうとすると、それなりのお値段にはなってしまうそうだ。
とはいえ、お金には困っていないので、図書室で気になった本を一通り眺め、必要と思った者をリストアップして後日に本屋で購入することにした。
基本的に、必要なものは、地図、地誌学書、図鑑となる。歴史書や、宗教関係の書物は、どちらかの図書室にある物で十分だろう。あとは、行くかどうか迷うところだが、教会があるそうで、そこにも図書室があるという。
悪魔の私が、教会に行くのは怖すぎる……。
そうして、クラレ子爵の屋敷に訪問する日となった。
馬車などを使っても良かったのだが、クラレ子爵の屋敷は、私たちの屋敷からとても近いところにあり、歩いてすぐについてしまう距離にあった。
行くメンバーは、私、アインス、メリッサ、アサド二人となっている。
メリッサが、いつも来てくれているのは、侍女の仕事をしてもらっているからだ。
彼女は、指揮官として優秀であるので、ガーディアンとして、適切なダンジョンを早く見つけて上げたいが、そうは簡単にいかなそうで、苦労をかけっぱなしで申し訳なく思う。
せめて、私がもっとしっかりしないといけない!
数ブロックを歩き、クラレ子爵邸に到着した。
全身鎧に身をっ積んだ門衛にアサドが話しかけると、緊張をしたようで、雰囲気が変わり、屋敷の中に入って行く。
屋敷の中の気配は、多く武力を持つものがかなりいるようだ。
なんと、私は、いつのまにか、相手の魔力量や気配を感じられるようになっているのだ!
エビルアーマーたちに思念波ですぐに来てもらうように頼むと、馬よりもはやい速度で彼らは現れた。
アサドには、エビルアーマーの中に入ってもらい、この二体には、基本的に私たちと同じ行動をしてもらう。後の三体には、周辺を警戒してもらう。
門が開かれ、緊張をしたメイドが向かい入れてくれたが、クラレ子爵は、現れない。
「クラレ君は、どこにいるのかな?」
「こちらでございます」
緊張したメイドが一室に私たちを案内する。
完全武装のエビルアーマーについては、振れないようだ。
案内された扉が開かれると、中には、完全武装のミスリルの甲冑を着込んだ騎士らしき者たちが並び、おそらく上座に当たる場所に、私の記憶にあるクラレ子爵とは違う人物が座っていた。
クラレ子爵の姿は、上座の男の周囲に立ち並ぶ貴族らしき者たちの中にあり、つよばった顔をしている。
非常にいらだたしい。私は、ただ遊びに来ただけなのに……。
彼に無事な帰還を約束すると伝えた時の彼の間の抜けた顔を思い出し、この状況を作ったのは、彼ではないと直感でわかる。
それでも聞かなければならない。
「クラレ君、これはどういうことかな。私は、君に会いに来たのだけど?」
「それは、余から……」
上座に座る中年の豪華な装飾をした男性が何かを言おうとするが、こいつには聞いていない。そして、私の中のいらつきが頂点を迎えたようだ。
「うるさいよね。とりあえず黙ろうか」
麻痺毒の毒針を鎧起きていないクラレ子爵と私の知っている二人の貴族以外に打ち込んでいく。
鎧を着ている者たちの足元には、アシッドボールの上級魔法にあたるアシッドレインを改良したアシッドフィールドで穴をあけ適当に落ちてもらう。ここは屋敷の一階なので落ちても死なないだろう。すぐに出られても困るので、上から土を落として簡単には出られないようにしておくのも忘れない。
「さて、一応は、死なないようには工夫はしてある。運が悪く死んでる人はいるかもしれないけどそれは自業自得ってことで。何がどうなっているのか、説明を聞こうか」
「マ、マイカ様、も、申し訳ありません!」
話の内容は、だいたいこういうことだった。
クラレ子爵を含む三人の貴族を解放する時に私は、金塊と共に手紙を彼らに渡してあった。
手紙の内容は、辺境伯たちと領民の奮闘を記したものだ。
実際はどうあれ、彼らは、奮闘したと私は思うので、嘘を書いたつもりはない。
この手紙には、マルス辺境伯家の取り潰しを少しでも回避できないかという思いが込めてあり、意味の分かる人物に渡すようにクラレ子爵たちに言ってあった。
初代マルス伯との因縁は、私なりに気にしているのだ。
結果として、手紙は、この国の宰相に渡り、国王の元へ届いたそうで、私の思いは通じマルス家は、男爵家でとどまることができた。
ここまでは、よいのだが、この先が悪い。
私の願いを叶えたのだから、今度はこちらの言うことをきくべきだと、国王派言い出したそうで、辺境伯の爵位をやるから、配下に鳴れというつもりだったそうだ。
そうして、ダンジョンの一部を解放させ、資源調達ができるダンジョンを手に入れるつもりだったという。
国王からしたら、一つダンジョンを潰されているのだから、こちらが一つ出すのは当然とでも思ったのかもしれない。
「だいたいわかったよ。国王君、君はまず勘違いをしている。君たちは敗者なんだよ。一万の軍勢が敗れたのは局地戦かもしれないけれども、君たちは、負けた。敗者が、勝者の言うことをきくのは、当然だよね。とはいえ、マルス家の問題は、君たちの問題だ。だから、私からは直接は言うつもりはないから、あの方法をつかったんだよ。決めるのは君たちでわたしじゃない。そこまでは良いかな」
彼らは麻痺毒を受けているだけで、体は動けないが聞くことも見ることもできる。
「だから、非常に残念だ。クラレ君もよくやった。宰相君もよくやった。国王君も良い決断をした。だけど、この場には、いてはいけないんだよ。私は、旧友の家に遊びに来ただけで、その後の結果がどうあろうと文句を言うつもりはなかった。ちゃんとクラレ君に渡すお土産までもってきているんだよ。それなのにだ、武装した騎士たちを強引に入れてわたしと強引な交渉ををしようとするのは、良くない。クラレ君、宰相君を覗いた上から偉い人を五人教えて」
クラレ子爵たちだけでは、何か不安なので宰相の麻痺を解き、宰相を含めた四人で偉い人を選ばせる。
国王、公爵三人、残りは、二人いる侯爵のどちらかという話をしていたが、王太子がという話が聞こえてきたので良く聞いてみると、騎士の中に王太子がいたということがわかってしまった。
しょうがないので、皆で王太子を掘り起こしてもらい、国王、王太子、公爵三人の首をエビルアーマーたちが丁度五体なので、切り落としてもらった。
次の王の問題があるので、宰相に王太子の次はいるかを一応確認したが、第二王子が、いるそうだ。
しかも、第一王子である王太子よりも優秀という評判らしい。
宰相は、内心こちらの方が良かったようで、首を切り落とすことに強く反対はしなかった。
どうやら、第二王子の婚約者が、宰相の孫にあたるらしいと、アサドが読心術で読み取った情報を教えてくれた。
切り落とした首は、適当な布で包み宰相に渡しておく。
「さて、国王の私に対する罪はこれで償われた。次はまともな判断もできない国王に代わって私が判断してあげる。クラレ君たちと宰相君は、この計画に反対していたんだよね?」
「は、はい」
陛下を何度もお泊めしたのですが……」
「なら、その第二王子君が次の王でよいよね。それで辺境領は、クラレ君たちが三人で分割して統治すること。私たちがしている家畜泥棒はもうやめる。そのかわりに毎年元気な若い牛、馬、ヤギ、ヒツジを内訳はそちらに任せるから総計で百頭ミナンのダンジョンにおさめること。これは、第二王子君が王位についている間ずっとね。次の王が即位したら要求が変わるかもしれないけど、何かしらの要求はさせてもらう。文句があるなら攻めておいで」
「私としては、家畜を百頭を毎年おさめることで、辺境領がおだやかになるのでしたら、攻める必要がなくなります。次期王の統治中で私が宰相の位にあるうちは、絶対に攻めることはありません!」
「助かる。それと、私たちは目的があって動いている。その目的を達成するためには、人たちと、対立することもあると思う。でも、最後は、上手くいくと信じてやっているから、できれば邪魔はしないでほしい。それと、私が王都にいる理由は、単純に、この世界をもっと知らなければ無駄な血が流れる気がして、それを好まないからなんだ。基本的に街中では、人のルールに従うから、気にしないでほしい」
「かしこまりました。現状、マイカ様方がクラレ殿に連絡をつけたところから、多少調べさせて頂きましたが、ご容赦くださいませ。商工ギルドと冒険者ギルドとアミツ商会が主な行き先のようですが、それは、人の世界を知るために?」
「うん、ちゃんと調べられてたんだね。それは不問にするから、王都にいる時の私たちはそっとしておいてくれると助かる」
「仰せのままに。それでは、本日は、大変なご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありませんでした」
「謝罪はうけとったよ。次期王君には、私に会いに来ちゃダメっていっておいてね。それじゃあ、クラレ君たち、またあちらで会おう」
非常に残念なことになってしまったけど、だまし討ちのようなまねごとをしたのはあちらが先なのだから、こういうこともあるのだろう。
王が変わるってことは、戴冠式とかパレードとかあるのかな。