第二十九話 空からの眺めと王都
空からの眺めと王都
ミナンのダンジョンから駆け上がり、あっという間に空の人となってしまった。
アーマードスレイプニール、速すぎるよ!
ガーゴイルナイトたちは、おいてきてしまったようで、四体のアーマードスレイプニールだけになっていた。
私と、アインス、メリッサは、一人で乗り、エビルドールの二人は、二人で乗っている。
ガーゴイルナイトから思念波が届き、アサドが屋敷の場所を知っているので、このまま別行動で向かうそうだ。
行きの道中で可能なら、ランクス王国全土を見渡せる高度まで上がるという目的があったので、彼らは遠慮をしたのだろう。
ここにいる全員が光と闇以外の四属性魔法を使えるので、風よけも、体温調整も問題はない。
さらに、高度が上がり、何となくだが大陸の形がわかる高さまで辿り着いた。
高所恐怖症ではないが、さすがにこの高さから見下ろすのは恐ろしく感じてしまう。
それでも、なんとか、位置情報を得るために、できる限り見続けた。
大陸の形は、角度が九十度、六十度、三十度の三角定規のような形で、一番長い一辺を北にして、ミナンの森があるあたりが九十度の方向のようだ。
ミナンの森の先には、険しい山々が続き、そのまま海に至っていた。
そうなると、そこから北の地域がランクス王国となるわけだ。
少しずつ、高度を下げてもらい、円状の建造物が確認できた。
位置や方向から見てあれが王都なのだとわかり、アインスに確認すると、正解だった。
王都の周辺には、幾つも街があり、村々も点在している。
林というには広い森もあり、森と共存する地域なのだろう。
その後も王都周辺を見回り、夕暮れ時となった。
予定では、日が暮れてしばらくたった頃に、屋敷の中庭に降り立つことになっている。
王都上空から、遠目に眺めた限りでは、対空装備はなさそうだが、空から何かが来た時は、魔法で応戦するのかもしれない。
予定道理に行動し、王都内の屋敷の中庭へ降り立った。
遅れてガーゴイルナイトたちも到着し、アインスが、管理業者に帰宅を知らせに行った。
ちなみに、ここまでの日程というと、朝早くにミナンのダンジョンを出て夕方前には王都に着いたという一日もかかっていないふざけた速さで皆が行動していた。本気を出したアーマードスレイプニールはともかくとして、ガーゴイルナイトの速さも恐ろしい
人をベースにしたままのダンジョンマスターの私なら、この強行軍に耐えられなかったと思う。悪魔になったおかげで、耐えられたようだ。馬なら十日以上がかかるそうなので、どれほどの速さか、考えると恐ろしい……。
アインツガ戻るまでの間に、屋敷の外観を確認する。
敷地の広さは、私の感覚では広いのだが、この世界基準ではこれくらいが普通なのかもしれない。
凹型の屋敷で、その中心が中庭となっている。屋敷の裏には、木々が植わりその向こうには土壁があるようだ。
屋敷は、三階建ての木造の洋館で、部屋数は多そうだ。
整備のされた厩舎があったので、アーマードスレイプニールたちを連れて行き、そこで寝泊まりが出来そうかと聞くと問題はないそうだ。
鎧事姿が変わり、普通の馬になってしまった。
どういう能力で、鎧まで取り込んでいるのかわからないが、さすが幻獣というしかない。
厩舎の整備も、管理業者の仕事なのかもしれないな。
周囲には、裏庭の林の先に合った土壁が一周するように設置されており、内側は、木々や草花が良い具合に並んでいた。
一通りの外観を楽しんだところに、アインスが戻ってきて、屋敷の中に案内された。
屋敷の部屋は、一階しか使っていなかったそうで、エビルドールたちが、早速、主寝室から掃除をしてくれるそうだ。
ここにいるのは、全員睡眠も食事も必要のない者たちなのだが、気持ちの問題ということで、皆もそれぞれに掃除を始めた。
ちなみに、アーマードスレイプニールは、生物系のモンスターだが、幻獣という謎生き物なので、食事は、たまに取れば良いそうだ。
ゴーレムも謎モンスターだが、幻獣も謎モンスターだったのか……。
私が掃除をしようとしたら、皆に止められたので、少し散歩に出ることにした。
主は、大人しく座っていてほしいと言われたが、私だって何かをしたいのだ!
明日の行動の下見というつもりで、上空から王都を眺めてみる。
確か、中世程度のヨーロッパの都市は、十万を超える人口の都市は、ほぼなかったという話を聞いた覚えがある。だが、市域の問題や、人口の数え方もあいまいらしいので、どの数字が正解なのかいまいちわからないとも何かで読んだ気がする。
辺境領の最大兵数が二万だったということを参考に、いろいろと考えると、この王都は十万から十五万がすんでいると思っておこうか。
魔法のおかげで多少の寿命が伸びていたとしても、地球の同時代の人口から予想して、そう離れてはいない数字だろう。
王都は、四つの区画を石壁で分けているようで、中心が王城のエリアで、次の壁の外側が、上級の貴族の屋敷というところか、その下が、下級貴族と豪商に、高級住宅街といった雰囲気がする。
私たちの屋敷は、このエリアにある。
その外側が、庶民が住むエリアとなっているようだ。
この外側の壁が、王都の一番外側の外壁となっており、外壁の外にも街が広がっている。
本当の街の外れには、獣除けの柵と背の低い石壁が作られていた。
あれは、外側の住民が自主的に作った外壁なのだろう。
地球の円状の街も、こうやって、円状に広がっていったのかもしれないな。
一通りの散策を終えて、屋敷に戻ると主寝室は奇麗な仕上がりとなっており、私は主寝室で大人しくしているようにと、エビルドールたちに、軽く怒られてしまった。
彼女たちは、普段は大人しいのだが、悪魔系のモンスターなので、何をされるかわからない怖さがある。
今晩は、大人しくするべきと本能が警告しているようなので、そのまま眠りについた。
翌朝、エビルドールたちに起こされた私は、身支度を強制的にしてもらい、エビルアーマーに入った鎧姿のアサドたち、アーマードアサドとも呼べる存在たちと、メリッサ、アインスの皆で、冒険者ギルドへ向かった。
ガーゴイルナイトたちは、動かなければ、勇猛な翼を持つ騎士の彫像にしか見えないので、屋敷の中から、警備をしてもらう。
冒険者ギルドは、王都内に五か所もあるそうで、それぞれの門の近くに一か所ずつあり、このエリア、中町というらしいのだが、中町の広場に本部があるそうだ。
本部のある広場には、他のギルドも集まっており、中央にある彫像を中心に並んでいた。
彫像の人物は、建国王の姿らしいのだが、あまり興味が持てなかったのですぐに忘れそうだ。
彫像のある広場で待ち合わせなんていう使い方もするかもしれないので、彫像がある広場とだけ覚えておこう。
アインスに案内され、冒険者ギルドに入り、受付札を貰う。
その後、登録手続きに、名前や特技などを書いていき、魔道具に手を載せて、魔力波という指紋の様な個人が特定できるというタグカードを貰い登録は完了した。
私の特技は、現状、魔法となるので、上級魔法としておいた。上級魔法は、人の体では一発しか打てないが、その一発が打てるかどうかが魔導師には重要らしい。ダンジョンマスターとして、何人もの魔導師を見た結果なので間違いはないだろう。
細かい説明をしてくれていたが、アインスがすでに把握済みなので、聞き流しておいた。重要なのは、タグカードを無くさないことだけらしい。
一応、登録をしたので、掲示板にある依頼書を一通り見てみるが、雑用が五割、採取が二割、討伐が二割、残りの一割は、謎の依頼だった。
正直なところ、謎の依頼には、興味が引かれたが、アインスに必死に止められた。
ちなみに、アーマードアサドたちの魔力波は、アサドのもので登録したそうだ。
モンスターだからといって、魔力波は問題なく取れるのは、アインスたちが事前に経験していてくれたおかげで、戸惑うことなく、アインスたちには、助けられっぱなしだ。
その後、適当に、露店で売っている食べ物を皆で頂きながら、街を散策してから、昼過ぎに広場に戻、商工ギルドへ向かった。
実は、冒険者ギルドの登録は、形だけの登録だったのだ。
冒険なんてするつもりは、全くない!
では、なぜ、冒険者ギルドのタグカードを作ったのかというと、商工ギルドでは、どんな者でも身分証がないと、話さえ聞いてもらえないとアインスの調べで判明していたからなのだ。
そこで、一番簡単に作れる身分証として冒険者ギルドのタグカードをつくったわけだ。
それでは、新たな勝負の開始と使用じゃないか!