第二十七話 転移能力と次の行き先
転移能力と次の行き先
ダンジョンが地下百階層に届いたことで手に入れた特殊能力の転移は、便利なのだが、使いにくい能力だった。
まずは、私一人しか、転移ができない。持ち物などは、問題なく転移できるのだが、仲間と共に転移できないのは、不便としか言いようがない。
良い方に考えるなら、何か視認できないほど小さい存在や、死霊系の様なモンスターが取りついていたなら、無理やりにはがすことができるようなので、この点はありがたい。
次に発動まで五秒程度の時間があり、その間、足元に光る魔法陣が展開されている。この魔法陣は、転移先にも展開されるようで、突然転移をして暗殺なんてできないらしい。
だが、戦闘中にでも発動できるようで、ただ逃げ延びるだけになら使え操舵。ダンジョンの転移機能は、戦闘中には使えないのでありがたい。
さらに、消費される魔力量が、特級魔法一階分以上にもなる。
とはいえ、距離や場所などで消費量が変わらないのは幸いだった。今の悪魔化した私なら、一日三回は使えるようだ。
だが、人の体でダンジョンマスターをやっていたころなら、発動すらしない無意味な能力になっていただろう。
そして、私が言ったことのある場所に鹿転移ができないようだが、幸い、見たことのある場所は、てんいができるようで、エスナルへの道中にある降りたこともない場所へ転移ができた。
ここまでなら、転移できるだけでもありがたいと思うところなのだが、私にとっては使いにくいと感じてしまう。
基本的に私は、ダンジョンからでない。そして男女ん内はダンジョンの能力で戦闘中のエリア以外はどこにでも行ける。
さらに、第二、第三のダンジョンを作って行けば、そのダンジョンを自由に行き来できてしまうのだ。
そして、おそらくだが、他社のダンジョン内でもつかえることが予想できる。
その根拠は、ゲームの時に存在した記録のスフィアというアイテムとほぼ同じ能力だと感じてしまったからなのだ。
しかも、この記録のスフィアは、こちらの世界でもダンジョンのポイントを使えば作り出すことができてしまう。
記録のスフィアには、転移先を数か所登録でき、ダンジョン内の階層も登録できる。
便利なアイテムだが、使用回数の制限があり、制限回数によってゲームの時は値段が変わっていた。こちらでも、使うポイントの数で使用回数が決まるようだ。
結局のところ、記録のスフィアを能力として与えられ、対価は、特級魔法より高い魔力量というわけだ。
それでも、地上では、便利な能力なので、やはり貰っておいて損はないだろう。
ゲーム内アイテムのことを、思い出していると、ゲーム内でのダンジョンマスターの扱いも思い出した。
ダンジョンとダンジョンマスターの関係は主従の関係で、同等や同一の関係ではない。
あるプレイヤーが、何か悪いことをしたようでアカウント削除処分になった。
そのプレイヤーは、ダンジョンのマスターでもあり、そのダンジョンがどうなるのかを皆で興味本位に観察していた。
プレイヤーのアカウント削除処分から、一度目のメンテナンスの時を終え、皆でそのダンジョンを見に行くと、アカウント削除処分された彼の作ったダンジョンがそのまま残されていた。
せっかく来たので、攻略をして、新たなマスターをそのダンジョンは迎えることになった。
これを、この世界に当てはめて解釈すると、ダンジョンマスターが死亡したとしても、新たなマスターが決まるまでは、ダンジョンマスターは死亡したマスターを主として、機能し続けるのかもしれない。
ならば、マスターのいなくなったダンジョンもいくつかあるかもしれないな。そういうダンジョンは、攻略もやりやすいだろう。
これとは別に、ダンジョンマスターのプレイヤーが、他のダンジョンを攻略していた時に、自分のダンジョンが攻略されてしまった。
しかし、そのプレイヤーが失ったものは、ダンジョンマスターの権限だけだった。
だからといって、見て見ぬふりはできず、取られたものは、取り返さねばと、元自分のダンジョンが改修される前に奪いなおしてしまった。
改修前なら、自分の設置したトラップとモンスターしかいないので、全く知らないダンジョンよりは、はるかに楽な攻略ができてしまう。
ダンジョン攻略だけが、あのゲームの楽しさではなく、奪い奪われ取り返すというのもゲームの醍醐味だった。
そう、奪い奪われ取り返すのが、ダンジョンという存在で、もし、私のダンジョンが負けそうなら、私はこの転移の能力を使い脱出をして奪還することも可能なのだろう。
ただし、この世界は、ゲームではなく現実で、ダンジョンコアが破壊されていない場合に限るという条件が付いてしまうのがつらいところだ。
仮に、私のダンジョンが負けてダンジョンコアが壊されたとしても、私が脱出していれば、他のダンジョンのマスターになり、いつか約束をした、ダンジョンを開放するという目的を果たさなければならない。
そうか、そのためのこの能力なのか……。
ダンジョンの気持ちを表した能力だとしたなら、有意義に使わなければならないな。
でも、私は、負けるつもりなんてないのだから、そんな緊急脱出のためには使わないからね。
玉座の広間で、新たな能力である転移について、考察を続けていたが、その意図が何となくわかり始めたところに、タイミングよく宮殿に来訪者が訪れた。
マリアとともにガーゴイルナイトが二体入ってきて、用件を伝えてくれた。
あの戦いの後、勝者の権利とばかりに、辺境領中から、家畜を奪い続けていたのだが、少しずつ、人がいなくなっているようで、廃村となった村が出てきているそうだ。
家畜泥棒は、私の指示なので、問題はないのだが、人が消えるのはおかしい。
さらに話を聞くと、ガーゴイルナイトが集団で村を襲い、家畜を奪うという行動もしていたそうだ。
あ、それは逃げるかも……。
そして、気が付いたら、廃村だらけになっていたのね。
ミナンの村は、このダンジョンの最も近い村だったので、早々に廃村になったそうだ。
「マイカ様、なにか手を打ちますか?」
「何もしなくて良いよ。このまま家畜泥棒を続けて行こう」
「どのようなお考えがあるのでしょう?」
「この辺境領は、もう自力がない。だから、速いか遅いかで、人がいなくなるよね。なら、それを加速してあげればよいと思うんだ。それに、辺境領から人がいなくなれば、東の国がせめてくるかもしれないよね。もし、東の国が来たら、適当に挑発して、矛先をこちらへ向かわせれば、またお祭りができるから、それはそれで問題にならない」
「ランクス王国から、移民や新たな貴族は、来ないのでしょうか?」
「来るとは思うのだけど、この地が回復するまでには、数十年がかかるんじゃないかな。その間も家畜泥棒をやっていれば、定住する人もほとんどいなくなるかも」
「では、継続して家畜泥棒は行いましょう」
「あ、ミナンの村の跡地にゴーレムナイトとアルラウネを行かせて、村だった痕跡を完全に消してきてほしい。それと、このダンジョンの名前を今後はミナンのダンジョンとするね。ついでに、この南の森もミナンの森と呼ぼう。アサドに、エスナルで、名前を広めさせてほしい。皆へのお願い頼んでよいかな?」
「かしこまりましたが、なぜ、ミナンを?」
「一番初めの侵入者がミナンの村人だったみたいなんだよね。それに、直接の交流はなかったけど、ミナンの村があったおかげで、どこに行けばよいかの目標が建てられたし、冒険者もミナンの村が呼んでくれたんだ。むらのこんせきを消すのは、私がずっと気にしてきた村に、無関係な者が住むのが嫌なのと、前線基地みたいな存在になる廃村を置いておくのは悪手だと思うんだ」
「なるほど、ミナンという名は、マイカ様にとってこの世界で初めて覚えた村の名なのですね。村は、消えても名前だけは残すというわけですか」
「そう。多分、心細かった時に知った、唯一の名だったから、大事にしたいんだと思う」
「わかりました。徹底するように皆にもつたえておきましょう」
「うん、よろしくね」
後日、ミナンの村があったところに行ってみると、建物や畑、獣除け柵など、奇麗になくなっていた。
その代わりに、様々な草花が広がり、周囲に溶け込んでいた。
ゴーレムナイトの仕事はもちろんだが、アルラウネの仕事も見事なものだった。
ダンジョンの方には、鉄扉にミナンの文字が書かれていたが、鉄扉は、基本的に開けたままなので、ないよりはましな程度で彫り込んでくれたのだろう。
その代わりに、鉄扉の外側の石垣の前に、ミスリルの支柱が刺さっており、そこにミナンと書かれていた。
ミスリルは腐食をしにくい金属らしいので、湿地に支柱として立てても、良いのかもしれないが、素材の無駄使いと思ってしまった。多分どちらもオーガニュートの仕事なのだとは思うのだが、なぜか切ない気持ちになってしまった。
ほぼ事後処理に当たることは、終わらせた。次の行動を考え始めないといけないな。
数との戦いは、勝利できた。次は、質との戦いがあるのかもしれない。勇者なんて存在が出て来たら、私は魔王になるのかな……。
それとも、ダンジョンマスター同士で戦うこともあるのかな、エスナル北のダンジョンの時は、何とかなったけど、本気でダンジョンマスターに抵抗されたなら、どうなるのか見当もつかない。
先にある戦いも大事だが、今の私は、もっとこの世界を知る必要がある。
今までの情報源といえば、モンスターたちが集めてくれたものと、捕まえた侵入者たちのものだけだった。どう考えても少なすぎる。
手紙もままならない世界かもしれないが、世界中の情報が手に入る世界に生きていた私としては、圧倒的な情報不足だ。
転移なんていう能力も覚えたことだし丁度良いので、王都へ行ってみよう!