二十三話 ドライアドとジン
ドライアドとジン
弟子爵率いる先発隊の攻撃は、食らいつくすことができた。
次の戦いも近いだろうとは思うが、あちらの動向をなるべく把握しておきたいので、アサドを向かわせた。
あちらに到着するなり、アサドから思念波が届いた。
それによると、辺境伯軍は、弟子爵からの連絡を受けてから出発する段取りになっていたそうだ。
だが、連絡が来る予定の日になっても、誰も戻ってこず、困惑しているという。
アサドの心を読む謎の能力は、やはり恐ろしいと再認識したが、もうしばらく動向を見守るように頼み、思念波を閉じた。
さて、どうしたものか……。
思いついたことは、二つだ。
一つは、弟子爵に魅了や誤認の魔法を使い、手紙を書かせて、同じように操った誰かに手紙を届けさせる。
これなら、三千人から五千人の兵団が来て、私たちの勝利は確実だろう。
だが、敵が数を武器として使うなら、ダンジョンの耐久度を調べておきたいという考えが沸きあがって来る。
自らを検体にする危険な行為なのはわかっているが、もし一万で来てくれたなら、数という武器には、今後も負けることはないだろう。
そこで思いつくのが二つ目の考えだ、
三千人ほど遺体とダンジョン内の様々なものを素材にして強力なモンスターを呼び出そうというものだ。
次の機会にでも使おうかと思っていたが、二回戦まで時間があるのなら、やっても良いかもしれない。
問題点を挙げるなら、呼び出す予定のモンスターたちが住みやすいようにダンジョンを改修しなければならない。
それに、今よりも強力になるとは限らないという問題もある。
マリアとメリッサに相談したところ、私が改修するつもりの階層の存在が、あまり好みではなかったそうで、大賛成された。
このダンジョンの初期からある階層なのに……。
だからこそ、変えるべきなのかな。
よし、覚悟は決まった!
普段は、魔法陣なんてものは使わないのだが、今回は大量に素材を用意するので、召喚用魔法陣を書いたマントほどの大きさの布を持って、素材たちを改修していく。
まずは、毒沼の迷路に行き、ポイズンスライムとポイズンゾンビを改修し、毒水と毒土も全て回収して迷路を破棄した。
次に、毒の湿地と腐肉の湿地に行き、虫たちを一度宮殿のある最深部に転移させる。もちろんエビルモスもだ。
それから、全ての、植物と土や腐肉などを回収して、何もない階層にした。
そして、森に行き、昆虫や爬虫類に小動物たちを最深部に転移させてから、植物を回収していった。あとでデスナイトに再設置をお願いしておかないといけない。
コロシアムの植物も忘れずに回収しておいた。
さらに、炎の立体迷路に集まっていたケルビンとガストにトラップの立体迷路にいるブラッドアイも回収する。
後は、牧場の薬草を半分ほどと農園の野菜や果物も半分ほど回収しておいた。
これだけあれば、いけるはず!
最後に、ダンジョンの保存機能から、全ての遺体を魔法陣に取り込み、植物系の素材で使い道のない者も取り込んでおいた。
それじゃあ、まずは植物系から。ドライアド三体、アルラウネ二十体!」
半透明のダンディーな美丈夫が三体と、ところどころに植物の様子がうかがえる少女たちが現れた。
「ドライアドだ。主様でよいのだな。まずは、名をいただこうか。」
「ヒノス、ノキス、キオスでどうかな?」
「良い名だ。意味などはどうでもよいが響きが気に入った。それで我らはどうしたらよい?」
「君たちのお仕事は複雑だから、後回しにさせてね。アルラウネたち、君たちは、薬剤工房で薬の研究をしてほしい。植物だけではなく、生物からの毒も扱えるよね?」
「はい、私たちの名は、人数も多いので、後程お願いします」
「メリッサ、彼女たちを居住区と薬剤工房へ案内してあげて」
「かしこまりました」
メリッサたちが、九電から出ていくのを見送ってから、ドライアドとの会話を再開する」
さっきは、あえて話を途中で切った。ドライアドは、気位が高い高位の魔樹の悪魔だ。しつけをしなければならない。
「それじゃあ、転移するよ」
地下四十八階に、転移する。
「この階層から上に八階分をつなげるから、そこに巨木として立ち、迷路を作り出してほしい。洞や、毒をふんだんにつかってほしいかな」
「なるほどな。巨木の迷路となれば、俺たちが三体もいるわけか。悪くない仕事だ。昆虫系は、何か呼ぶのか?」
「今のところはエビルモス、希望があれば今なら聞けるけど、何かある?」
「そうだな、毒が好みなら、キラービーだけは呼んでもらおうか。あとは、小間使いにトレントをそれぞれに十体ずつで、三十体頼む」
「わかった。キラービーは、また後にしてトレントだけは今予防」
そうしてトレント達が三十体現れた。
彼らも半透明だが、青年の姿をしている。
八階層分を連結し、、地表は、彼らの要望で毒の湿地となった。
湿地が本当に好きだな……。
その後エビルモスを呼びに宮殿に行き、ついでに毒虫たちも回収しておいた。
エビルモスたちと、巨木の迷路に行き、キラービーを四十体呼び出し、ここは、ドライアドに任せておいた。
宮殿に戻、次のモンスターを呼び出す。
「まずは、話し合いをしたいから、ジンを十体!」
こちらは、炎の魔人という感じの悪魔が十体現れた。炎以外は、褐色の青年たちで温和な雰囲気すら漂う。
「主様ですね。我らジンでございます」
「名は、後にしてひとまず相談なのだけど……」
現在のダンジョンの状況を話、改善案も話していく。
「……、なるほど、氷の迷路が必要かどうかを迷っているのですか」
「そうなんだよ。あれば、良いとは思うのだけど、前回の戦いで炎の力を見せつけられてね。迷ってしまっているんだ」
「なるほど、そこで属性を自由に変えられる我らジンというわけですか。イフリートなら、炎でこていされますからね」
「そうなんだよね。イフリートに対応する小売りの魔人もいるみたいだけど、いまいちよくわからなくて、イフリートの上位に当たるジンたちなら、どう考えるか聞きたかったんだ」
「そうですね。ここからここを地獄絵のりったいめいろ、これを最上層としましょう。つぎのここが上層としてトラップの立体迷路、ここからが、氷の立体迷路、そして下層として炎の立体迷路を置きましょう」
「最下層が、巨木の迷路で、最深部ということで、コロシアムってかんじかな?」
「まあ、呼び方はそんなところでしょうか。これで一度設置してみて、氷の威力をみてみましょう、我らジンは、八十体もいれば十分でしょう」
「え、そんなに来てくれるの!」
「次の戦は、最低でも三千なのですよね。その半分ほどの魂を後払いでいただけるなら、お仕えしましょう」
「魂かぁ。遺体じゃダメかな?」
「遺体なら、五千人分でどうでしょう。それくらいは来そうなのですよね?」
じゃあ、ジンの数をもう少し増やせないかな?」
「百まで増やしましょう。それで五千の遺体で。これ以上はまけませんよ!」
「交渉成立。それじゃあ、早速、立体迷路の組み換えを手伝って!」
「はい、主様」
それから百体のジンを連れて氷の立体迷路と炎の立体迷路を改築していった。
そうして、おおよその改修が終わり、こういう様子に変貌した。
地下一階から地下四階
ガラスの床とジュエルナイトたちのチェス盤の置かれた偽財部やに、基本的に無害だが地獄絵の彫り込まれた迷路がある。ゴーレムナイトたちの要望で隠し部屋がいくつも作られている。
全ての隊列が侵入し終えたことが確認された後に、リアル鬼ごっこ作戦が、ゴーレムナイトによって開始される。
地下五階から地下八階、地下九階から地下十二階、地下十三階から地下十六階
トラップの立体迷路。地獄絵の彫刻は続き、トラップが盛大に設置されている。ポイズンアイがいらだたせるように飛び交い、侵入者たちを翻弄する。
トラップには毒もしっかりと使われており、致命傷になりかねないトラップが多数存在する。さらに、階段や坂道などもあり、疲労感を感じさせやすくさせる構造にしてある。
地下十七階から地下二十階、地下二十一階から二十四階、地下二十五階から地下二十八階
氷の立体迷路。気温が低く設定されており、この迷路で瀕死になれば、凍死する可能性もある。気体の悪魔ジンが配備されており、通常のトラップはもちろん、氷や冷気を使った巧みなトラップや攻撃をしてくる、できるだけ早く脱出しなければ、疲労度が蓄積し、危険性が増す。
白く濁った白い雪の様な氷レンガで組まれており、透明度はなくトラップを見つけ出すことはできない。また、通路の床も雪が敷き詰められており、歩きにくさはかなりのものだ。
地下二十九階から地下三十二階、地下三十三階から地下三十六階、地下三十七階から地下四十階
炎の立体迷路。温度が高く設定されてあり、気体の悪魔ジンが配置されている。通常のトラップに合わせて炎や熱気を使ったトラップが多く設置されている。ジンによる炎と熱気の攻撃は強力で、その舞うような攻撃は鮮やかだが、死の舞踏でもある。
また、砂地に土レンガという砂漠風の迷路で足場も悪く、非常にすすみにくくしてある。
地下四十一階から地下四十八階
巨木の立体迷路。ドライアドの身体を利用した立体迷路になっており、正しい順路は、本人たちにもよくわかっていない。それでも降りることは可能になっている。ドライアド自体がトラップの塊のような存在なので、好きなタイミングでトラップを発動し、攻撃ができる。また、トレントを各所に配置してあり、必要に応じて、作業を指せている。さらに、エビルモスとキラービーが飛び回っており、それらにも注意が必要だ。
地下四十九階と地下五十階
二つの階層を連結させた階層には、草花や木々が良く茂り、その中に立てた四階建てのコロシアムがある。
二階に続く階段を上がると。、デスナイト軍団を中心にした戦闘集団が待ち受ける。
アーマードミノタウロスやアーマードスレイプニールなどのいまは先頭に参加しなくなったようなモンスターもいるが、その一撃が強烈なのは健在だ。
ちなみに、観客席は監獄となっており、現在は、マルス辺境伯の弟子爵一行がとらえられている。
これを抜けた先にある通路を抜けると階段があり、一階に降りられる。
一階には部屋が二つあり、階段の下の部屋に降り立つと、噴水があり、表のダンジョン唯一の癒しの空間となっている。
どうせならと、花の彫刻や石のベンチも設置された。
その先には偽の玉座があり、アインスが座り、両脇にツバイスとドライスが近衛のように立っている。またジュエルナイトたちが両壁に並び、待ち受けている。
次に、おおよそのモンスターたちの数だ。
ポイズンアイ六十体
エビルモス四十体
キラービー四十体
ドライアド三体
トレント三十体
アルラウネ二十体
ジン百体
ゴーレムナイト約百体
ガーゴイルナイト約二百体
デスナイト二百体
シャドーアサシン二十体
ジュエルナイト三十二体
ビッグハンド二十体
エビルワーム約二十体
アーマードミノタウロス十体
アーマードスレイプニール四体
ハイグレムリン三十体
リビングミスリルアーマーとその仲間たち約三十体
エビルドール四体
グレイターバンパイア三体
エビルプリエステス一体
ゴルゴン一体
最後に私、ベルゼモス一体
基本的な、設計思想の様なものは変わっていないのだが、ジンが多く来てくれたことで、氷と炎の立体迷路が、私が考えていた物よりもはるかに良い形で出来上がった。
ドライアドの巨木の立体迷路は、正直なところ、よくわからない……。
難易度は高いが降りられなくはないそうなので迷路としては良くできていると本人たちは言っている。、間然に任せているし、私が気が付いた時には、もう完成度が高い状態になっていた。
素材として使った森などの木々や草花は、数日かけてデスナイトたちが治してくれて、今では元通りになっている。
多少違うところと言えば、毒虫がほぼいなくなり、巨木の立体迷路に集合しているそうだ。
コロシアムの草花や木々もふつうの者に変えられている。
回収した馬と魔法陣がまだ使えそうだったので最後にスレイプニールを召喚して魔法陣は消えた。
馬鎧を付けさせ、先に現れていた三体と合流させ、走り回っている。
それから、一か月ほどが経ち、回収の余韻も消えた頃、辺境伯軍一万が動き始めたとアサドから思念波が入った。
衛兵や冒険者たちも集めて、なんとか一万を募ったそうだ。
今回が二回戦にして、最後の辺境伯との戦いになるのだろう。
この地での戦いは、これを終わらせれば、十年単位百年単位でないかもしれない。
しっかりやれることをやって行こう!