霊鉄のヴァリアント 7
津波を止め、力を使い果たしたネフェリィは瀕死の状態となる。彼女は始に残った『カインの剣』を託す。
7
翌朝、彼女は僕を起こし最初に連れて来た時の浜辺へ連れて行ってほしいと頼んだ。まともに立つことができない彼女は剣を杖にし、僕も肩を貸した。
浜辺に着くとネフェリィは剣をザッと砂に突き立て、肩で大きな息をした。
「ハジメ……………少し、離れて――――居てくれ」
彼女は静かに剣を鞘から抜いたが刃が大気に露出した瞬間、まわりの空気が大きく振動した。剣の刃は緑色に輝いていた。
僕は空気の圧力の様な力で後ろに押しやられた。彼女は剣をゆっくりと海側へ向けると中段から僅かに振り下ろした。
振り下ろした剣の刃が描く線は輝きを増し広がっていく。その周りの大気はオーロラの様に揺らいで見えた。
「湖で見たのと同じ…………ネフェリィ、何をするんだ、まさか―――」
彼女は剣を鞘に納めると歩み寄り、僕に剣を渡した。
「私は二度と戦いを学ばない。ありがとうハジメ………私はお前を忘れない」
「ネフェリィ、まさかあの光の中へ…ダメだ! 行くな」
「私はこの世界に居てはならない人間なんだ―――もし、もとの世界へ戻れたなら……………ハジメが気付かせてくれたことを皆に…………伝えたい」
彼女は僕の首に両手を回すと唇を重ね最後の別れを告げた。
「ありがとう、ハジメ…………世話に…なった」
彼女の頬を涙が伝った。僕の方を向いたままよろける様に後ろへ下がると輝く空間の切れ目の様な所へ仰向けに倒れ、その姿は見えなくなった。
「ネフェリィィィィッ‼ 」
僕は大声で叫んでいた。程なくして輝く空間の切れ目は収縮し完全に消滅した。
これが彼女との別れだった。
僕は剣を壁に立て掛けるとネットで聖書を調べた。
創世記を読み進めるとそこには巨人ネフェリムの記述があった。御使い(天使)と人間との合いの子とされ昔から名のある者、と記されている。
ネフェリㇺの評価投稿には様々な意見があったが、その中には彼らは高度に組織された強力な軍隊でありドバルカインを指しているのではないか、また力を振るっただけでなく状況によって助けたりもしたのではないか――――別の投稿では小さな子供がネフェリㇺごっこをしていたとか…………今で言う戦争ごっこなのか?
いずれにしても虐げたり暴力ばかりを行っていたとは思いたくなかった。彼女がそれを証明している。
“戦うことが私の本分だが―――楽しくはない ” 彼女は確かにそう言ったのだ。
部屋の外で誰かが走ってくる音がした。二回ドアがノックされた後、入って来たのは勝だった。
「キャプテン、肝心なもの渡すのを忘れる処だった――――大事にしろよ」
そう言うと勝は折り畳んだ便箋を僕に渡し再び部屋を出て行った。
便箋を開くと一枚の写真が出てきた。それは船上で僕とネフェリィがお互いに向き合っている場面だった。
「………勝の奴、隠し撮りしやがって…」
僕はそれを写真立ての中に納め、静かに机の上に置いた。
彼女の声が心の中に浮かび上がる。
” 考えておくよ、ハジメ……… “
《了》