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(21) ダンジョン『地下帝国メトロポリシタン』攻略①




 ――この作戦の実行される、3日前。

 他のメンバー同士が活発に連絡を取り合っていたのに対して、ヤシャマルとユウヒが交わしたメッセージはほんのわずかだ。




【ヤシャマル:おい、いい加減反応しろ】


【ヤシャマル:一緒に動いたことがほぼない状態で行き当たりばったりはきつい】


【ユウヒ:仙人の道しるべ】


【ヤシャマル:好き勝手やってどうにかなるとは思えないぞ】


【ヤシャマル:あ?】


【ユウヒ:持ってるか】


【ヤシャマル:あるが】


【ユウヒ:ならバイク乗ってきてくれ】


【ヤシャマル:は?】


【ヤシャマル:おい】


【ヤシャマル: 仲 間 と は 】




 これだけ、である。

 正直、ウィンドウをどこかに投げつけることが出来るならヤシャマルは確実にそうしていただろう。今回組むことになった相手がそういう性格であることは知っていたが、如何せん協力する気が無さ過ぎる。そりゃあ全体メッセージでのやりとりでも文句を言いたくなるというものだ。




 だが。

 作戦当日、それでも相手の残した僅かなメッセージの中にあったスキル『仙人の道しるべ』と武器であるオートバイの確認をして集合場所にやってきたヤシャマルは。

 そこで改めて、ソロプレイヤーの中ではぶっちぎりのトップをひた走っている男の――規格外な動きを、目の当たりにすることになった。




 ***




「…………」




 最早、言葉も出ない。

 以前、アカネを後ろに乗せて走っていた時は、彼女が周囲の敵を蹴散らすために何の魔法を使っているかはまだ理解することが出来た。少なくとも登場したモンスターが魔法の直撃を食らって撃沈していく姿を、ヤシャマルは自分の目で捉えることが出来ていたのである。


 しかし、今回は。まずヤシャマルの操縦するオートバイの後ろに乗っているプレイヤーはいない。

 彼が今操縦しているオートバイは『デンゲキライジング』という名前のもので、今手持ちにあるものの中では最高速をだすことができる。しかし速度と機動力と爆発力を重視したそれは1人乗りの装備であり、だから今日使うことはないだろうと思っていたのだが。


 それに乗ってくれ、と顔を合わせたときユウヒは言った。




「……俺は、ついていくからいい」




 その言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。




 ヤシャマルはオートバイのメーターを確認する。

 針の刺している位置は、一番右に書かれている数字『240』を既にぶっちぎっている。そこまでの速度を出して運転したことが現実であるわけではないから、本当にこの速度が出ているのかと問われればなんともいえないが。

 それでも、目に見えたと思った景色があっという間に自分の背後へと動いている現状、決して生ぬるいスピードではない。少なくとも、人間がついてくることの出来る速さではないということは理解できる。


 だというのに、何故視界の端にさっきから橙色の髪の毛が見えているのだろうか、とヤシャマルは心底思った。




 今回の任務における相方となった人物――ユウヒは最初の発言どおり、オートバイを運転するヤシャマルについてきていた。その方法はいたってシンプル。


 ただひたすらな全力疾走、である。


 勿論、いくらプレイヤーがステータスを移動速度に特化させていたところで、そんなことが出来るわけがない。ないのだが、それを可能にさせてしまったスキルが『諦めの悪い肉食獣』である。対象を指定して『スタミナ』を任意で消費させることで、その消費量に応じた時間だけ一定の距離以上離れることなく追跡することができるというものなのだが。

 無論、この男、ただついてきているだけではない。


 新ダンジョンだからか、イベントのことがあって気合が入っていたためか。

 『地下帝国メトロポリシタン』にいる敵モンスターの数は、他のダンジョンよりもかなり多いように見えた。実際、オートバイで跳ね飛ばしそうになったモンスターは何体もいた。


 だが、そのタイヤがモンスターを引き飛ばすよりも先に、目の前に橙が映り。一瞬でそれが飛び去った後には、アイテムがいくつも散らばっているのみで。それをしっかりと確認する間もなく、オートバイで弾き飛ばしながら進んでいく形となっている。




 つまり、ユウヒと言う男は。スキルを使いながらではあるもののオートバイの最高速に生身で追いつきながら――そのルートの邪魔になるモンスターを先回りして撃退しているのである。




 何がどうなっているのかを目で追いかけることすら難しい。

 基本的には肉弾戦メインだが、武器はあまり使わず魔法も身体に属性をつけたり纏わせる形でしか使用しない、とはアカネやリーダーから聞いた話だ。

 要するに、素手で殴っているというわけだが。


 そうこうヤシャマルが考える間にも、目の前に螺旋状になった坂道が現れる。ダンジョンフロアの変わり目だ。スピードを落とさず理想の動きに沿って操作すれば、全くオートバイらしからぬ安全な動きで坂を駆け上っていく。

 その横にユウヒが降り立った。後ろに置いていったと感じるのもつかの間、次の瞬間には横を併走している。




 ――どうみても足の動きは、普通に走っているのと大差ないというのにな……。




 横目でその様子を見ながら、思わず考える。

 人間に出来ていい動きを完全に超えてしまっていないか、コレは。

 ユウヒのほうはこちらに目もくれず、真っ直ぐ顔を前に向けたままだ。


 その姿が再び消えたかと思うと――ガァン、と天井を打ちつけるような音が響いて。




「ゲアアアアァァァアアァ!!!」




 そんな波打つ叫び声とともに、頭上に何かが降ってきていたが――その何かは速度に置き去りにされて、ヤシャマルの頭に当たることは無く。背後でどすん、と何かが墜落する音がしたのみだ。

 そして隣には平然として走るユウヒの姿がある。




 ――なんだこれは、新手のホラーか?




 右へ、左へ。勝手に視界に入り、どこかへと消えるその姿に、なんともいえぬ感慨を抱きながら。

 ヤシャマルはただ、今自分のすべきことを精一杯成し遂げようとするのみである。

 そのためには。『仙人の道しるべ』を遺憾なく発揮し、『デンゲキライジング』の速度を緩めることなく動かし続け――最奥を、目指さなければ。


 今日、自分達にリーダーから課せられた仕事は、一刻も早くこのダンジョンを破壊すること、なのだから。





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