(16) 勇往邁進
【ヒガン:なんかすごいことになってるんですが】
【カラス:というと】
【ヒガン:滅茶苦茶爆発してるし滅茶苦茶槍ふってきてます】
【ヒガン:正直僕のポイントごりっといきましたよ】
【ヒガン:掠っただけだったのに】
【カラス:えっ】
【カラス:なんで食らってんの?】
【ヒガン:ちょっと他人がいるもので】
【ヒガン:うかつにアイテム使えません】
【カラス:気絶すんなよ】
【カラス:下手したらガチで1しか残らねえからな】
【カラス:つかそいつから離れたら?】
【ヒガン:気になることがあるので収まったら話をしたいと思いまして】
【ヒガン:探索組が何とかしてくれるまでとりあえず耐えます】
【カラス:ふーん、了解】
【ヒガン:そちらはどうです】
【カラス:問題ねえよ】
【カラス:入り口見つけたしヤシャマルとユウヒは潜ったし俺は無事隠れている】
【ヒガン:手伝いなさい】
【カラス:無理】
【カラス:リーダーそっち行ったから勘弁して】
***
「……こりゃすげーな」
地上に出てきた第一声、同盟『クレィジィ』のリーダーである男はそう呟く。
自分達が地下に潜る前までは綺麗な青空だった場所が、白く染まっている。
いや、白い槍に覆われて見えなくなっていた。
そして、『ヂャッジスト』での自由な往来を封鎖するように聳え立つ、強大な壁。
『威圧の城壁』の効力であることは分かるのだが、しかしまぁ、こんな大きさのものを見るのは初めてだった。
どのくらいMP注ぎ込めば作れるんだ、これは。
――後でアカネに聞いて、データの数値化してみるかー。つーか色々試してもらってもいいかも、法則性から計算式出せたらデカイしな。
のんきにそんなことを思っていると、突然空の白がこちらに迫ってくる。『永久の遑』が発動されたのだ。
自分の顔面に向かって振ってきているようにも見えるそれは、中々の恐怖を煽る映像だったが。
リーダーはあせることなく『権力の無効化』を発動すると、背中に背負った愛用の大剣『ゲッコー』引き抜いて。
「よいしょっとぉ!!」
なんともおっさん臭い掛け声を上げながら、自分の頭上で大きく一回振り回す。
その大剣の軌道にそって空中に黄色い光で出来た輪が彼の頭上に煌いたかと思うと――次の瞬間、『永久の遑』の槍の何本かがそこに当たった。
都市を食い破る強大な攻撃力を誇るそれは、しかし光に当たった先からは綺麗に消滅し。結果としてリーダーの立ち位置から半径数メートルにわたり、槍の刺さらないままとなった地面がそこにはあった。
「……んー? 空がまだ白いってことは……アカネのやつ、連続で『永久の遑』ぶっぱしてんのかー?」
落ち着いた様子で大剣をしまい直す。今日は普段と違ってマントを着ている。その上に大剣の鞘をつけたベルトを装着しているのでかなり見た目は不自然なのだが、本人はそんなことはどこ吹く風だ。
今自分がいる場所は、『威圧の城壁』で作られた壁の内側。
アカネがモブとそうでないものを仕切るために発動した魔法のはずだから、こちら側にはモブが大量に集まっているはずだ。
『マップ作製』と『動作探知』を使い、状況を確認する。
作戦通りそういった形で分けられているようだが――こちら側に入り込んでしいるプレイヤーも、やはりいた。
つーか1人、アカネのいる場所のすごく近くに来てんのがいるみたいなんだが――そう思って処刑台ロッカクを見上げると、突然そこが爆発しだした。
2度、3度。それは留まることなく鳴り続け、そうしている間にも次の『永久の遑』が降り注ぎ始める。
もう1度先ほどと同じ行程を繰り返しながら処刑台ロッカクの様子を伺い続けるが、止まる様子はない。
何が起きているのかは分からないが、湯水のごとくMPを消費しにいっているのは理解できる。
随分と、なりふり構わない戦い方だ。
アカネらしくない――いや、寧ろらしい戦法と言うべきか。
質より量ってのは、ああいうやり方をのことだろうと思う。
こちらの同盟のメンバーは確かに頭数は少ないが、スキル量だけならどこにも負けない自信はあった。
『永久の遑』の雨を適当に避けながら先へ進む。
目指すのは、『マップ作製』で赤く表示されている点の部分――他プレイヤーが存在している場所、である。
道中何度も、倒れているモブやプレイヤーを見ることになった。
ポイントを削られすぎたか、或いは頭に『永久の遑』が直撃したのか。全員が『気絶』状態になっているらしく、そのままピクリとも動かない。
少し考えて、アイテムポーチから『写真完璧マン』と言う名前のカメラアイテムを取り出す。
倒れ伏している人々を撮影しながら歩みを進めた。
また、カラスに記事にするときにでも使ってもらおう。あいつ、今地下で縮こまっているせいでこの光景の写真ゲットできないだろうし。
こんな風に全員気絶していてくれりゃあ、俺の出番なんか要らないんだけどなーと思うも――世の中、そう簡単にはいかない。
処刑台ロッカクから、100mほど離れた場所。少し開けた広場になっているところに、『永久の遑』の攻撃を防ぎながら立っているプレイヤー4人組を発見する。
腕に赤いスカーフを巻いているところを見ると、『恍惚たる鎮魂』のメンバーのようだ。
彼らは全員ウィンドウを開き、画面を見ながらあれこれと話し合っている。その表情には当惑や焦りの色があった。
まぁ、ここで向こうの会話を盗み聞きして情報を仕入れるというのも1つの手段なのだが。
今はそんな事をするつもりはない。
リーダーは再び大剣『ゲッコー』を両手に構える。大きく深呼吸して、目を見開くと。
まずはその4人のうち2人を指名して、『先制する宣誓』を発動し。『聖母の涙』と『勇者の証:大いなる剣』『一攫千金ギャンブラー』を自分に対してつけて、切りかかった。
2人が驚いたようにこちらへと振り返り――その表情を恐怖一色に染めた。
そりゃあそうだ――彼らの持つウィンドウには。
【『アカネ』が『宣誓する先制』を発動しました】
と、表記されているはずで。
彼らが見たリーダーの顔は――『光彩探知』で知れ渡った『大犯罪者』のものと、全く同じなのだから。




