表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/44

(15) Are you scared? I'm not.




 数について考える暇も無く、腕が動く。

 次に近くにいたそれに向かって、勝手に。

 ふらふらと、足が引き付けられる様に動いて。そこに現れた影を、振りかぶって切り捨てる。


 少年は目を見開く。

 相手に全く手ごたえが無かったからではない。そんなことは先ほどの倒した相手から簡単に予想が出来る。

 今この場にいる無数の影の殆どが、おそらくMPか何かを人型にして作られたフェイクの物体であることも、それを破壊することに、意味が無いことも。


 だというのに、何故か腕が、足が。

 自分の意志など関係ないように動き出す。

 一番近くにいる影に近づき、切る。

 その動きを繰り返す、繰り返す、繰り返す。




「――ッ!!」



 なんだこれは、と驚愕するより先に、ウィンドウが開いた。




【『アカネ』がスキル『オートマチック』を発動しました】




 始めてみるスキル――しかもこういった風に文章が出るということは、敵味方関係なく使えるスキルだということだが。

 この間にも『無我の爆砕(エグ・ダン)』による攻撃は止まらないし、相手の影も一向に減る気配はない。

 ここにきて、初めて。処刑台ロッカクについてから全く焦りを見せていなかった少年の表情が、変わる。




『――ろっ、ロード!!』




 唐突に、少年のウィンドウが開く。

 通話回線の向こう側から聞こえてきた声は、華奢な少女のもので。




『爆発、まだ大丈夫!? 今、アーベルが!!』




 その一言で、向こうで何が起きたのかは把握できた。

 舌打ちを鳴らして、少年は次の影を切りながら乱暴に叫ぶ。




「キッカ、ギルドに報告して! 『身内の肩代わり』の継続と、相手の能力!」

『はっ、はい!!』

「『大犯罪者』は魔法攻撃特化型のモノであることは間違いない、そして多分肉弾戦は苦手だ、僕の攻撃を受けた感じがあった!」

『なら、増援も――』

「呼ぶなら解析特化か無効化スキルに秀でているプレイヤーだ! でないと――」




 そこまで言ったところで、通話回線が落ちる。

 いや、落ちるというよりは――無理矢理、落とされた。


 開いたまま放置されたウィンドウに浮いた一文が、目に入る。




【『アカネ』がスキル『ジャミング!!』を発動しました、通話は切断されます】




「――クソッ!!」




 少年――ロードは思わず歯軋りをした。

 

 1人で特攻するということがどういうことかぐらい分かっているし、相手が得体の知れない何かだということも把握していた。

 思ったよりも簡単に攻撃が入ったようだったのが逆に不安だったぐらいだというのに――なんだ、この一度距離をとってからの『大犯罪者』の猛攻は。

 『ジャミング!!』というスキルも初めて見たが、今の現象を無理矢理起こさせるものなのだろう。

 もう一度通話をつなごうとしようとしても、ウィンドウを操作することが出来ない。画面をのっとられているとかそういうことではなく、両手が刀剣から離れないからだ。


 今、ロードに自由に動かせる箇所は1つも無かった。

 手も、足も、顔も、視線も。何もかもが勝手に近くの相手を倒すために、こちらの意志などお構い無しに動いていく。

 一番近くにいる相手を選択して、切る。

 それだけの単純作業を操作することを設定付けられたシステムのように。

 ひたすら、ただひたすら繰り返していく。

 知らなくても、無理矢理理解させられる――これが『オートマチック』の効果なのだと。


 こんな――こんな、こちらの意思を全く無視した動きを可能にするスキルなんて、聞いたこともない! やはり相手は運営の作り上げた、こちらをロストさせるための敵なのか? 実にそれにおあつらえ向きなスキルなのに間違いは無いけれど――!!

 そう思っている間にも足に、腕に、力が入り。また新しい影を切る。

 自分のスタミナが少しずつ、しかし確実に削られていくのがわかって――ロードは、その根底にある狙いに、たどり着く。




「――僕のスタミナが切れるまで、強制的に動かし続けるつもりか……!」




 確かに、ロードに対して発動されている味方からの『身内の肩代わり』が切れない限り、倒れることはない。

 そしてそれがそう簡単に切れることがないのは、よく分かっている――所属するギルドの人数も、今回の作戦でその役割を担うプレイヤーが何人いるかも。

 たとえ今も尚受け続けている『無我の爆砕(エグ・ダン)』によって強制的に気絶判定になったとしても、所詮は一撃ずつしか食らわないのなら相当持つ。


 だが、アイテムも何も使えない状況で、回復手段のない状態で。

 ましてやここに跳躍するために、それなりのスタミナを消費した身体で。

 何人いるかもわからない敵を倒し続けるのは。




 そう思った矢先。

 『野生の第六勘』で感知している敵の中に――こちらへと近づいてきたものがある。




「――!!」




 近場の影を数対倒した後には、ソレが一番近くにいて。

 ロードは引き寄せられるようにそちらへ向かい、それを切っていた。




 だが――手ごたえが、ある。




 その目に見えたのは、先ほどまでのような影ではなく、『大犯罪者』の本体。

 無表情な女性のアバターが、何の感情も読み取れない冷めた視線でロードを見つめている。


 何故出てきたのかが分からず混乱する。一度姿を消して奇襲を仕掛けるでもなく、またしても普通にダメージを受けに来ている、だって?


 ロードの握る『両刃剣シータ』は、確かにその腹を切り裂くように動き――それの腹のど真ん中辺りで、止まった。

 『夢現のハナ(カレイドゥ)』を使ってきているから、それを利用して止めてきているのはわかるが、腹部に刺さっている以上ダメージが入っているということだ。

 そんな段階で止めても意味なんて無いはずなのに――そこまで考えたロードの両手に、相手が剣に触れた感覚が伝わる。視線を下げて何をしようとしているか確認しようにも、身体は動かせない。




 次の瞬間、『両手剣シータ』が手の中から消えた。




「――!?」




 いや、消えたのではない――視界の端にうつった、緑色の破片。

 この感じは、破壊されたのだ。圧倒的な魔力でもって。

 『大犯罪者』の顔が何故か笑ったように見えた。


 アイテムポーチには武器のストックがある。しかし、そこに手を伸ばすことは許されない。

 剣を失った両手は勝手に握り拳を作り、『大犯罪者』の顔面を殴ろうとする。

 しかし見えない壁にさえぎられたかのように不自然にその力は失われ――逆に殴られたかのようにロードは弾き飛ばされ、距離をとらされる。


 またさっきのように『夢現のハナ(カレイドゥ)』で反射したようだが、今度は処刑台ロッカクから振り落とされるほどの勢いはない。

 寧ろ留まってしまったことで、本体よりも近くになった影に対して――また、身体が勝手に殴りかかっていく。


 素手での攻撃でも殴られた影は一撃で霧散するが――先ほどよりもスタミナの減りが、早くなる。

 武器でのスタミナ軽減スキルは発動しているが、素手格闘用のものは今つけていない。切り替えようと試みるも、




【『オートマチック』発動中のため、スキルの付け替えは出来ません】




 こんな無常な文字が、ウィンドウに浮かぶだけだ。




 笑えない、本当に笑えない。

 こんなの、まるで僕のほうが――同じ動きを繰り返すことを強制付けられた、モブみたいじゃないか!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ