(12) Formidable
自力でやってくるというのなら、普通に打ち落とすまでだ。
発動する魔法は、『永久の遑』。先ほどは都市に向けて使ったそれを、今度は向かってくる人物に対して指定し、迷わず放つ。
槍に象られた魔力は瞬時に発射され、飛んでくる人物を貫かんと進む。
しかし、その人物は腰元に手を構えたかと思うと、槍が正面に飛んでくるタイミングに合わせて腕を振りぬき――握った刀剣で、『永久の遑』を真っ二つに切り伏せる。
その光景に、アカネはこの相手がかなり自分にとって面倒くさい部類の人間であることを看破した。
魔法を切る。ソレを可能にするスキルは、確かに存在する。が、空中という不安定な姿勢でもためらい無くやってのけてきたということは、おそらく武器攻撃系のスキルも充実しているということだ。
鞘から抜くのと同時に切ってきたということは、居合い系のスキルと重ね合わせて使ったのだろう。見た感じ普通の西洋風の刀剣を使っているようなのに、そういった動きが出来るということはスキルで無理やり可能にしているのに間違いない。
ならば次は、範囲攻撃。
固形をとらない爆発エフェクトの無属性魔法『無我の爆砕』を発動する。
相手の移動するタイミングに合わせて、空中にいるときに丁度当たるように調整し――相手が飛び立った瞬間に、魔法を行使した。
空中にいる相手が避ける暇など無く、爆発が起きる。
威力調整はしていないが『聖母の涙』を使っている以上大丈夫なはずだ、と思いつつ様子を確認するが。
しかし、そんな心配など無用といわんばかりの動きで。
相手はまるでダメージなど少しも受けていないかのように。爆発などはじめから存在していなかったかのように。
普通に次の建物へと降り立ち、そのままの勢いで走りぬけて飛び上がってくる。
刀剣は再び鞘にしまいなおしているようだ。
どういうことかと一瞬頭を悩ませたが、彼の右腕に赤いスカーフが巻かれていることに気が付き、すぐに納得が行く。
――『恍惚たる鎮魂』のメンバーならば、誰かが『身内の肩代わり』を常時彼に対して発動していてもおかしくない、と。
狙いはすぐに分かる。
正面から攻撃を受けるのは覚悟の上、そして自力で打ち落とせる分に関しては全部はじき、不可能な分はその誰かが受けきってくれることに期待して突っ込むつもりなのだろう。
こちらの攻撃で自身たちのポイントが削りきられるという警戒をしていないのか、ギルドの規定で多少そのあたりの制度を変えているのか。
――どっちみち、やり辛い。
アカネは眉を顰めた。
まだしなければならないことがある最中で、早々とこんなプレイヤーが接近してきているというのは――実に、都合が悪い。
さりとて今のやり方で止められないというならば。
――無理やり落とすか、時間稼ぎをするか、かな。
選んだのは、後者。
アカネは『心を削る断罪』の消費MPを適度な低さで設定すると、思いっきり連射しだした。
打つ、打つ、打つ――際限なく、打ち続ける。
その数は、10,20,30――数える暇も無い速度で増えていき。
丁度建物に着地した相手――少年めがけて飛んでいく。
彼はその攻撃を見ると、再び剣に手をかける。
そして抜くと同時に飛んできたビームのような砲撃を切り裂き、腕を返すようにして第2陣もなぎ払う。
さらに右へ、左へ、また右へ。
目の前からいくつも迫る『心を削る断罪』を、彼は1つの漏れも無く切り裂いていく。
乗ってくれてありがたい、とアカネは思う。
『心を削る断罪』が込めるMP量に依存してそのダメージを変える技であり、そうであることを知っているからこそ、、彼はそうせざるを得ないのだろう。下手に滅茶苦茶な火力のものが混ざっていれば、ギルドの崩壊に繋がりかねない。
無視して突っ込んでこないというのならば、次の目標だ。
スキル『天才の限界突破』を発動し、左手でも魔方陣を展開する。
使う魔法は、『威圧の城壁』。指定する場所は、『ヂャッジスト』の都市、この処刑台ロッカクから半径3kmといったところか。
『マップ作製』で確認する限り、一定の速度で移動している人並みの最後尾に当たるところ――モブキャラクター達の存在している範囲のギリギリ外側あたりだ。
今いる場所から綺麗に円を描くように、発動場所を指定し――『卓越した能力:魔法』と『乗算戦法』の使い慣れたスキルコンボを使用すると、『威圧の城壁』を展開した。
ゴゴゴ、と言う地鳴りが5秒ほど鳴り響いた後。
突如地面から飛び出た、白い壁。
それらは急速に高く、高く伸び上がり――あっという間に100mほどの壁となって、『ヂャッジスト』の内部を外側と内側に分断する。
これで、外側に取り残されたプレイヤーがこちらに入ってくることはかなり困難となったはずだ。
――今も尚『心を削る断罪』をはじき続けている彼のように、上から来るとなると止めようはないが。
少なくともこちら側に囲ったことで、地上のモブはそれなりに守りやすくなった。
あとはあの人物を、なんとかするだけ。
こうして延々と『心を削る断罪』を打ち続ければこれ以上は寄って来れないかもしれないけれど――そう思いながら向こうの様子を確認し。
アカネは僅かに目を見張った。
なぜなら、少年が『心を削る断罪』を切るのをやめて、まさしく文字通り――こちらへと特攻を、仕掛けに来ていたからである。




