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(8) オリジナルも続きすぎると名前が考えられなくなるんです




「そうですか。まぁ、気が変わったら何時でも連絡してください」




 少し残念そうな顔をして、ロードは言う。

 どうだか、とヒガンは思う。少年キャラの癖に敬語で会話を回してくるあたり、本当はどう思っているかなんてさっぱり分かったものじゃない。

 だって僕みたいなものでしょう、彼も。


 ヒガンと同じように、自身のウィンドウの時間を確かめたロードは、表情を真剣なものへと変えて。




「キッカ、そろそろだ」

「う、うん……分かってる」




 背後にいる少女にそう声をかける。

 キッカは慌てたように、今まで斜め倒しで持っていた杖を真っ直ぐにし、とん、と先を都市のコンクリートについて。




「――『光彩探知(ラスタァ・アイズ)』」




 誰かに聞かれることを恐れるかのように、小声で唱える。

 すると、彼女の周りにふわり、と複数の白い光が浮く。それらはまるで意志を持っているかのように彼女の周りを2~3回飛び回った後に、急な速度で都市の人並みへと飛んでいく。


 いや、こんなことをしているのはキッカだけではない。

 そこらじゅうが、『光彩探知(ラスタァ・アイズ)』の光で溢れている。

 見れば、ちらほらと同じ呪文を発動しているプレイヤーがいるのがヒガンの目に入った。

 これがまたどいつもこいつも、お決まりの赤いスカーフを巻いている。


 光属性魔法の『光彩探知(ラスタァ・アイズ)』は、その光1つ1つがカメラ機能の代わりになっている探索魔法だ。今キッカが飛ばした複数の光の玉の行く先々にある光景は、全て彼女の頭の中では現実で見ているのと同じような感覚で展開されているはずだ。

 沢山の風景を一気に見ることになるわけだが、生憎この魔法をヒガンは使ったことが無いため、どんな感じに見えているのかは分からない。同時にテレビを何台もつけているような感覚なのだろうか。


 とりあえず。どうやら今、都市『ヂャッジスト』にいるギルド『恍惚たる鎮魂』の人員で、この魔法持ちの人間は全員使っているのだろう。

 顔面に向かって飛んできた光の玉を思わず避けると、ロードがくすくすと笑ってくる。

 いや、別に顔に当たっても大丈夫なことぐらいは分かっていますよ。




「おっと、これはまた失礼。どうやらウチのギルドに、操作が下手な者がいるようですね」

「いえ。見事なまでの人海戦術ですね」

「元々それが、ギルド発足時の狙いだそうで。僕も、こんな風に作戦の元動くのは初めてなので、この光景ははじめて見ましたけど」




 そういいながら、ロードは自身の近くに寄ってきた光の玉をぽん、と手で軽くはじく。

 軌道をそらされてふらふらと飛んで行くそれを見ながら、他の4人はこの光をどうしているのだろうと思う。

 隠れているのか、見つかっても構わないと堂々としているのか。

 とりあえず、フランクに話しかけてくる向こうに合わせて、こちらも会話を続ける。




「流石にこれだけ目がある様な状態では、『大犯罪者』もこそこそすることは出来ないでしょうね」

「こそこそするとも思っていませんけどね。ウチとしては、登場するであろう相手をいち早く見つけたいだけなので。正直モブの方々が自動追尾弾みたいな状態なので、どう転んでも発見は可能ですし」




 ――自動追尾弾とか、その手の言い方がもう僕と合わないんですってば。




 別にそんな文句をロードに言ったことはないが、思わず心の中で毒づく。




「成る程。何においても先に行こうと言うわけですね」

「そうなりますね。それに加えて、『光彩探知(ラスタァ・アイズ)』を使用していない面々で、探査系スキルを発動しています。それぞれ何を取得しているかによってちょこちょこ違いますけど――これでもギルドで探索場所に穴が出来ないよう、人員を配置しているみたいなんです」




 そういって肩をすくめるロードや、すっかり喋らなくなってしまって置物と化しそうなアーベルも、何らかのスキルを使っているということだ。

 探索系スキルも種族を指定して発動するものや全ての生き物を対象にとるもの、或いは自身からの距離を元に範囲が決まるものなど本当に色々あるため、それぞれが一番得意とするものを使用しているのだろう。


 と、そこまで喋ったロードは何かに思い当たったかのように言葉を切ると、こちらの姿をまじまじと見て問いかけてくる。




「貴方は?」

「はい?」

「いや、探さないんですか? 『大犯罪者』」




 ――ああ、確かにその通りですね。




 ダンジョンの入り口を探そうとしているそぶりすらしていない現状、その手の行動をとらなければ不自然だろう。

 探索系スキルは無くはないが、生憎モンスターを対象に取れるものしかもっていない。別にモンスターだと思っていますで発動してもいいかもしれないが、自身のキャラ的にそれが理由だと弱いだろう。

 モノヅクリを愛するプレイヤーとしては、やはりアイテムを使っているほうが道理として合う。




「そうですね、これで探します」




 そういって、ヒガンがアイテムポーチから取り出したのは、三脚の無い望遠鏡のようなもの。

 手で持つには少々大きすぎるそれは、ヒガンのオリジナルアイテム『試作品望遠鏡κ』。

 戦闘能力やそれを支えるスキルが圧倒的に足りないのを補うため、狂ったように望遠鏡アイテムの試作に勤しんでいたときの一品だ。それが見たことのないものだと気が付いたのかもしれない、ロードが表情に僅かな驚きを滲ませながら話しかけようとしてきたが、




「――えと、残り1分、です」




 そのキッカの声で、場が一気に張り詰める。


 いつの間にか、周囲から絶え間なく聞こえていた話し声は止んでいた。

 プレイヤーは皆無言になり、魔法に、スキルに、集中しており。

 響いているのは、モブキャラクター達が規律正しく足を上げて都市を闊歩する靴音だけ。


 言葉をしまって都市内部をロードが見渡し始めたのを確認すると、ヒガンもまた『試作品望遠鏡κ』を覗く。

 本来の望遠鏡と同じように遠く離れたところが見ることの出来るアイテムだが――実物と違うところは、スキル『マップ作製』と組み合わせることでどこを拡大するかを自由に選べるという部分だ。

 『光彩探知(ラスタァ・アイズ)』の下位互換だといわれればそうかもしれないが、範囲に限界が無い、MPの消費がないというだけでヒガンからすれば優秀なアイテムである。


 望遠鏡を覗きながら、場所を指定する。

 アカネがどこに降り立つつもりかは、前もって聞いているので知っている。

 実際にその建物がある位置とは見当違いの方を向きながら、ヒガンはその場所に焦点を合わせた。


 彼女は言った。

 できるだけ都市が見渡せるところで、誰からの目にも入るところ。

 時間ぴったりに、そこに現れると。


 そして、既に秒読みでカウントに入っている時刻は――もうあと数秒で、そのときを迎える。




 3秒前。

 ヒガンは望遠鏡を握り締める。

 現実ならば汗をかいているであろう手のひらで、強く。


 2秒前。

 ヒガンはすう、と意識して息を吸い込む。

 大丈夫だ。彼らは、『恍惚たる鎮魂』は、何も言わなかった。


 1秒前。

 ヒガンは肺にたまった空気を一気に吐き出す。

 つまり、僕の仕掛けは――暴かれなかった、ということだ。


 0秒。

 目の前に広がった光景を見て、ヒガンはその口元に笑みをたたえる。

 誰にも見つからないように、静かに。




 時計の表示が10時丁度になった、その瞬間。


 全員の緊張が一体になるのを見計らったかのように――都市全体に、爆音が響き。


 何だ、と誰かが叫んだかもしれない。

 だが、それが誰のものかを判別するよりも先に。

 『ヂャッジスト』は突如、黒煙にその姿を飲み込まれた。




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