表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/44

(1) 【新ダンジョン開放のお知らせ】





【12月1日 9:00 [予告]新ダンジョン開放について


 平素より『ラスト・カノン』でのプレイをお楽しみいただき、誠にありがとうございます。


 11月30日現在、キラー討伐数は940体となり、いよいよ4桁の大台が目の前に差し迫ってきております。

 今現在、キラー討伐数を10体数えるごとにポイント報酬イベントをお届けしておりますが、次回のイベントについては【4桁目前スペシャル】としまして、普段とは違う趣向のイベントを開催いたします。


 キラー討伐950体記念として、【新ダンジョン『地下帝国メトロポリシタン』】の開放、及び【イベント『復讐の狼煙を挙げよ』】が開催されます!


 イベント参加条件は、【950体目のキラーを討伐した翌日の10時ちょうどに都市『ヂャッジスト』の内部にいること】となっております。


 新ダンジョンの開放とイベントの開催に、何か関連性はあるのか?

 果たして一番最初にクリアするのはどのプレイヤーなのか?


 皆様の挑戦をお待ちしておりますので、どうぞご参加ください!


 VRMMORPG『ラスト・カノン』 運営一同】




 12月1日、キラー940体討伐のポイント報酬イベントである『チャンスを逃すな!渚のマーメイド撮影大会』が開催される1時間前。


 今日も『ラスト・カノン』で生活しているプレイヤー達のもとに、そんなお知らせが届く。


 新ダンジョンの開放、そして普段とは違うイベントの開催。

 そこに書かれた予告文に、しかし何時もならば大半の人間が興味すら持たず、その画面を閉じているだろう。


 新しいスリルや高揚感を求めてダンジョンを散策したりアイテムを探しにいこう、なんて考え方は主流ではない。下手にダメージを受けてポイントを全て失えばロストしてしまう現状ならば、失敗しない毎日を選ぶのは特に間違いではない。


 だが。

 今回のこのお知らせは大半のプレイヤー達に興味を持って読まれ――彼らの危機感を煽っていた。


 もしかしたら、今回は。自分達も何かしなければロストするかもしれない、という危機感を。




***




「ねぇ、見たよね!? 今回の予告!!」

「見た見た、ヤバくない!? やっぱあれ、本物ってこと!?」




 ――都市『ユートピア』にあるジャンクフード店、『ニッカポッカ』。

 ポイント報酬イベントが開かれているためか何時もよりは人の数はまばらだが、それでも店内の席はほとんど埋まっている状態だ。

 そこに朝食をとりにきたのか。女性が2人、店の中へと入ってきながら会話をしている。


 案内すら待たず空いている席に勝手に座った2人は、水を持ってきたモブ店員にお決まりのメニューを注文すると、先ほど外で買ってきたばかりの雑誌を広げた。


 それは『イェッサ!!』という、この世界で最も読まれている週刊雑誌なのだが――過去最大の売れ行きを記録している今回号の表紙には、でかでかとした赤文字でこう書かれていた。




『裏イベント『大犯罪者の討伐』の噂は本当なのか!? 突如表れた【緊急事態】の怪!!』




***




 ――数日前。全プレイヤーのお知らせ欄に突如として現れた、【緊急事態】の文字。




【『大犯罪者』が都市『ヂャッジスト』に表れました】




 その一文が表示されたのは、実に2年ぶりの出来事だった。

 『ヂャッジスト』に常駐しているプレイヤーは基本的にいない。ギルド『恍惚たる鎮魂』の有志がたどり着いたときには既に都市は通常と変わらない様子になっていて――故に、それが本当かどうかを確かめられる人間はいなかった。

 多少の驚きはあったものの、バグや間違ったお知らせだったのではないのか、という結論でプレイヤー達の考えは収束しつつあったのだが。


 次の日。今度は都市『サイコマウス』に、『大犯罪者』は降り立った、のである。

 そちらには常駐のプレイヤーが何人もいた。彼らの証言は瞬く間に広がり――『大犯罪者』の存在が嘘ではないということを、プレイヤー達に示した。




『……――


 【緊急事態】が出たとき、都市の様子はどうでしたか?


「い、い、いきなり都市のモブたちが目の色変えて、一斉に『王都の破壊者を許すな!』つって、どっかに向かって走り出したんだよ!!! 俺の目の前で研究成果の発表してた科学者のじーちゃんも、それを聞いてた若そうなモブも!!! 皆ロボットみたいにおんなじ動きして!!!」


 その時、あなたはどうしていたんです?


「どうすりゃいいかなんてわかるかよ!!! 机とか椅子とか全部なぎ倒して皆走ってくんだぞ!?」


 落ち着いてください。あなたはどうしていたのか、を教えて欲しいのです。


「机の下に潜って隠れてたよ!! ――お前はあの光景見てないからそんな顔できるんだ!!! いきなりゲームがバグったんじゃないかって思うぐらいおかしかったんだよ!!! 暫くしたら平然とした顔して戻ってきて、何もなかったみたいに発表の続きをやり始めたんだぞ!!!」


 ――……』




 そんなある男の悲痛なインタビューも、『イェッサ!!』には載っている。


 そして。その登場は『サイコマウス』では終わらず、次の日、また次の日と別の都市に現れたという【緊急事態】が発表され。

 自然と、それが嘘ではないことを知る人間が増えていき。

 その恐怖が現実となって、全員の思考に浮かぶようになっていき。


 ――そこで、まことしやかに囁かれるようになったのが『裏イベント』の噂である。




『……――


「近々行われるイベントに、実は『大犯罪者』が暴れるというものがあるのではないか、と。……僕は、そう思っています」


 そう明かしたのは、『ラスト・カノン』のスキルに精通するとあるプレイヤーだ。運営に消されかねないと最初は取材を拒否したが、我々の再三にわたる説得に、何とか重い口を開いてくれた。


「『大犯罪者』は存在こそ指名手配という形で認知されているものの、そのキャラに関するデータはほとんどありません。幻のレアキャラとも言われていましたが、ここ数日で急に活発な動きを見せてきている。これは、運営の仕掛けるイベントへの布石なのではないかと」


 布石というと、今後のイベントで『大犯罪者』の討伐があるということなのだろうか。


「いえ。今までの傾向から見て、表立ったイベントとして『大犯罪者』を取り扱うことはまずありえません。あの『王都の悲劇』のように、【裏イベント】に近い形で……何かをしてくるのではないかと、そう思います」


 その何かに関してはついに教えてくれなかったが、悪い予想であることには間違いない。

 顔色の悪さから、彼の思うところは記者にも想像がついた。プレイヤーのロスト。その範囲がプレイヤー全体に及ぶのかは、誰も知ることが出来ない域だ。


 ……――』




 その噂について記事として取り上げたのが、『イェッサ!!』という流通最大手であったことで、いよいよ『大犯罪者』はプレイヤーの間で持ちきりの話題となり。

 そして今日発表された新ダンジョン開放のお知らせが、その噂の現実味を後押しした。




「『大犯罪者』が最初に表れたのって、『ヂャッジスト』だったよね!? そんで、次のイベントそこって……モロだよ、モロにヤバイよ」

「普段とは違う趣向、とか、復讐の狼煙、とかさぁ。こんなのどう見ても暴れるじゃん!!」

「挑戦って、『大犯罪者』への挑戦って事? え、そんなん私ら死ぬって、もう戦闘の仕方とかほとんど覚えてない!!」

「けど、【裏イベント】ってことはさ、普通のイベントに参加してないプレイヤー全滅とかの可能性もあるって事でしょ……ねーどうすんのマキ、これ参加なの!? 逆なの!?」

「……わ、わかんないよ!! とにかく『恍惚たる鎮魂』とかが何するか発表してきてくれないと、私達だけじゃ方向性なんて決められないよ!!」

「と、とりあえず久々にフィールドとかに出たほうがいいのかな……戦い方だけでも思い出しとかないと」




 そんな話を。

 ありとあらゆるプレイヤーが、この『ラスト・カノン』で繰り広げていた。

 ここ数年、最早考えることもなかった自分の命の危機を。今更のように、実感していた。


 ほぼ全員が同じ話題を口にするなど、何時以来のことなのか。

 異様な空気が、プレイヤー達を支配していた。







【ヤシャマル:この記事、書いたのはカラスか?】


【カラス:b】


【ワタナベ:やべー俺すげー頭よさそう】


【カラス:もとの台詞軽すぎて信憑性ゼロだったからヒガンの口調参考にしたわ】


【カラス:ありがとうヒガン。今いないけど】


【ワタナベ:オゥ……ザッツトゥーバット……】


【ヤシャマル:カタカナで書いてしまうところが頭悪そうだな】


【カラス:あとバットじゃなくてバッドなんじゃね?】





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ